99.精霊の寵児 18
「ゲオルク・リズ・ルスターと申します。
火の精霊神、アグロテウス様におかれましては以後、お見知りおき存じたく申し上げます」
火の精霊神 アグロテウス
ゲオルクは幼い頃からサヴィス王国の創世記――神話から現在に至るまでの歴史を、事細かに教えられていた。
それが貴族籍の嗜みと思っていたが、セクルト貴院校に入学してから、同級生との相違を感じていた。
精霊神、および五大精霊の知識が浅く、神話――特に創世記を知らない生徒が多いことに驚いた。
魔法は学ぶが、伴魂と魔法属性の相性も知らない生徒がほとんどだ。
セクルト貴院校で同級生となった、ファ・ディーンの茶会に出席した貴族籍の者達も、ゲオルクと同じ戸惑いを感じていた。
「あの茶会の出席者は、同じ価値観をもつ貴族籍の会合だったのだろう」
茶会同席者はそう結論づけたのだが。
テスと呼ばれた、人でない青年と対峙して思う。
茶会出席者の貴族籍達は、選出された家柄なのだろうと。
フリージアは――フリージア・エルドは。
精霊の――精霊神の寵愛を受ける、特別な存在なのだと。
『ふっ』と、テス――アグロテウスが小さく笑った気配が、顔を伏せたゲオルクにも届いた。
同時に、部屋に充満していた、表現しがたい重圧が軽くなる。
そっと――うかがい見るように、少しだけ顔を上げると、アグロテウスが微笑を浮かべていた。
『適応力は高いようだね』
言って、部屋の上方に漂っていたアグロテウスは、すいっとゲオルクと同等の高さまで降りてきた。
『楽にして』
ベッドに座るよう促すアグロテウスに言われるまま、ゲオルクはベッドに腰を下ろす。
オズマはアグロテウスとゲオルクを交互に見ながら、様子をうかがっていた。
戸惑うオズマに、アグロテウスが苦笑して『主の側に』と告げる。
オズマは言葉に従って、ゲオルクの側に腰を下ろし、顎を膝に乗せた。
その姿を見たアグロテウスの雰囲気は、より一層和らいだものになる。
『伴魂との信頼関係を築けているね』
ゲオルクはアグロテウスの言う意味がわからず、何も言えなかった。
アグロテウスはゲオルクの考えを察して、続ける。
『中途半端な伴魂との関係――伴魂を大事にしなかったり、粗末に扱ったり、信頼関係を築けなかった場合。
僕たちが体現したら、伴魂は主でなく、僕たちに従うんだ』
言われて、驚いたゲオルクはオズマを見る。
ゲオルクも、アグロテウスの神気にあてられている自覚はある。