88.精霊の寵児 7
そう叫ぼうとした時には、フリージアは駆け出していた。
反射的に、ゲオルクはフリージアの後を追った。
ゲオルクと同じように、エルド家に仕える者達も後を追おうとしたが、フリージアがそれを封じた。
「ゲオルク以外追従は許さんっ!」
その命に、使用人は逆らえない。
フリージアを追う早駆けの中。
ゲオルクはフリージアに苛立ちを覚えていた。
この早駆けも遊びのつもりなのだろう。
住み慣れた土地、勝手知ったる土地だ。
使用人達の目のない、小言を受けない場所で、自由を謳歌したかったのではないか。
フリージアの想いもわからなくはないが、護衛がなければ危険が伴う。
ちらりと後方を見ると、護衛はフリージアの命を受けて、その場に留まっていた。
(いっそ、踵を返して戻ろうか――)
そう思ったゲオルクだったが、そうした後、フリージアに何かあっては寝覚めが悪い。
仕方なく、フリージアの思いつきに従いつつ。
(イザ丘ってどこだ!?)
――と。
フリージアの後を追うしかない、勝者が始めから決まっている遊びに付き合うことになったのであった。
四半時ほど駆けると、なだらかな傾斜の丘を登り、登頂にらしき場所にたどり着く。
丘の頂上には枝葉を広げる大木がたたずんでいた。
先に着いたフリージアは、大木を撫で、丘から望める景色をぐるりと見渡した。
フリージアに続いて丘に到着したゲオルクは、慣れない早駆けに息を切らしている。
「――っ。急、にっ――、何を――っ!」
急に何をするんだ。
ゲオルクの言いたいことはフリージアに伝わった。
「いいところだろ、ここは」
ゲオルクの問いに答えず、フリージアは丘から見える景色を見渡して告げた。
いいところ
フリージアの意図がわからず、ゲオルクは荒いだ息を整えながら、眉を寄せた。
いいところ――自然豊かで、作物の実り豊かな土地――。
穏やかな気質の人々。
いいところ
それは何を重要視するかで異なる。
のどかな情景が好みなら、ここ、ファ・ディーンは「いいところ」だろう。
――都会的気質を望むなら、ファ・ディーンは「僻地」だ。
ゲオルクはフリージアが「いいところ」を肯定的に告げたのか、批判的に告げたのか、わからなかった。
フリージアのこれまでの言動から考えれば前者だろうが――護衛をふりほどいて、人目を避けての話となると、話が違ってくる。
戸惑いつつ、ゲオルクは探りをいれた。
「いい、ところ――?」
何がいいと思っているのか。