86.精霊の寵児 5
そのような経緯から、王都から遠く離れたファ・ディーンで暮らすフリージアも、無関係ではいられなかった。
(周囲の干渉を防ぐために、セクルト貴院校には行かなかったのだろう)
ゲオルクが見る限り、フリージアは貴院校の入学できる十分な知識と能力を有している。
貴族籍にとって、セクルト貴院校卒の肩書きがないのは、百害あって一利なし。
領地を持つ貴族籍は特に、他の貴族籍との繋がりが必要だ。
正妃の姉であろう、フリージアの母、リラ。
セクルト貴院校に通えない代わりに、貴族籍との繋がりを持つために、ルスター家の子らが時期折々訪問しているのだろう。
思いつつ、ゲオルクは邸宅の二階に割り当てられた自室から、部屋に面した庭を見下ろした。
庭からはロージェスとフロリア二人の声と、フリージアの声が聞こえている。
フリージアはロージェスとフロリア、二人に請われるまま、簡単な魔法を見せていた。
小さな水球をいくつも浮かべる水宴を見せて、高く上げた上空で水球を霧散させ、小規模の雨を生じさせる。
降り注ぐ水に、ロージェスとフロリアは歓声を上げてはしゃいでいた。
その光景をぼんやりと眺めながら、ふとゲオルクは思う。
(フリージアの伴魂――)
「……オズマ」
つぶやく声に呼応して、瞬時にゲオルクの伴魂、狼のオズマが傍らに現われる。
オズマは共に行動するには、遭遇した人が恐れを抱く体躯の大きさであることから、普段は携帯用の縮小住まいで暮らしている。
伴魂は千差万別だ。
小型動物が大半だが、ゲオルクのように、大型動物が伴魂の場合もある。
ゲオルクは「リンク」と呼ばれる、手のひらサイズの筒状の物の中に、オズマを格納していた。
特殊な作りのリンクは、伴魂も居心地がいいらしく、縮小サイズで留まってくれる。
原理は製造社にしかわからない。
そうした物だと浸透していた。
――貴族籍傀儡で「リンク」は普通に知られていると、ゲオルクは思っていた。
極秘裏の物だと知ったのは、数年後のことになる。
リンクへの収納、リンクからの開放は、主の支持。
呼ばれたオズマは、嬉しそうにゲオルクの頬に頭をすりよせた。
体を寄せるオズマを抱きかかえ、体を撫でながら、ゲオルクは庭にいるフリージアを見る。
(フリージアの伴魂を――見たことがない)
これまで、不思議に思ったことはなかった。
伴魂を明かさない人もいる。
そのような人もいるとわかった上で、ゲオルクは疑念を抱いた。