102.精霊の寵児 21
『おいたが過ぎたようだね』
言いながら、テスは大蛇に向けて右腕を肩の高さに上げた。
腕の動きに呼応して、炎の勢いは激しくなる。
口元の微笑、柔らかな声音。
穏やかな物腰とは真逆の、大蛇を襲う容赦ない業火。
直立姿勢から大火に焼かれ、消し炭と化した大蛇は、テスの合図で炎が消えると同時に、どう、と轟音を上げて崩おれた。
その場に居合わせた者が、呆然とする中。
テスと呼ばれた――火の精霊神、アグロテウスは、涙目で肩をいからせ、ゲオルクと子狼を抱きしめる、興奮状態のフリージアの側に降り立った。
『――ジア』
呼ばれた愛称に反応して、フリージアはゆっくりとテスを見上げる。
見上げて――興奮状態のまま、顔をくしゃくしゃに歪めて、泣きながら訴えた。
「助けて……っ!」
ゲオルクを――自分を助けてくれたこの子を。
アグロテウスはゲオルクの体に手をかざして様子を見たあと、フリージアの両親に顔を向けた。
『この子は伴魂を得ていない。
伴魂は、人と、僕たちの世界をつなぐ媒介だ。
ジアが気に入った銀狼の子を、この子の伴魂とすれば、助けられる。
この子も銀狼の子に好意を持っていたようだし、銀狼の子も、この子に恩義を感じてる。
伴魂となる用件は満たしている。
――代わりに。
ジアは僕の正式な守護を受けるまで、伴魂の恩恵は受けられない。
ジアの伴魂をとるか、この――勇敢な男児の命を取るか。
どうする?』
フリージアの両親は無言で顔を見合わせ、うなずきあうと、アグロテウスに頭を下げた。
「どうか――娘を身を挺して助けてくれた、勇敢な稚児をお救いください」
震えながら、精霊神とフリージアの両親のやりとりを見ていたゲオルクの両親は、その場に座り込んで涙ながら礼を告げる。
フリージアの両親の返事を受けて、アグロテウスは上機嫌で『了解~♪』と答えた。
子狼を指さして小さな輪を描き、次いでゲオルクにも同じく小さな輪を描く。
共に描かれた光の輪が、アグロテウスの、交差する手の動きに呼応して動いて――交わり、光の粒子となって霧散した。
そして――ゲオルクの体が光に包まれ、みるみるうちに傷が治ってゆく。
「ゲオルクっ!」
ゲオルクの両親が、フリージアから子を受けとり、抱きかかえる。
子狼はゲオルクを気遣い、側から離れない。
興奮状態が落ち着いたフリージアも、両親に付き添われた。
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