113.精霊の寵児 32
◇◇ ◇◇
エルド家は日頃「エルディナード公爵家」と明言していない。
自ら名乗るのはもちろん、聞かれても必要以外、すっとぼける。
下級貴族籍 エルド家
公にはそうしていた。
ゲオルクはアグロテウスとの話の中で、説明無くとも「エルド家→エルディナード公爵家」と即座に理解した。
思い返すと、首をかしげてしまう。
公爵家は格式高い家柄だ。
下級貴族籍が、実は公爵家なのだと言われても、すぐには信じられないはずなのだが。
自身の不可解さに眉を寄せ、頭に「?」を浮かべ、腕組みして考え込むゲオルクに、アグロテウスは苦笑する。
『幼い君を治療したとき、僕と繋がった部分があるからかもね』
「……それはどういう――」
意味でしょうか。
聞こうとした言葉が声として出る前に、アグロテウスが口を開いた。
『ジアにはお似合いってことだよ』
――精霊神の容姿表現を、省いた部分がある。
柔和な雰囲気、下がりがちな目尻は、柔らかな印象を増幅させる。
それより何より。
アグロテウスは美男子だ。
そんなアグロテウスが嬉しそうに微笑む姿は、同性のゲオルクもその美しさに見惚れた。
数秒呆けた後、ハッと我に返り咳払いする。
「それは当人同士の問題でしょう」
そう告げたところで、部屋の戸がノックされた。
ゲオルクが返事をする前に、アグロテウスが返事をする。
『どうしたの、ジア』
驚くゲオルクが硬直している間に。
カチャリ、と扉が少しだけ開いた。
その少しだけ開いた隙間から、フリージアがうらめしそうな上目遣いの眼差しを、アグロテウスに向ける。
「……ずるい」
(ずるい?)
思いがけないフリージアの登場に、ゲオルクは思考が停止ししていた。
なにがずるいのか。
本当にわからなかった。
「私も話したいのに」
(…………?)
フリージアの言った意味を理解できず、ゲオルクは硬直する。
アグロテウスはフリージアの想いを理解して、小さく吹き出した。
『どうぞ。僕の話は終わったから』
アグロテウスの返事に、フリージアは顔を輝かせた。
そんなフリージアに、ゲオルクの鼓動は高鳴る。
――フリージアの容姿に関しても、説明を省いた部分がある。
凜としたたたずまい、教養ある振る舞い。
フリージアは同性も見惚れる美しさを有していた。
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