第87話 これからの王国
この1年は多忙を極めた。
協会長選挙や暗殺未遂事件を始め、本当に大きな出来事があった。
未来が変わるターニングポイントになる1年だったという予感すらある。
「アシェル、まだ準備できていないの?早くしてよ!」
俺の家で少し立腹しながら急かしてくるのはマーガレットだった。
実はこれから、また大きなイベントが待っている。
今日は、なんと姉のカナディと婚約者のジャック・エルズが結婚する日なのだ。
王国における婚姻の儀は、両家と近い親族が一同に介して執り行うことになる。
宗教的なしきたりは特になく、ただ食事をしながら、二人が皆の前で抱負を語り、両家で見送るという単純なものだ。
こちらからは俺の家族にマーガレットを加え、参列することになっている。
紆余曲折を経て婚前契約を結んだのは1年前。
あれから二人は仲睦まじいままゴールインすることになった。
プリビレッジと平民の結婚。
これは極めて異例なことだ。
魔力を独占するプリビレッジは子供に魔力がないということを強く恐れる。
妾ならともかく、本妻に平民を迎えようなんて話、一度も聞いたこともない。
ジャック本人はカナディに夢中だったが、ジャックの両親たちが結婚に強く反対するものと予想していた。
だから、婚前契約を結んだのは良いものの、正直なところ、破談になることを想像してしまっていた。
だが、カナディから話を聞く限り、エルズ家から目立った反対も出ず、義理の両親からもそれなりに良くしてもらえているらしい。
「私も参加してよかったのかな?」
「大丈夫だよ。カナディはマーガレットのこと本当の妹と思っているから」
道中マーガレットは余計な心配もしていたが、こんなイベントはなかなかないため、とても待ちきれない様子だった。
そして、両家が一同に介し、いよいよ婚姻の儀が始まる。
初めて目にするエルズ家の面々をみると、穏やかな雰囲気で、人の良さそうな感じがした。
昔から見てきた横暴なプリビレッジのそれとは印象が全く異なっていた。
新郎新婦の二人が起立して前に出る。
「カナディのことを幸せにします。両家で末永く温かく見守ってください」
「私は今日からカナディ・エルズになります。不束者ですが、何卒よろしくお願いします」
新郎新婦が神妙な面持ちで挨拶する。
二人は正装しているので、普段とは見違える姿だ。
カナディは和風の着物に近い赤の衣装を着用し、お姫様と思えるほどキレイであった。
平民の婚姻の儀ではこんな豪華な衣装にはできないだろう。
その意味ではさすがプリビレッジとの結婚というところだ。
「カナディ、本当にキレイね!」
「そうだね。カナディのあんな姿みたことないから、僕もびっくりだよ」
マーガレットは目を輝かせ、カナディの晴れ姿にうっとりしている。
一方、俺の視線はカナディの首元にあった。
カナディの晴れ姿にさりげなく身につけられている黄色のペンダント。
あのとき、カナディは結婚して家を出ることにすごく不安を感じていた。
だが、それから4年の月日が流れ、ついに幸せを掴むことができた。
俺自身カナディが家を出ることに寂しさも残るが、それと同時に感慨深いものがある。
新郎新婦の挨拶の後、両家の父親がそれぞれ挨拶を行った。
その際、俺の父トシェルが突然号泣しだしたのが印象的だった・・・。
それからは特に堅苦しいこともなく、芸者が宴会芸を披露したり、両家が親睦を深めるべく、各々が個別に会話をし、大いに盛り上がった。
ところで、エルズ家の出席者の中に意外な人物がいた。
公証人のアレン・ロレックだ。
「ジャックとは親戚に当たるんだ。
まさか君とこんな形でつながることになるとは思わなかったよ」
「それはこちらの台詞ですよ。あなたのような人がエルズ家の親戚であったので、正直安心します」
アレンは俺の言葉にニコリと笑った。
エルズ家の面々は、プリビレッジの派閥ではハーモス派に属する。
ハーモス派も商業系プリビレッジとして権益を寡占しているため、平民の利害とぶつかり、代弁者協会に寄せられる相談は多い。
代弁者として直面する相手方は例外なく横柄な人物であり、その点はズレッタ派だろうが、ハーモス派だろうが大して違いはない。
「プリビレッジと平民は分かち合えると思うかい?」
突然、アレンが思わぬ問いを投げかけてきた。
「正直言うと分かりません。
なぜエルズ家が平民の僕たちを受け入れてくれていたのか未だに不思議です」
率直に思いの丈を話した。
それを聞いたアレンは鼻で笑う。
「エルズ家はプリビレッジの落ちこぼれなんだ」
「落ちこぼれ?」
「ああそうだ。特権というほどのものは大して味わったこともない」
アレンの目は遠くを見ていた。
エルズ家は、先々代の頃から、派閥の方針についていけず、完全に干されてしまった。
だから、今の世代はプリビレッジの利権もろくに回わされず、派閥の活動にもほとんど参加していない。
もちろん、プリビレッジとして魔力を納税し、余った魔力を市場で売却することもできるため、それなりに裕福ではある。
「私たちにとって、平民と共存していくのがずっと当たり前のことだったのさ」
彼らには身分という垣根が存在しない。
なぜなら、そんなものは生まれた時からなかったからだ。
アレンの言葉には王国の新しい姿を想起させるものがある。
プリビレッジと平民が対等な人間として生きることができる世界。
言い換えると、生まれ持った身分ではなく、法によって誰もが等しく守られる世界。
そんな価値観を当たり前のものに変えることができたならば。
いつか、そこまで辿り着いてみたい。
成し遂げていくべき目標が自分の中でなんとなく固まった瞬間であった。
これからもあくまで理想を追い求めていく。
そのためにも理解のあるエルズ家との結びつきは大きなものだった。
だが、そんなエルズ家においても、一つだけ看過しがたい重大な欠点があった。
「君があのアシェルかね?」
ジャックの父親であるスクリーン・エルズが少し黄昏れる俺に声をかけてくる。
「は、はい。今後とも姉のカナディをよろしくお願いします」
「じゃあ、そう思うなら飲もう。ぐいっと飲もう!」
このエルズ家の面々はどうやら相当な酒乱の気があるらしい。
周りを見渡すと、すっかりみんなできあがってしまっている。
この分だと、カナディが酒を嫌になってすぐに実家に戻ってくるかもしれない⋯。
最後に一つ心残りがあったものの、婚姻の儀はなんとか無事に終え、カナディは嫁いでいったのだった。
代弁者となってもうすぐ3年。
一人間として、一代弁者として様々なことを経験することができた。
だが、俺の掲げる目標はまだまだ遠い。
それでも仲間とともに理想を目指していく。
そして二度目の人生では、もう後悔しない。
俺は俺なりに、この世界で素晴らしい人生を生きていく。
それだけは、これからも変わらない。
第二部 代弁者編 完
あとがき
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
本話をもって、第二部「代弁者編」は終了となります。
物語としては、まだ描いていない部分があります。
三部以降、王位継承戦、魔法の秘密、そして、この世界の統治がどのように変わっていくのか。
第三部についても、大まかなストーリーは頭の中で描いています。
ただ、本作については、ひとまず第二部を一区切りとして完結としたいと思います。
本作は転生アニメ好きの著者がアニメのシーンを想像し、言語化したものです。
本作を書き進める中で、頭の中にある物語を文章として伝える難しさも強く感じました。
今後、この作品を読んでくださる方が増えたり、表現力に磨きがかかれば、第三部以降を「Season 2」として検討したいと思います。
そのときは、第二部までとは全く展開の違った物語を描くことになります。
全87話という長い作品にお付き合いいただき、ありがとうございました。
第一部 学院編
第二部 代弁者編
魔法世界の代弁者 完




