101.精霊の寵児 20
この時、連れて帰りたい動物を選べていなかったのは、ゲオルクともう一人の男児だけだった。
時間制限があるから、連れて帰りたい子――伴魂を早く選びなさいと急かされつつ。
フリージアの両親は、娘の願いを了承した――時だった。
――ふと、ゲオルクの視界の隅で影が動いた。
(――――?)
何だろうと、何気なく、その方角に目を向けたゲオルクの目に――頭を高く持ち上げてヌルリと立つ、大蛇が映る。
成人男性も上方を仰ぐ高さだ。
大蛇は小さく頭を揺らして反動を付けると、落下の勢いに任せに大口を開け、フリージアに襲いかかった。
一瞬の出来事だった。
大蛇に気付いたゲオルクは、反射的に駆け出し――フリージアと子狼を庇うように抱きしめる。
ゲオルクの行動に誰もが驚く中――フリージアと子狼を庇ったゲオルクは、その背の広範囲を大蛇に噛みつかれた。
「ああああっ……!!」
痛みに、フリージア達を抱きしめる腕に力が入る。
肩口から背中に、激しい熱をもった痛みが貫いた。
「ゲオルク!?」
フリージアの悲鳴と、子狼の悲鳴のような鳴き声を耳元で聞きながら、ゲオルクは激痛で朦朧とした。
――なぜっ!
この場に大魔が……っ!
大人達の叫び、子供達の悲鳴、ゲオルク両親の子を呼ぶ声。
「ゲオルクっ、ゲオルク――っ!」
フリージアはゲオルクの名を呼び続け、子狼は大蛇に威嚇の声を上げる。
ゲオルクはそれらの声を遠くに感じながら――涙を流すフリージアと、大蛇に吠える子狼が無事な事にほっとした。
大蛇の牙は、ゲオルクの肩をえぐった。
本来の獲物を捕らえ損ねた大蛇は、一旦、標的から距離をおく。
ゲオルクの妨害を受けた大蛇は、赤い舌をチロチロ揺らめかせ、ゆっくりと頭を持ち上げ――再び標的を――フリージアを見据えた。
「――――っ!」
フリージアは早鐘を打つ鼓動を感じる中、力なく横たわるゲオルクと、大蛇に吠え続ける子狼を抱きしめた。
大蛇が、再びフリージアに襲いかかろうとした時――。
「っ! テスっ!!」
フリージアは咄嗟に声を上げた。
瞬間、大蛇は火柱に包まれる。
『ギャゥゥァアアァ――っ!』
大蛇は悲鳴を上げ、自身にまとわりつく炎を消そうと地面をのたうち回る。
居合わせた者達が呆然とする中――癖のある赤い髪、赤い瞳の男性が、フリージアの傍らに出現した。
――宙に浮いた姿で。
その場にいた誰もが、神聖な存在だと瞬時に理解する。
それほど「テス」と呼ばれた青年は、神気を纏っていた。
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