12.罰
翌朝、ウミュー、ネーデル、ベラトランシー、ミコトがドーシェの部屋に呼び出され、注意と、ミコトには罰を与えた。
「……以上。今後はこんなことが二度と起こらないように!」
「リーダー……ひどいですぅ……ミコトだけ罰を与えるなんてぇ……それなら、ミコトをそんなに怒らせたあの女にも罰を与えるべきですぅ!」
ミコトはベラトランシーを指差した。
ベラトランシーは「信じれない、あなたまだ自分が言ったことの重大さがわかってないの?」と言ったまま呆れていた。
「……ミコト、さらに罰を加えるぞ。決定事項は決定事項だ。早く部屋にもどりなさい。」
ドーシェがミコトの顔を見ずに言い切ると、ミコトは、わなわなと震えたかと思うと、「何でぇ!?」と一言言って走り去っていった。
ミコトの頬にはもうベラトランシーに叩かれた後は残っていなかった。
ミコトが抜け、静かになった部屋に、窓から差し込む優しい木漏れ日が揺らめいているのが見える。
「失礼しました。」と一礼をして皆ドーシェの部屋をあとにすると、食堂の前にウンネが立っている事に気が付いた。
「ウンネ……?」
ネーデルがウンネを呼ぶと、ウンネはまるで聞こえたかのようにこちらを向き、ネーデルを見た。
「ネーデル……無事でしたか?」
「ネーデルは……ね。」
元気のない声で力なく答えると、ネーデルはウミューとベラトランシーを見てから床に視線を落とした。
「元気だしてください、ネーデル。さ、朝食を食べて。朝食を食べたら出発ではないかと皆噂していますよ。それが本当なら、近々リーダーから連絡が来るでしょう。のんびりしている時間はありません。」
「うん……わかった。」
ネーデルは小さく頷くと、言われたとおりに行動した。
まだ戦闘の傷が癒えていない仲間が数人いる中、戦場へと赴く戦士達の足取りは重かった。
ミコトはいつになく不機嫌な顔で誰にも話しかけずに道を黙々と歩き、ベラトランシーは無表情のままランパイに話し掛けることもなく至って冷静に歩き続けていた。
「近い!」
誰かが声を上げる。
「敵数、ノチアクレア(500000ほど)!」
「距離、最短プルックリ(500メートル)!最長ネグレシア(300キロメートル)!」
「直径、ケルメニティーア!」
情報が叫ばれる中、ドーシェもさらに声を張り上げる。
「ベラトランシー、ランパイ、デテイ、クロー!シシェイ……は、いなかったな……とにかく!それらの毒攻撃を得意とする奴は陣を組んでくれ!」
「でも、リーダー!あたし達四人だけじゃちょっと足りないわ!」
ベラトランシーが抗議の声を上げたときには敵の群れがすぐそこまで迫っていた。
「とにかく、やるしかない!」
陣をつくり、敵の群れが固まってきたところで猛毒のガスやら液体やらがかかる。
「……お腹……減った……もう、我慢の限界です。いただきます。」
いきなりそうつぶやいたウンネは、ネーデルの脇をすり抜け、敵の塊にかぶりつくと、毒ごとそのまま平らげてしまった。
「な……!?」
呆気にとられているベラトランシーやランパイを余所に、ウンネは小さなゲップを一つすると、「あ、あなた方は食事の最後に、ごちそうさまと言うのでしたね。ごちそうさまでした。」と言って満足そうな顔でネーデルの横に並んだ。
「食べちゃった……の?」
ネーデルが目を見開いてウンネに尋ねるとウンネはどうってことないと言うような飄々とした様子で「はい。」と告げた。
「毒ごと……ウンネ、身体大丈夫?異変とか出てない?出てない?」
ネーデルが心配するのを余所に、ウンネは坦々と「人間であれば今ごろ死んでいるでしょう。ですが自分は人間でもなければ、変種を食らうもの。すでにこの世に存在している毒なんてどうってことないですよ。変種の体内で生成された新しい猛毒なら多少堪えるかも知れませんが……。」と告げて空を見上げた。
「ウンネは、強いんだねぇ……ネーデル、そんなことできないもん……できないもん。」
「できなくて当たり前のことだと思いますよ。自分の存在に近い変種は未だ確認されていませんから。」
すると、ネーデルは大きく目を見開いた。
「それって……ウンネは生まれてからずっと一人だったって事?事?」
「正確には自分という意思を持った生命体が生成されてから、ですが。」
ウンネはそう言うと頷いて何故そんな当たり前の質問をするのか?と問い掛けるような顔でネーデルを見た。
「寂しかったんだねぇ……つらかったんだねぇ……もう大丈夫だよ、ウンネは一人じゃないの、の。」
ウンネは理解できないという風に首をひねった。
「まぁいいわ。あたしが醜い姿になる回数を減らしてくれるなら。」
ベラトランシーはそう告げると、ウンネの頭に軽く手をおいた。
「ですが、あなたの役割を減らしてしまうことになりかねませんが?」
ウンネは、ベラトランシーを見た。ベラトランシーは、「いいのよ、それで。」とこちらに背を向けたままヒラヒラと手を振ると、どこかに歩いていった。
ウンネは、ネーデルを見ると、「あなたも変わっていますが、彼女も変わった人ですね。」と告げた。
どこまでも澄み切った瞳だった。
また人里に降りたとき、何時もどおり遊び組は遊びにでかけたが、ドーシェは、あたりに気を配っていた。
どうやらこの街には劔メンバーになりそうな人材がいるようなのである。
「やーい、化け物。」
劔メンバーをそうはやしたてる子供達が走っていったが、誰一人、その言葉に反論するものはいなかった。
あたりの人達にその人材がいそうな場所を聞くが、その人材の居場所がわかったのは、もうすっかり日が沈んでしまった後だった。
「ようやく、だな。」
ドーシェが疲れ切ったように呟くと、その家からは「やめて!もうやめてよ!出ていって!」という女性のヒステリックな声が聞こえてきた。
ドーシェが慌てて戸を叩こうとした時、扉が開き、中から子供が出てきた。
「……あ……。」
ドーシェが口を開いたとき、子供は死んだ魚のようなくすんだ目で、メンバーをとらえた。
その子は何も言わずに、メンバーを通り過ぎると、どこかに消え去ろうとした。
「待って!」
その少年を引き止めたのは、ネーデルだった。
少年は、何も感ぜずの目のまま、ネーデルを見返した。
「待って、ほしいの……の。ネーデル達の、話し、少しでもいいから、聞いてほしいの……。」
ネーデルが声を張り上げたのには、意味があった。
出会った頃のウミューと少年がそっくりだったのだ。




