81.貴族裁判 74
そうしたやりとりの中、フィーナは身の置きどころのなさを感じていた。
祖父は隣の席にいるが、見知った祖父と違いすぎて、別人のように感じる。
何より、思考が追いつかない。
(――精霊教会?
おじい様とカシュート叔父さんが関わってる?
精霊?
私が加護?)
困惑したフィーナは、側にいるアルフィードに助けを求めた。
アルフィードが理解している分でいいから、説明が欲しい――と。
アルフィードはアルフィードで、表面上、平然としていたが、内心は困惑していた。
動揺して、フィーナの視線に気付けない。
そんなアルフィードを見つつ、フィーナは思う。
(――お父さんと……お母さんは?)
祖父ゲオルク、叔父カシュート。
二人がいるのに、なぜ両親がこの場にいないのか。
上級裁判所で感じていた不安は、今も続いている。
ゲオルクとカシュートからだけでなく、リオンとロア、両親からの説明を聞きたい。
アルフィードとフィーナ、二人への子煩悩ぶりを周囲に隠そうとしない両親の不在が、フィーナの心細さを深めていた。
隣席のゲオルクに、両親の所在を訊ねる機会を逃したまま、話は続いた。
「ファ・ディーン」のくだりで一度話を止めたゲオルクが、再び話始める。
「ディーンは、自然豊かな集落でした。
――逆に言えば、自然しかない田舎。
幼少時、学生時、中央職の仕事に就いてからも、その認識に代わりなく――しかしなぜか「退屈」を感じない。
その時の――世間知らずの私は、物事の表面しか見えていなかった。
不便は大変。
不便でかわいそう。
不便より便利がいい。
そう思っていた私の認識を、ことある度に覆したのが、ファ・ディーンであり――我が妻、フリージア・エルド――真名、フリージア・エルディナードでした」
フリージア・エルディナード
その名を聞くと同時に、フィーナの意識下に、多大な情報が流れ込んだ。
豊かに波打つ、深い桃色の長毛。
表情がコロコロと変わる感情の豊かさ。
気になることがあれば、自分で調べる行動力。
若いゲオルクと思われる青年が、フリージアに振り回されながらも、彼女を憎めない、快く思っている情景が、脳裏に流れた。
自由奔放な赤毛の女性。
彼女を諫める青年。
互いに憎からず思っているのが伝わってきた。
その光景が、祖父ゲオルクと――祖母フリージアの若きころだろうと、フィーナもわかった。
わかると同時に、疑問も浮かぶ。
この光景を見ていたのは、誰――?
『私の記憶』
アクアリューネが、申し訳なさそうにフィーナの耳元で白状する。
『見せるつもりはなかったんだけど……思い出してしまって……』
流れ込んだ映像と共に、見る側の微笑ましい感情も伝わった。
過去視の映像は、アクアリューネに影響されたもののようだ。
ゲオルクが話し始めると同時に、映像は消える。
アクアリューネが、ゲオルクの話に集中しているからだろう。
「我が妻、フリージアは、自由奔放な性分でした。
気になるものがあれば気が済むまで探求し、興味なければ岩のごとく微動だにしない。
自分本位のフリージアには、私も手を焼いていました」
それからゲオルクは「ファ・ディーン」での日々を語る。
ファ・ディーン
「かの地がサヴィス王国、始まりの場所なのです」
次回より、ゲオルクの若かりし頃の話となります。その予定です。
ゲオルクの過去語りで進めようとしましたが、手が進まず……。
サブタイトル、変更の機会をうかがっていたのも相まって、過去の当時目線の方がよさそう。
……と、語りでなく「過去を語りで無く状況を(……なんと表現すればよいのか……)」をゲオルクとフリージア、二人のやりとりを再現した方がわかりやすいと思っての次回です。




