95.精霊の寵児 14
その考えも、現場に到着して一変した。
様々な疑念、困惑――言葉に表現しがたい感情が、ゲオルクの身の内で入り乱れた。
―― 戦場 ――
眼下の雑木林では、自国の者と、明らかに自国民と容姿の異なる――褐色の肌、細かく波打つ茶髪の者達が争っている。
サヴィス王国には無縁であるはずの光景が、眼下にあった。
フリージアとゲオルク、オズマは小高い丘の上にいた。
『――お姫様』
聞こえた小さな声の方を――フリージアの方を、ゲオルクは反射的に見たが、誰もいない。
『――その者は……』
再度聞こえた声は、フリージアの肩にとまる白い小鳥から聞こえた。
(鳥が――しゃべった……!?)
困惑するゲオルクを、小鳥はつと見て――側にいたオズマを見て『……ああ』と理解した。
『彼の者ですか。
ですが、まだ正式には決まっていないでしょう?』
「その話はまたの機会に。
状況は?」
告げるフリージアは、表情も声も堅い雰囲気に包まれている。
小鳥は不機嫌をあらわにしながら、フリージアに答えた。
『エプト国と思われる兵、およそ二十。
精鋭なのでしょう。
一人一人の能力も高く、連携も見事です』
(エプト国……?)
この時のゲオルクは「エプト国」を知らなかった。
サヴィス王国で知られる他国は、自国と交易の盛んな国だ。
後に隣国の一つだと、セクルト貴院校の授業で知る。
その授業も「隣国一覧」で国名だけ掲載されるだけのものだった。
小鳥の話に、フリージアは眉を寄せる。
「エプト……?
この前、偵察隊が来た国?
記憶を消して返したはずでは」
『それが危機感を煽ったようにございます』
エプト国の兵は「邪霊」「悪魔」「妖魔」と、対面する者に叫んでいると小鳥は告げる。
小鳥の話を聞いて事情を察したフリージアは、大きなため息をついた。
「――父上に許可を」
告げて数秒後、小鳥が目を閉じて一礼した。
『寵児の御心のままに』
寵児
その言葉にフリージアは眉を寄せたものの、何も言わなかった。
(寵児?)
初めて聞く単語に、ゲオルクは訝る。
フリージアも小鳥も、ゲオルクの表情に気付いていただろうが、このときは何も言わなかった。
現状対応を優先した。
小鳥を肩に止めたまま、フリージアは丘の端――状況を見渡せる位置に馬を進める。
前回更新から時間がかかりました。
すみません。
戦闘シーンは苦手です……。




