96.精霊の寵児 15
眼下の戦況を確認して、フリージアはつぶやいた。
「テス――」
つぶやきに応じて、赤髪の美青年がフリージアの傍らに、宙に浮いた姿で現われた。
「――頼む」
『了~解~♪』
フリージアの願いを、テスと呼ばれた男性は、軽い調子で応じる。
フリージアは、ゲオルクに聞こえない小声で何かつぶやいた後、眼下に――戦況下に、腕を伸ばした。
「火焔嵐」
フリージアが唱えた魔法は、ゲオルクの知らないものだった。
戦場で有用な高位魔法が存在すると、ゲオルクも知っている。
それは騎士が用いるもので、一般貴族には知られていないものだ。
貴院校の授業でも教わることはない。
初めて聞いた魔法でも、ゲオルクはそれが呪文だと感じた。
実際、フリージアの呪文により、炎の嵐が敵兵を襲った。
「うわぁぁあああっ!」
衣服や手にする武器が燃え、敵兵達は混沌とする。
戦況下の、互いに接近した場だというのに、火焔は敵兵だけを襲い、自国兵に害はなかった。
錯乱した敵兵は、相手かまわず、敵兵だけでなく、同士も攻撃した。
混沌とした戦況の中――錯乱した敵兵が、ゲオルクに矢を放った。
呆然としていたゲオルクは、その矢に気づけず。
「っ! オズマっ!」
気付いたフリージアの声に、オズマは瞬時に答え、ゲオルクに向けられた矢柄に噛みつき、主を守った。
この時のゲオルクは、思考が追いつかず、呆然とするばかりだったが。
後に思う。
現場に向かう際、フリージアがオズマの解放を告げたのは、ゲオルクを守らせる為だったのだろうと。
同時に――思う。
フリージアは、オズマに――他人の伴魂に関与できる。
命じられる。
(あり得ない――)
ゲオルクはそう思いつつ「フリージアは別格」との思いを持ち始めていた。
戦場、得体の知れない青年、高位魔法……。
目の前で起きた出来事に、ゲオルクはただただ、呆然としていた。
◇◇ ◇◇
その後――。
眼下の、自国、サヴィス王国民が優位とみれる戦況を見た後、ゲオルクはフリージアに言われるまま、駆ける馬の後をついていった。
ゲオルクの傍らにはオズマが併走している。
フリージアが呼んだ赤髪の青年も、フリージアの傍らを、宙に浮いて併走していた。
――フリージアの後を追うゲオルクを、時折鼻じろむ表情を向けるのが不快だったが。
フリージアに従い、着いたのは彼女の家、エルド邸だった。
馴染みある邸宅に安堵するゲオルクとは反対に――フリージアは激しく動揺していた。
更新。
早くできるようになりたいです……。




