84.精霊の寵児 3
「あた……」
小さな声を上げるフリージアが額を抑えた時には、ゲオルクは門扉を抜けて敷地内へ踏み入れていた。
「姉様~?」
「大丈夫~?」
ロージェスとフロリアが、フリージアの様子をうかがう。
幼い二人も、ゲオルクの不機嫌を感じていた。
二人の心配に気付いたフリージアは、ニッと笑った。
「心配するな。いつものことだ」
「「そうなの?」」
首をかしげるロージェスとフロリアの頭をなでながら、フリージアは苦笑する。
(本当に……いつものことだ)
いつもそう。
ゲオルクはフリージアを厭う。
側に行くと距離をとられ、話しかけると必要最低限の答えを告げて、顔を――視線を合わせようとしない。
幼い頃から、負の感情を向けられた事が無いフリージアには、ゲオルクは「変わった人」との認識だった。
これまでファ・ディーン後継者への尊敬敬意――時々媚びへつらい――を感じても、ファ・ディーンで嫌な顔をされた記憶は皆無に等しい。
ゲオルクは自分に好意的でないと、フリージアは感じていた。
そうありながらも、敵意、嘲りなく、対等に接してくれる。
フリージアより年下だが、弟と妹がいるからだろうか。
ゲオルクはフリージアよりしっかりしていて、どちらが年上かわからない状況も度々あった。
一人っ子のフリージアは、ゲオルクを無意識のうちに頼りにし、ロージェスとフロリアを実の弟妹のように慈しんだ。
ゲオルクの後をフリージアはロージェス、フロリアと続きながら、エルド家の邸宅に荷物を運び入れる。
セクルト貴院校夏期休暇の一月。
ファ・ディーンでの生活はこうして始まった。
◇◇ ◇◇
ファ・ディーンの朝は早い。
朝は四時に起床、領の境界を四半時ほど散策する。
散策後、朝食をとり、日暮れ時の境界散策までは自由時間、夕食、入浴後、就寝となる――。
早朝の散策は、ゲオルクが中児校年齢になってから習慣だった。
今回も同じく、ゲオルクは参加するが、その年齢に至らないロージェスとフロリアは免除される。
朝食後、日暮れ時の境界散策までは自由時間なのだが――。
前回までは何かと声をかけられ、なし崩し的に共に行動せざるをえなかった。
エルド家からの要請もあったが――大半はフリージア個人のものだ。
領内の散策、領民の手伝い、勉学や魔法の訓練――。
セクルト貴院校に入学した今年。
「関係ないものは断固として断る」と決めていたゲオルクだったが、心配は杞憂だった。