87.精霊の寵児 6
魔法を使うには、伴魂の助けが必要だ。
それはセクルト貴院校に通ってから特に感じたことだった。
貴院校で魔法の授業を受けるまで、貴族籍は基本、魔法の使用を禁じられている。
認められるのは、教員の資格を持った者に習う場合だ。
認められているものの、基本として禁忌となっている。
というのも、変な癖がつくのを恐れるからだ。
万人が同時に教授されるものと、個と個で学ぶ場合とでは、教わる内容に違いが生じる。
多数の中での教授は、おかしな箇所に気付けば、その場で話し合い、すりあわせが行える。
個対個ではそれが難しい。
魔法はセクルト貴院校で学ぶとなっているのは、そうした点を考慮していた。
なのに、貴院校に通っていないフリージアは、水宴を普通に生じさせている。
……伴魂が側にいないのに。
魔法を施行するには、伴魂の助けが必要だ。
リンクに納めた状態では難しい。
ゲオルクも、魔法を使用する際はオズマを召喚する。
小動物の伴魂で、衣服のどこかしらに隠していても、魔法を使用する際は、伴魂の姿が見えずとも、術者の側から伴魂の気配を感じられた。
セクルトでの授業を思い出して、ゲオルクは眉を寄せた。
フリージアのは伴魂が見えないだけでなく、伴魂の気配さえない。
同時に――フリージア周囲の空気の異様さを感じた。
魔法を発動させる際に感じる伴魂からの気配を、フリージア――もしくは彼女を取り巻く空間から感じたのだ。
人は伴魂という媒体を経て、魔力を現実――自然界に関与させ、体現させる
セクルト貴院校で、同級生が魔法を発動させた時とフリージアは様子が違った。
どう違うと――上手く言えないが……。
この時は不思議に思うだけだった。
後に。
ゲオルクはその理由を、知ることとなる。
◇◇ ◇◇
「ははっ。
まいったな。
道に迷ったみたいだ。」
「笑いごとじゃないだろっ!」
いつものように、早朝の散策をしていた――はずだった。
普段通り、馬に乗って散策に加わっていたフリージアが、つつつ、と、ゲオルクの側に馬を寄せる。
かと思うと「競争しないか?」と持ちかけた。
いたずらを思いついた子供のような表情で、だ。
「――しない」
眉を寄せ、ゲオルクは断ったのだが、フリージアは聞こえなかったのか――聞く気がなかったのか。
「イザ丘の木の根元までっ!」
「――……っ! ちょっ――っ!」
ちょっと待て!




