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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十一章 精霊の寵児
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126.精霊の寵児 45


 フリージアの思いを理解していなかったのだ、彼は――彼等、精霊神達およびエルディナード公爵家の者達は。


「唯一無二だからと束縛するな。

 ジアが飲み込んできた思いに向き合え――っ」


 ゲオルクは、腹の奥底にたぎる怒りをアグロテウスにぶつけた。


    ジア


 ゲオルクは時折、フリージアをそう呼んだ。


 他意なく、何かの拍子に思わず告げた略称だったが、フリージアは驚きながら、くすぐったそうな笑みを浮かべて受け入れた。


 後に、同性代の子らが、名を略称して呼び合うのをうらやましく思っていたと知る。


 ファ・ディーンではフリージアは貴族籍エルド家の子だ。


 貴族籍の子達が通う小児校、中児校があるのだが、エルディナード公爵家の特異性から、フリージアはファ・ディーンで、貴族籍の子として過ごした。


 セクルト貴院校では、同じ貴族籍の子達と対等に過ごせると、期待に胸を躍らせていたところへ、用心の為に貴院校入学を見送られた。


 フリージアの落胆がどれほどのものだったか――。


 フリージアは口にしたことはなかったが、ロジェスとフロリア、ゲオルクへの態度、時折見せる表情から推測できた。


 フリージアは「寵児ディーバ」の勤めと割り切っているようだが。


 だから、思う――。



 アグロテウスを挑発した言葉を思い出しながら、ゲオルクは小さく息をついて、気持ちを落ち着かせた。


 フリージアは水宴アクアフェスタを披露したゲオルクに賞賛しきりだ。


 ゲオルクは拳大の水球を消すと、同じ動作で――開けた空間に体を向ける。


「――水宴アクアフェスタ


 呪文ルキに呼応して、雨粒ほどの水球が、丘から見える空間全体に出現した。


 その数、およそ数千。


「――――っ!?」


 驚きに声を失うフリージア。


 ゲオルクは続けて呪文ルキを唱えた。 


「――雹冷リオース


(氷結の呪文ルキ――?)


 驚くフリージアの前で、数千の雨粒が瞬時に凍りついた。


 顕現した氷の粒達は、風に任せて流れていく。


 小さな氷の粒は、陽光を反射してきらめき、熱に溶けて空中に散分した。


 幻想的な情景に、フリージアは声を失っている。


 水宴アクアフェスタにあのような使い道があるとは知らなかった。


 雹冷リオースも、単体に使用するものとばかり思っていた。


 呆然とするフリージアに、ゲオルクは向き合う。


「私は――そなたほど強大な攻撃魔法は使えない。

 魔法も訓練して、この程度までは上達した。

 これからも鍛錬は続ける。

 武芸にも励む。

 ――この国を守る、君を護るために」


「――――。

 ――――え?」


 目を瞬かせるフリージアに、ゲオルクは続ける。


「『寵児ディーバ』に囚われすぎるな。

 必要以上の責任は、ジアにはないんだ」




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