第14話
俺の人生は過去に二度壊されている。
一度目は数年前に起こった飛行機事故による両親の死。
表向きには単なる不慮の事故とされているが実際は違う。
―――と―――が手を組み、念入りに計画したうえで実行された正真正銘の殺人である。
完全に仕組まれていた事故。
そして二度目はX年前のあの日。
【202X年3月31日 20時45分 警察庁長官室】
(今からX年前のこと)
警察庁本庁が置かれており中央合同庁舎第2号館と隣接している、地上18階、地下4階建ての警視庁本部庁舎が最上階にある長官室。
もう外は真っ暗だというにも関わらずその部屋の照明は一つもついていない。
しかし流石は好立地且つ最上階の部屋。
今日は満月ということもあり月明りがそこへ入り込んできているおかげで、
拘束器具の付いた椅子へ座らされている桜小路金四郎。
そんな彼の頭に銃口を突き付けているどこかの特殊部隊所属らしき一人の男。
どうにか金四郎のことを助け出したいものの、現時点では打開策がなくただ敵を強く睨みつけることしかできない直哉。
その直哉の唇にビー玉程の大きさをした黒い何かを右手の人差し指で押し当てているメア。
メアの後ろからマシンガンの銃口を直哉に向け続けているガタイのいい男が十数人。
そしてそんな異様な光景をこの部屋の一番奥で全面ガラス張りの窓を背に普段長官が座っている椅子にふんぞり返り、厭らしい笑みを浮かべながら眺めている○○総理大臣。
その場にいる人間全員がこの仕組まれていた、仕組んでいた状況を視認出来ていることであろう。
【202X年04月03日 02時30分 直哉・メア自宅】
静寂に包まれている寝室の中で微かに聞こえる一つの穏やかな寝息と、一つの唸り声。
後者のそれが始まってからどれほどの時間が経過したのであろうか。
その真相を知ることができた唯一の人物が自身の隣で苦しんでいることに気が付くこともなく、未だに規則正しい呼吸を繰り返している以上、この問いに答えられる者などいない。
「―――――ッ⁉」
「………………」
ただ一つ言えることといえば、かなりの悪夢を見せられているのであろうということだけである。
その証拠に直哉は意識が覚醒するや否や、すぐ傍でメアが眠っているにも関わらず勢いよく飛び起きた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………はぁー、夢か」
そして荒い呼吸を数回繰り返した後、ようやく自分が昔の出来事を夢で見ていたことに気が付いたらしい。
そう一言呟いた後、いつも通り同衾している相手ことメアが目を覚ましていないことをこっそりと確認する直哉。
「最近はこの夢も見なくなってたんだけどな。自分でも思っていた以上に、昨日の一件は心にきてたみたいだな」
「………………」
この部屋には今さっき悪夢から目覚めたばかりの直哉と、その隣で眠っているメアしかいないのだから返事など返ってくるわけがないし、それが分かっていたからこその発言だったのであろう。
「………………」
「………………」
素直な想いを口に出した直後、少しの余裕もなく後悔の念が押し寄せてきたのかまた一段と暗い表情を浮かべる直哉。
「本当、俺は最低最悪の男だよ」
最後に一言そう呟くと、そのまま真正面から隣で眠るメアへと優しく抱き着き再び眠りについた。
【202X年04月03日 02時40分 直哉・メア自宅】
まるで藁にもすがるかのように、直哉がメアに抱き着いてから約10分ほど。
あれ程までに悪夢にうなされ、飛び起きまでしたというのにその張本人はと言うと、余程疲れていたのか、はたまた自身の隣で眠る彼女に抱き着くことで安心したのか。
先程までの光景が嘘だったかのように…、とまではいかないまでも大分落ち着いた様子で再び深い眠りへと落ちていた。
そしてそれを感じ取ったのであろう。
実際は直哉が悪夢にうなされ始めた瞬間から目を覚ましていたメアは、そんな彼を起こさないようゆっくりと身じろぎし、まるで母親が小さな子供を抱きかかえるように、優しく抱きしめ返した。
続けて、宥めるようにそっと頭を撫で始める。
「(今後も変わらず他人から後ろ指をさされるようなことをいくらしようが、たとえその結果、自分が大切に思っている奴らにすら見放されようが、私だけはお前の隣にいてやる。だから安心して、やりたいと思ったことをやりたいようにやればいい。その結果がどうであれ、私だけは現実から目をそらさず真正面から受け止めてやるし、それができるのは今も昔も変わらず……私だけだろ?)」
やっていることは母性に溢れたそれであるのに、声色は非常に妖艶であり、言葉はひどく排他的で独占的だ。
しかし、そんな絶望のどん底にいる人間にとっては喉から手が出るほど甘い提案でありながら、ひどく蠱惑的でもある彼女の問いかけに応える声も、それを咎める声もなかった。




