76.貴族裁判 69
周囲の視線に、身の置き所の無い、いたたまれない気持ちになったが――ふと顔を上げたとき、フィーナと目があった。
サリアと目が合ったフィーナは、安堵に目元と口元を緩めた。
転移魔法で現われたフィーナは、不安に顔を強ばらせていた。
フィーナの不安が、少しでも取り除けるのなら。
サリアはそう考えて、自分自身を鼓舞したのだった。
該当者が席に着いたのを確認して、国王グレイブは居合わせた面々を見渡した。
この場にいる者達を確認した後、フィーナの側に居るアクアリューネを含む四精霊神に、最上級の礼を送った。
そのグレイブの行為で、その後の段取りを察したアクアリューネが、ため息交じりに口を開いた。
『堅苦しい儀礼は結構。
さくさく話を進めましょ。
互いのことはある程度把握してるだろうから、発言時に名乗って、簡素な説明を』
アクアリューネの言葉に、グレイブは大きく戸惑いつつ、従った。
そんなグレイブの心情を察したゲオルクが、四精霊神に提案する。
「精霊教会について先に話さなければ、理解を得がたいと存じます」
国王グレイブは、同席者が自己紹介をする中で、個々人――特に精霊教会関係者を深掘りしようと考えていた。
精霊教会。
この国に存在しながら、国のどの機関にも属しない組織。
彼等は「国政に関与しない独立性」を信念としていたが、国家機関からすれば貴族籍者の能力に関与するため、下手に精霊教会を軽んじられない。
同時に、精霊教会は、人々の正しい道、有るべき姿の指針となっていた。
怠け心、悪しき誘惑、それらに心惹かれても、成人の儀等、精霊教会と接触した者は深い感銘を受け、自身を律する。
貴族籍、王族も、精霊教会を詳しく知らない。
各地に存在する教会は精霊教会と精霊神を、彼等の許可無く崇めている者だ。
サヴィス王国では、精霊教会は秘匿の存在だった。
グレイブは、この場を精霊教会を知れる好機と思っていた。
グレイブの言葉に、アクアリューネは眉をひそめた。
『どうして?』
「私どもの存在自体、この国では極秘事項に該当します。
どの程度、ご存じか――」
『え? あなたたち、ゲオルク達のこと、わからないの?』
スパン。
――と。
核心を突かれ、グレイブは黙したことを返事とせざるをえなかった。
押し黙るグレイブ達に、ゲオルクが助け船を出す。
「精霊神方々のお力をお借りして、私どもに関して認識の奥に封じる暗示を、国全土に施した故かと存じます」
 




