126.精霊の寵児 45
フリージアの思いを理解していなかったのだ、彼は――彼等、精霊神達およびエルディナード公爵家の者達は。
「唯一無二だからと束縛するな。
ジアが飲み込んできた思いに向き合え――っ」
ゲオルクは、腹の奥底にたぎる怒りをアグロテウスにぶつけた。
ジア
ゲオルクは時折、フリージアをそう呼んだ。
他意なく、何かの拍子に思わず告げた略称だったが、フリージアは驚きながら、くすぐったそうな笑みを浮かべて受け入れた。
後に、同性代の子らが、名を略称して呼び合うのをうらやましく思っていたと知る。
ファ・ディーンではフリージアは貴族籍エルド家の子だ。
貴族籍の子達が通う小児校、中児校があるのだが、エルディナード公爵家の特異性から、フリージアはファ・ディーンで、貴族籍の子として過ごした。
セクルト貴院校では、同じ貴族籍の子達と対等に過ごせると、期待に胸を躍らせていたところへ、用心の為に貴院校入学を見送られた。
フリージアの落胆がどれほどのものだったか――。
フリージアは口にしたことはなかったが、ロジェスとフロリア、ゲオルクへの態度、時折見せる表情から推測できた。
フリージアは「寵児」の勤めと割り切っているようだが。
だから、思う――。
アグロテウスを挑発した言葉を思い出しながら、ゲオルクは小さく息をついて、気持ちを落ち着かせた。
フリージアは水宴を披露したゲオルクに賞賛しきりだ。
ゲオルクは拳大の水球を消すと、同じ動作で――開けた空間に体を向ける。
「――水宴」
呪文に呼応して、雨粒ほどの水球が、丘から見える空間全体に出現した。
その数、およそ数千。
「――――っ!?」
驚きに声を失うフリージア。
ゲオルクは続けて呪文を唱えた。
「――雹冷」
(氷結の呪文――?)
驚くフリージアの前で、数千の雨粒が瞬時に凍りついた。
顕現した氷の粒達は、風に任せて流れていく。
小さな氷の粒は、陽光を反射してきらめき、熱に溶けて空中に散分した。
幻想的な情景に、フリージアは声を失っている。
水宴にあのような使い道があるとは知らなかった。
雹冷も、単体に使用するものとばかり思っていた。
呆然とするフリージアに、ゲオルクは向き合う。
「私は――そなたほど強大な攻撃魔法は使えない。
魔法も訓練して、この程度までは上達した。
これからも鍛錬は続ける。
武芸にも励む。
――この国を守る、君を護るために」
「――――。
――――え?」
目を瞬かせるフリージアに、ゲオルクは続ける。
「『寵児』に囚われすぎるな。
必要以上の責任は、ジアにはないんだ」




