110.精霊の寵児 29
容易に他国の者が潜入できるということは――。
これまでにも他国の暗殺者が王都に潜入し、王族を屠った事例があるのでは――
『皆無とは、言えないね』
ラドフィクトの考えに答えるニルディアート。
過去、王族が不可解な死を遂げる事案があった。
後継者争いではと、囁かれる事例もあった。
理由は判明せず、突然死、事故死等、とされたが――。
隣国暗殺者によるものも存在すると、ニルディアートはほのめかす。
明言しないが、全てを知るニルディアートが否定しないのなら――ラドフィクトの推測が真実となる。
国の重要人物が、他国の暗殺者に屠られた事例有り
ラドフィクトは思案に暮れた。
自分自身、村と村民、国の状況を考慮し尽くした上で、ラドフィクトは父である国王に進言する。
「ファ・ディーンを、隣国に対処する防波堤にさせて欲しい」
――と。
ラドフィクトがファ・ディーンに定住し、潜入者の対応を行う。
村民にも協力を願うため、身分は庶民だが、貴族籍と近しい魔法を行使できる権限を求めた。
ニルディアート曰く、
『貴族籍同様の洗礼を受ければ、貴族籍同等まではいかないけれど、村民も襲撃者に対処できる魔法は使えるはずだよ』
――と。
同時に、本題を切り出す。
精霊神の守護を受ける自分が、ファ・ディーンの領主となり、国防の要となりたい
非常時に権限を行使できるよう、王族、ウォルチェスター家に次ぐ貴族籍に。
国防のため、精霊神の守護を、自分に続く一族へ。
人の統治は王族が、近隣国からの脅威にはファ・ディーンが統率する。
国の内と外、それぞれで対応してはどうか。
『了承するなら、僕たちの守護はラドフィクトの家系に移るけど、王族には他の貴族籍と一線を画す加護を与えると約束するよ』
精霊神の守護がラドフィクトの血筋に移ると聞いて、国王、ラドフィクトの兄は一時躊躇した。
塾考の結果、特別な「加護」を受けられる点から受け入れた。
拒否しても、現状、ラドフィクトの兄は精霊神の守護を受けられない。
それなら、貴族籍と一線を画す権威を保持したい。
そうした想いと、小事の争いをファ・ディーンに任せられるとの想いから、王族はラドフィクトの提案を受け入れた。
こうしてラドフィクトは「エルディナード公爵家」の爵位を得た。
その後、ファ・ディーンは「精霊教会」として洗礼体制を確立させ、今に至る――。
アグロテウスの話を聞いたゲオルクは、顔を伏せて渋面する。
話を聞いて、納得した。
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