122.精霊の寵児 41
「――そうだな。貴族籍の令嬢は、馬駆けなどしないだろうしな」
「そうだろうな。
緊急時、乗馬経験がないと耐性が無くて面倒そうだ」
フリージアの発言に寄り添って、ゲオルクは告げたのだが――。
数秒、沈黙が生じた。
「そういう……意味ではなくてな。
誤解されるかも知れないから……」
「誤解?」
フリージアは、少しすねただけのつもりだった。
そこへ正論で返され、戸惑ってしまう。
「もういい」と、フリージアは話題を変えた。
「結局。何がしたかったんだ?」
困惑するフリージアがゲオルクに問う。
ゲオルクは周囲を見渡した。
ゲオルクが望んだ場所――それは、フリージアがゲオルクに全てを明かした場所。
小高い丘から眼下を望め、入り組んだ地形の戦況を把握できる場所だった。
あの日――ゲオルクの世界は大きく変わった。
フリージアとの能力の差を目の当たりにした日でもある。
「――アグロテウス様」
『テスでいいと言っているのに』
呼ばれて姿を現したアグロテウスは、そう言って肩をすくめる。
アグロテウスの指導を受けるようになって、ゲオルクは度々そう言われていた。
アグロテウス曰く
『他の精霊神やフリージア、歴代寵児は「テス」と呼んでたから。
「アグロテウス」と呼ばれても、自分のことだとわからないんだよね』
そう言われたが、さすがに受け入れがたく、ゲオルクは丁重に断った。
ゲオルクはフリージアの婚約者だから、アグロテウスの加護を得た。
魔法の指導をしてくれるのも、結局はフリージアの為だ。
「私の魔法の能力がどれほどか、覚えているか?」
フリージアは戸惑いながらもうなずいた。
セクルト貴院校で習う初級魔法を体得していること。
加えて。
「テスの指導を受けたと聞いたが」
「――水宴」
つぶやくと同時に、ゲオルクの右掌の上方に、拳大の水球が生じる。
前詞なく、呪文だけで生じた水球に、フリージアは目を丸くした。
「上達したな!」
顔をほころばせるフリージア。
呪文のみで魔法を行使する――。
それは何度も前詞を唱えて呪文で魔法を行使する行程を、繰り返し行い、体と思考が呪文のみで発動するよう、体に染みこませてできうるものだ。
同じ鍛錬を、フリージアもアグロテウスから受けている。
同じ道を経験したフリージアだから、呪文のみで魔法を行使したゲオルクの努力を理解でき、その成果を喜んだ。
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