150.蜘蛛の糸を掴んでも
バイオハザードも終息してゆっくり書ける、ようやく日常が戻って来た喜びよ。
今回はまた討伐軍パート。
前日から食べ物がカビて軽くピンチになっていたが、原因を取り除かない限り何回でも同じピンチはやってくる。
しかし、現地で全く食糧が調達できないかと言われるとそうでもなくて……。
調達した奴が善意の持ち主なら、一番良かったんだよ……。
討伐軍は、再び慌ただしく動き出していた。
タカネノラが歌えなくなったことを受けて、これ以上物流を止めておく意味はないと、食糧輸送が動き出した。
こうなってしまっては、歌の効果が切れる前に少しでも多く運ばなければならない。
必然的に、多くの人が下層へ向かう。
そして、逆に上層に戻ろうとする者は少なかった。
歌が切れたらどうなるか不安で、いざという時は歌ってくれるかもしれないタカネノラの側にいたいと多くの人が考えたからだ。
結果、下層で必要とされる食糧はますます増えていく。
大人しく運ばれていく食糧が、それに応えられるとは限らないというのに。
夕食時になって、食糧の罠は再び牙をむいた。
「ああっダメだ、カビてやがる!」
「これも……こっちもだ!食えるやつが半分もねえぞ畜生!!」
必死になって下層に運び込んだ食糧は、今日も大部分がカビていた。運んできた兵士や人足たちは、それを見て肩を落とした。
「どういうことだ……水かけた悪い聖騎士のせいじゃないのかよ!?」
「ああ、おかしいぞ!この荷物はそいつがいる間に砂漠を越えてないはずだ」
たちまち、タカネノラの説明に対する疑問が噴出した。
タカネノラたちは、昨日食糧がカビたのはクレバーノが水をかけたからだと言ったが、今日のはそれで説明がつかない。
当のタカネノラたちも、これには困惑していた。
「ええ……何でこうなるの!?だって、クレバーノはもういないのに!
……いや、昨日のうちにクレバーノが仕掛けたのかもしれないわ。何て性格悪い奴!
でもでも、それなら明日以降は大丈夫なはずだから……」
タカネノラは相変わらず自分の間違いを頑として認めたがらず、クレバーノのせいにして喚いている。
しかしワイロンは、それでは済まないと感じていた。
「いやお嬢、それは違う!
明らかにクレバーノが触れていない荷物までカビてるんだ。クレバーノを責めたって何も解決しないし、このままじゃ明日以降も同じことになる!」
「何よ、怖いこと言わないで!」
「言わなくてもなるんだよ!!」
ワイロンがいくら諫めようとしても、タカネノラは楽な方にかじりついて動かない。それに、クレバーノのせいでないとして、他の原因が分からないのだ。
ワイロンと今ここにいる聖騎士たちだけでは、この問題にどう対処したらいいか見当もつかない。
不毛に言い争うタカネノラとワイロンを見て、パッショニオ以外の聖騎士たちの胸にこみ上げてくる思いがある。
(ああ……こんな時、クレバーノさんがいてくれたら!
どうしてあんな大事な人を見捨ててしまったんだ!?)
(クソッやっぱりパッショニオさんは何も考えてないじゃないか。
こうなるなら、あの時クレバーノさんを守れば良かった!)
自分たちの頭でどうにもならない難題を前に、タカネノラとパッショニオの考えがいかにいい加減だったか身に染みて分かる。
しかし、自分たちも保身のために止めなかったのだ。
それに、後悔しても問題は解決しない。
「それで、食糧はどういたしましょうか?
上から休まず運び込んでおりますが、タカネノラ様のライブ中止でしばらく止まっていたせいで、十分ではありません。
それに、運べば運ぶほど下で食う者が増えます!」
ここでも、タカネノラが駄々をこねて無駄にした時間が響いている。
それでも、タカネノラに有効な対策など思いつくはずもない。
「ええ……そんなん、自力で集めさせてよ!
ほら、森の階層には果物やキノコがあるじゃん。それを頑張って集めれば、何とかなるって……」
「昨日それをやったので、ダンジョンの恵みはだいぶ少なくなっております」
もはや、手の届く範囲に十分な食料はない。
「うえぇ……じゃあ、一食くらい我慢させてよ!
戦場なんだから、みんなそういう覚悟くらいあるでしょ!?」
「そんな!皆タカネノラ様の歌で強化される代償にいつもより腹を空かしているのですよ!?
そんな状態で飢えさせたら、どれだけ弱ることか」
そう言われても、タカネノラはその重大さを理解できない。
これまでタカネノラは、戦場に出ても歌い踊ってさえいれば良かった。そうすれば、勝利なんて簡単に転がり込んできた。
自分の歌と舞の効果についても、深く考えたことはなかった。みんな強くなって便利、としか認識していなかった。
副作用に対応するために周りがしていたことなど、考えたこともなかった。
だって、自分が考えなくても周りがみんなやってくれていたから。
「何で……何でみんな、私のためなのに我慢してくれないの?
何で、いつもみたいにうまくやってくれないの!?
私はここまで頑張ったのに、みんなで私を虐めて困らせてくる~!びぃえええ!!」
タカネノラは訳が分からず、誰かの助けを求めて泣くばかりだ。その助けをくれそうな誰かを潰してしまったのは、他ならぬ自分だというのに。
それに、いくら泣いたって事態は解決しない。
人が求めているのは感情を揺さぶる女の涙ではなく、物理的に消耗した体を癒してくれる食べ物なのだ。
しかしここで、途方に暮れる皆に救世主が現れた。
「ドクサレオ様が、食べられる肉を発見いたしました!」
もっとも、そいつは考え得る限り最も救世主などになってほしくない男であったが。
「おうてめえら、俺様に神よりも感謝して食えよ」
そう言ってドグサレオが引きずってきたのは、大きな黒い塊だった。わずかに見える羽の形と足の形で、それが鳥だと分かる。
その鳥は既にこんがりと焼けており、美味しそうな匂いを漂わせていた。
「まあ、そんなものどこから……!」
タカネノラが目を輝かせて駆け寄ろうとすると、ドグサレオは嫌味っぽく言った。
「こいつを食うなら、いい加減なこと言ったのを謝ってもらおうか。
なあ、こいつを一人で焼き鳥にしてた聖騎士さんによぉ?」
ドグサレオの嫌味は、パッショニオに向いていた。
「何がとんでもない悪霊だ。何が俺しか倒せないだ。こんなもん光以外の攻撃なら普通に通るデカい鳥じゃねえか!
なのに見た目に騙されて下手に進軍止めやがってよぉ。
こんな時にそんなヘマするほど、聖騎士様の目は節穴だったとみえる!」
16階層でパッショニオが力を使い果たして悪霊と思しき魔物を排除した後、後続として攻略しようとしたドグサレオがその正体を見つけた。
パッショニオの炎を食らって瀕死状態で通路に落ちていた黒い塊……それは物理攻撃で普通に倒せる、羽がとことん光を吸収するだけの鳥だったのだ。
つまり、パッショニオが俺しか倒せないと考えて一人で大暴れしていたのは、全くの無駄でしかなかった。
「は……そ、そんなはずは……いや、あの黄色いデカい目と青い口は!?」
慌てる聖騎士たちの前で、カーリーンと数人の修道女がそいつの亡骸を引っ張って広げて見せた。
すると、ちょうど正面から見ると顔のような配置の黄と青の羽が現れた。
「こことここの飾り羽を見せると、正面からは顔のように見えまする。
そして腕に見えたのはおそらく、両側に広げた翼。全身の羽を立たせて体を丸く見せれば、あの時の姿になりますな」
カーリーンの言う通りだった。
パッショニオは奥で休んでいるため反論できなかったが、こうして物的証拠が出て来てしまうともう言い訳できない。
「そんな……あんなに、脅威だと思ったのに!」
他の聖騎士たちは後悔したが、後の祭りである。どんな理由を並べ立てても、パッショニオと自分たちの判断で失った時間と労力は戻ってこないのだ。
恥ずかしくて悔しくてたまらない聖騎士たちの脳裏に、クレバーノの顔が浮かんだ。
(こういうのでも、あの人なら見破れたかもしれない。
俺たちは、何て人を見捨ててしまったんだ!)
ドグサレオは得意になってタカネノラに威張り散らす。
「ほーれ見ろ、おまえの連れてるボンクラ共より俺の方が役に立つぞ!
なあ、俺の力が欲しいか?欲しいよなぁ?歌も歌えず聖騎士も役立たずだったら、もうおまえは何もできないもんな。
俺ならもっと助けてやるぜ。だから……涎垂らして俺に股開けや!」
「ひいっ!?」
タカネノラは、青くなって後ずさった。
こいつの言うことなんて、聞きたい訳がない。こんな奴の女になったらどうなるかは、火を見るより明らかだ。
「い、嫌よ……あんたこそ、身の程をわきまえて差し出しなさい!
私を誰だと思ってるの!?」
タカネノラが逆にすごんでも、ドグサレオは余裕だ。
なぜなら、ここで物を言うのは名声や立場などではないと知っているからだ。
ここで意味を持つのは、いかに実際に働く者に実益を与えてやれるか。食糧や、これまでタカネノラがもたらしてきた強化などだ。
しかし、タカネノラは歌えなければもう出せる手札がない。
いや、ない訳ではないが……こうなってしまったからこそ、失うことを恐れて出し惜しむ。
それでは、兵士や人足たちの心がタカネノラから離れるのも時間の問題だ。
一方のドグサレオは、全軍が今切実に欲しているものを発見し、分け与えることができる。食糧不足の軍で、これは大きい。
その差が分かっているから、ドグサレオはタカネノラに何を言われても動じないのだ。
「いいのか?謝るなら、俺たちが確保したこいつらの肉を分けてやるぜ。
でなきゃ、今日教会軍は何を食うんだろうな?でもって、明日から力が出なくて手柄も俺たちが総取りか?」
他の軍が気づく前に手の届く範囲の鳥肉を独占したドグサレオは、それをぶら下げてタカネノラに謝罪と服従を強いる。
しかし、傲慢と強情ではタカネノラも譲らない。
つんとそっぽを向いて、冷たく断ってしまった。
「フン、要らないわ、そんなもの。
私たちはね、欲望なんて汚らわしいものに屈したりしないの。私と神を信じる心が、そんなもので釣れると思わないことね!」
「ああそうかい、てめえが撤回して這いつくばるのを待ってるぜ」
その瞬間、教会軍の末端兵や荷運びたちが浮かべた絶望の表情は、タカネノラの目になど入らなかった。
人々が涎を垂らして欲する大事な糧を、ドグサレオは分けることなく持ち去ってしまった。
これを見て、イシアタマンとカーリーンは複雑ではあったが希望を持った。
「おお、ドグサレオもやるではないか!
そうだ、世のために役に立てるのは教会だけではないのだ。
あれを我らで分け合って教会軍と差をつければ、教会軍も穏やかではあるまい。そこを突けば、あのわがまま娘も改めざるを得なくなるだろう!
人はそれぞれの強みを生かして、支え合うものだ。あの小娘に教えてやらねば!」
「ええ、誠に……できれば最善でありましょう」
これまで討伐軍は、タカネノラの恩恵を受ける代わりに、タカネノラのわがままに振り回されてきた。
そして今、タカネノラは恩恵を与えられなくなったのにわがままを続けている。
イシアタマンもカーリーンも、これは筋が通らないと苛立ちを募らせていた。
しかし、それを正面から指摘して耳を傾けるタカネノラではない。むしろますます癇癪を起し、もっと横暴になるばかりだ。
タカネノラがそんな態度を取り続けられる理由は二つ。タカネノラを信じ従おうとするファンが多いのと、タカネノラを慕い守る聖騎士たちの存在だ。
特に聖騎士たちは戦力的に攻略の要となるため、どうしても逆らったり怒らせたりがはばかられた。
しかし、聖騎士の絶対的優位は崩れた。
ドグサレオが、聖騎士の誤りと、聖騎士が必須でなかったことを証明したのだ。
これなら、教会軍まで巻き込んでタカネノラの横暴を抑えられるかもしれないと、イシアタマンは希望を持った。
「これは、千載一遇の機会だ!
これまで我らも含めて討伐軍はタカネノラの軽率な判断によって多くを失ってきたが、ようやくそれが正される!
ドグサレオとて、そんな状態を脱したいのは同じだろう。
今こそ我ら貴族軍が手を取り合い、力を失っても戦をおもちゃにしようとするわがまま娘の目を覚まさせるのだ!!」
イシアタマンは勇ましくそう言って、話を詰めるべくパワハッラ家の陣地に向かった。
その後姿を見送りながら、カーリーンはため息とともに呟いた。
「ドグサレオ殿にそんな英雄のような器があれば、本当によろしゅうございますね……」
パワハッラ家の陣地に赴いて、イシアタマンは仰天した。
「オラ、肉が欲しいなら女をよこせ!処女か人妻なら、多少は融通してやるぞ」
「ねえなら有り金と金目のもの、それか回復アイテムだ!先の命を惜しんでも、明日力が出なくて死んだら意味ねえだろ?」
パワハッラ家は、確かに鳥肉を他の隊に分け与えていた。
しかし有償、完全に悪意のボッタクリ価格である。
そのうえわざと相手の嫌がるもの、倫理に反するものをよこせと要求し、相手が困り果てたり仲間割れを起こしたりするのをゲラゲラ笑いながら見ている。
この地獄のような有様に、イシアタマンは慌て割り込んだ。
「何をしている!?今は、力を合わせて危機を乗り越える時ではないか!!
ええい、ドグサレオは何を考えている!?」
ドグサレオは、他の隊から肉の代金として献上された女を何人も侍らせて上機嫌で宴を開いていた。
ドグサレオの体中に他の隊から巻き上げた貴金属が光り、悪趣味に磨きがかかっている。
イシアタマンが突入すると、ドグサレオはウハウハでこう言った。
「千載一遇の機会ねえ、間違いねえ!
この俺様が全てを手に入れる、またとねえ機会だぜ。
今腹を空かしてたまらねえ奴は、食いモンと引き換えなら何でも差し出すからよぉ。ボロい商売だぜ。
安心しな、てめえらもタカネノラも全部俺様のモンにして、可愛がってやんよぉ。
ギャーッハッハッハ!!」
ドグサレオは、自分の利益しか考えていなかった。
これを、自分だけがいい思いをする最高の機会と考え、困窮している他の隊から搾れるだけ搾り取っていた。
踏みにじり、支配の楔を打ち込み、人々の嘆きを最高の甘露のようにすすって味わっていた。
「何ということだ……これでは、タカネノラと変わらない……」
「ハアァン!?違うだろクソジジイ!!
俺はきちんと分け与えてるんだよ!けど、こっちも無傷で見つけた訳じゃねえ。どんな対価を取るかは、俺様の自由だ!」
イシアタマンは愕然とした。
ようやく地獄で一息つけるかと思ったら、頑張れば脱出できるかと思ったら、さらなる地獄を上塗りされるとは。
しかも、皆が欲しがる必需の対価を出せる分、ある意味タカネノラより質が悪い。
どんなに嫌でも、人間本能に抗うのは困難だ。飢えという命に関わる辛苦の中では、いとも簡単に屈してしまう。
ドグサレオは、それを最大限に利用しているのだ。
しかしイシアタマンとて、簡単にあきらめる訳にはいかない。全軍の命と帰りを待つ家族の重さを双肩に背負い、懸命にドグサレオの説得を試みる。
「聞け、ドグサレオよ。此度おまえが手に入れたのは、この地獄から皆を救える可能性のある命綱なのだ。
だがそれは蜘蛛の糸のように脆く、使い方を誤ればすぐに切れてしまう。
そもそも、おまえとて討伐軍の中で生きているのだぞ?
古の勇者が伝えた説話にもあっただろう。か細く脆い救いこそ、皆で分かち合って最善の使い方を……」
イシアタマンは勇者が伝えた異界の伝説まで引用して諭しにかかるが、ドグサレオに正論など通用しない。
「オオォン?馬鹿言ってんじゃねえよ!
そん時の蜘蛛の糸が切れたのは、どう考えても他の奴まですがったからだろ。物理法則無視していい話にしてんじゃねえ!
俺だって、こんなん有限で長続きしねえって分かってるさ。
だからこそ、こいつから得られる最大限を求めて何が悪い!?
世の中はな、手に入れたモン勝ちなんだよオォ!!」
ドグサレオは、悪鬼のような顔で言い放った。
「蜘蛛の糸か、言い得て妙だなあオイ!
こんなに細っこくて脆いのに、待ってるだけでいくらでも獲物がくっついて狩り放題食い放題だ。
てめえの軍も腹を空かしてんだろ?素直に獲物になっていけよ!」
ドグサレオにとって地獄に垂らされた蜘蛛の糸は、自分たちに都合のいい狩りの道具でしかない。
鳥肉という巣を張って待っているだけで、他の隊は空腹に耐えられずにどんどん突っ込んで餌になる。
勇者が語った皆で救われるというのとは、真逆の使い方をしている。
(クソッこれを我らが先に見つけておれば!)
イシアタマンは頭が割れそうなほど悔しがったが、もうどうにもならない。
クッサヌ家は皆が実直かつ頭が固いせいで、この鳥のようなごまかしを見破るのは苦手なのだ。
一方のハッラ一党は、一族のモラルのせいで常に疑う癖がついており、手に入るものは何でも貪ろうとする。
そのせいで今回、この蜘蛛の糸のような見つけづらい救いを得られたのだ。
真面目で堅実な者が救いを見つけるとは、限らないのだ。
イシアタマンは苦渋を飲んで、ドグサレオの救いを拒否した。
「分かった、貴様を止めることは儂にはできぬ。
だがな、儂は貴様の支配などに屈さぬぞ!
我らクッサヌ家に、己の腹を満たすために大切な人や物を売る腑抜けはおらぬ。皆、朽ち果てる覚悟などとうにできておるわ!」
そう吐き捨てて去るイシアタマンを、ドグサレオは気の毒そうにニヤついて見送った。
「ハッ、頭が固いと損しかしねえなぁ!
やせ我慢したって腹が膨れるでもなし、命懸けの手柄も俺らんとこの生贄が全部かっさらっちまうのに。
オラッ、男とブスは全員覚醒薬を飲ませて突撃させろ!」
ドグサレオは、この機に売られてきた人間を使って攻略の手柄も貪る気だ。
モラハッラ家の大将が死んだため、モラハッラ家が持ち込んでいた覚醒薬はパワハッラ家の管理下にある。
食料と引き換えに差し出された人間は役立たずが多いが、覚醒薬で強化して使い捨てにするならそれでもいい。
ドグサレオは巻き上げた女を侍らせ巻き上げた高級な酒を飲みながら、さらなる戦果が引っかかるのを待っていた。
しかし、捨て駒だけで突破できるほど甘くはない。
とっぷりと夜が更けた頃、ドグサレオの下に伝令が駆け込んだ。
「元アラクネと思しき、美しい蜘蛛女が現れました!
閉所で糸を駆使してこちらの軍勢を阻んでおり、このままでは進めません!」
「何ぃ!そりゃ極上の獲物だぜぇ!!」
ドグサレオはすっかり酔っぱらった赤ら顔で、涎を拭って立ち上がった。
待っているだけで、最高の美女にして糸工場が向こうからやって来た。あれを手に入れれば、自分は男としても人としても極上の蜜を味わえる。
色と欲に頭を埋め尽くされたドグサレオは、気づかなかった。
次に蜘蛛の糸に巻かれて食い物にされるのは、どちらかということに。
今回は、地獄に垂らされた蜘蛛の糸の話をオマージュしています。
皆が救われることができたのに、独占しようとしたら切れてしまってまた地獄に真っ逆さま。
ドグサレオはさらにその糸で他者から搾取するという最悪の地獄を展開しますが、調子に乗ると踏み外すのがお約束。
地獄の元はタカネノラだけではないが、そいつが長続きできるかというと……?
次回、久しぶりにオリヒメちゃんの見せ場です。




