111.精霊の寵児 30
現状を――戦闘の場を見ているから、納得せざるをえない。
サヴィス王国が、戦のない国なのは、日の目を見ない人々の、功績のおかげなのだ。
ファ・ディーンの民――彼等を統率する、エルディナード公爵家の尽力によるものなのだ。
納得すると同時に、どうしても言わずにはいられなかった。
「先ほども申しましたが――なぜ、エルディナード公爵家の功績が表沙汰にされないのですか」
ウォルチェスター家に次ぐ家柄でありながら、エルディナード公爵家の暮らしぶりは質素だ。
――質素すぎる。
豪奢な邸宅、高価な装飾品は、時として身分の差を明確とし、他の貴族籍への牽制となる。
社交場に出る機会が少ないエルディナード公爵家も、皆無ではないはずだ。
アグロテウス曰く。
『その時には相応の姿で行くよ』
第一位上位貴族、エルディナード公爵家として。
『必要な所には費用をかける。
けれど普段の生活に、高価な装飾品は必要ないから、今の暮らしなんだ。
――村人の生活と格差が大きすぎると、弊害もあるし、彼等に協力を請えないからね』
国境の攻防は、エルディナード公爵家の為でもあり、ファ・ディーン村民の為でもある。
『社交場の参加は必要最低限。
出席した事実、印象は覚えていても、人に関する――顔や声、話し方や感じる印象はおぼろげな記憶となるよう、暗示をかけて、人の記憶は残りにくくもしてある』
可もなく不可もない公爵家と思われるように。
エルディナード公爵家の印象を操作していると、アグロテウスは告げる。
(なぜ――)
アグロテウスの説明は一貫している。
それが、ゲオルクには歯がゆくてならない。
「なぜっ!
功績に見合った処遇を受けられないのですかっ!」
思い出すのは、自分に向けられた火矢。
無作為に打たれた火矢が、ゲオルクに当たりそうになった。
オズマが阻止してくれたが――。
今日のような戦場を、フリージアは経験している。
これまでも――これからも。
過去の歴史を紐解けば、戦場で功績を挙げた兵は褒美と名声を得ている。
なぜ、真の功労者が、それらの恩恵を受けられないのか。
ゲオルクにはそれが腹立たしくてならなかった。
理不尽だと息巻くゲオルクに、アグロテウスは目をしばたたせた。
『なぜって――ジア達を守る為だよ』
想定外の返答に、ゲオルクは声を失った。
連日更新3日目です。 やっぱり、連日更新難しい……(汗)
以前は連日更新できてたのが、不思議です。
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