93.精霊の寵児 12
庭の奥に――オズマが身を潜める茂みに目を向ける。
ゲオルクは見える範囲なら、離れていてもオズマを身近に感じていた。
オズマはゲオルクの声に応じて側に現われると、主の思いに即座に答えた。
フリージアに襲いかかる野犬との間に割って入いると、その喉元に食らいついた。
「ギャンっ!!」
悲鳴を上げる野犬に噛みついたまま、二度三度、頭を大きく振り回し、同時に野犬も振り回す。
そうした後、オズマが野犬を解放すると、野犬は「キャンキャン」と、情けない声を上げてその場から逃げ出した。
居合わせた子供達は、その場にしばらく呆けていた。
時間の経過と共に、意識が鮮明となり、起きた状況を理解した。
ゲオルクは子供達の中で、早急に「現状把握」していた。
同席した子供達の中では一番早かったはずだが。
(『モフっ』)
「モフ……?」
伝わった感触をつぶやいていた。
自分ではない――オズマの感覚だと、その光景を見て気付く。
フリージアがオズマに抱きついていた。
「ありがとう……――っ!」
オズマから、フリージアの手の震えを感じた。
自分も怖い中、フリージアは気丈に振る舞っていたと、ゲオルクは気付いた。
オズマは困りながらも、フリージアをそのままにしていた。
同席した子達も、恐る恐るオズマに近づいて、礼を告げる。
オズマに対する恐れは薄らいだものの、フリージアのように触れるまではならなかったようだ。
――フリージア以外の子達がオズマに触れなかったのは、別な理由があったと、ゲオルクは後に知る。
「大丈夫? ケガはない?」
ゲオルクはオズマの側に行くと、フリージアと同席の子供達に聞いた。
フリージアと子供達はうなずいたが、男児の一人が手と足に擦り傷があると、ゲオルクはオズマから聞いた。
ゲオルクはすぐに、大人達の元へ走って、事情を説明し、擦り傷を負った男児の手当を請うた。
――それが、フリージアと初めて会った日の出来事だ。
フリージアはその日の事を言っているのだろう。
当時、同席した子供達とは、貴族籍の小児校、中児校、セクルト貴院校でも縁が続いている。
しかし、あの日以降、ファ・ディーンを来訪するのはゲオルクだけだ。
親に言われるまま、ゲオルクはファ・ディーンに訪れていた。
茶会の同席者達は、その後、フリージアと一度も会っていないという。
面会を望んでも、茶会、パーティ、夜会に招待しても、応じてくれないのだそうだ。




