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05.冴えない主人公のたった一つの冴えた育て方 2

「……主人公?」

「そう。きき間違いなんかじゃない。それがボクにできる、冴えないキミのためのたった一つの冴えたやり方だよ」

「……どこから何を受信しているか知らないけど、俺は電波女の話を青春だと感じられるような殊勝な男じゃない。できれば、俺のこの星の言語で喋ってくれるか?」

「だから、ボクが冴えないキミを育ててあげるって言っているんだよ。キミをプロにするために、ボクは協力を惜しまないよ」

「プロって、ラノベのプロ作家ってことか? 随分と、ネットでの《巨人殺しの弟子》とも、クラスでのあんたとも印象が違うな。強引すぎるんだよ。そんなこと言われて、はい、お願いしますって答えると思うか?」

「うん。そうだよね。だからボクはキミの正体を知っていてもずっと黙っていたんだ。そして虎視眈々とキミを脅せる材料を探していたんだけど。ようやく見つかったわけだ。もしもキミが僕に従わないというのなら、全校生徒にバラすよ! キミがエロゲを買いに来た最低のド変態やろうだってことをね!」

「ぐ、ぐはああああああっ!!」

 な、なんてかいしんのいちげきだ。俺には昼飯を食う居場所がなくなってしまう。便所飯を経験したことがあるが、臭いが酷かった。飯が便所臭くなって、ああ、もういいやとtなって今は寂しいながらも教室で喰っている。だけど、もしも、そんな最低の暴露をされたら、きっとエブリデイ便所飯。嫌だ。嫌だけど――。

「――せよ」

「えっ?」

「バラせよっ! こっちは小学生の頃から、いや、物心ついた時から俺はボッチだったんだっ! 今日の家庭科の調理実習だって、みんなが仲良く協力して徴している時に、俺はポツンと突っ立っているだけだったっ! こいつ、なんでなにもしてないのに、飯だけ食ってんの!? と白い眼で見られたっ! いまさら! いまさらなんだよっ! 後ろ指を指される覚悟ならとっくの昔にできているっ!! 地獄ならとうにみたっ!!」

 そのへんのビニールハウスで栽培された奴らと一緒にするんじゃねぇ! 他人に踏み続けられてきた雑草魂みせてやんよっ!!

「……け、気圧されるっ!! ボクなんかじゃ想像もできないほどに増大したぼっちの怨念が、これほどまでの言霊を放つなんてっ……。なるほどね。キミには脅しの類はきかないのか、なるほど、なるほど。だったらやり口を変えてみるだけだよ」

なんだ、この余裕は?


「ボクと契約して、《巨人殺しの弟子》の弟子になってよ」


 と、いきなり四月一日が大声で勧誘してくる。

「な、なんだ、いきなり? 契約だと?」

「もしもボクの言うことを訊いてくれたら、ボクはキミの傍にいる。これからはもう一人ぼっちで調理実習を受けさせない。ボクだったら、キミを無理やりボクの班に迎えて、ボクと一緒に調理させることができる。先生にだって文句は言わせない。そのぐらいのこと、ボクなら可能だって、キミなら分かるよね?」

「た、確かに……」

 クラス内では絶対的な権力を持つこの王様がバックについてくれれば、俺の学園生活は一変する。誰もが俺を人間扱いしてくれるはずだ。俺を幽霊のように無視せずに、俺が俺でいてもいい。俺の居場所ができる。勝手に俺の椅子に座られるようなこともなくなるはずだ。

「それだけじゃない。調理実習以外のわずらわしい集団行動の時もキミの傍にいる。休み時間も、放課後も、なるべくキミと一緒にいよう。もう、寂しい想いなんてさせないっ!」

「ぐっ……」

 こ、これは……。脅しなんかとは比にならない。心がぐらついてしまう。このまま四月一日の言うことをきけば、バラ色の学園生活が待っている。乗り気じゃないにしても、ひとまず承諾するフリをするという手もある。――だけど、信じられるか。ボッチの人間不信がどれだけのもんか教えてやるっ!!

「放課後って、部活はどうするんだ? バイトは? それに、お前が本当に《巨人殺しの弟子》なら、もうすぐプロになるんだろ!? だったら俺に構っている余裕なんてないだろ?」

「入部届なら返上しました! それに、アルバイトは既に辞めて、書籍化はお断りしました! いずれ活動報告へ発表があると思いますっ!!」

「なっ――」

 まるでどこかの国の皇女殿下のように毅然とした態度に言葉を失う。

 こ、こいつ、本気、か? そこまで自分の大切なものをなげうって、それで何がしたいんだ。俺なんかのために? こんな、何のとりえもない俺に、どうしてここまで尽くすことができるっ!? 彼女なんてできたことない。友達どころか、話し相手さえいない。親にでさえ、顔を見るたびにため息をつかれるこの俺にっ? どうして?

 じわりっ、と何故か瞳から涙がでそうになる。どうして? ほんとうに、どうして? いったいこれは、何の涙だ? くそっ、と胸中で悪態つきながら、涙を指の腹で拭く。

「なぜ? まさか俺と契約するために?」

「ボクのわがままを聴いてくれるためなら、それなりの対価は必要だよね?」

「ずいぶんと簡単に捨てられるんだな……。――まさか俺のためだというつもりか?」

「キミのためじゃない。ボクのためだよ」

 ふっ、と四月一日は肩の力を抜いた。

「ボクはキミのフォロワーなんだ。だからキミにはプロのレベルまで達して欲しい。よく言っていたよね、ボクたち。『プロになって、面白い小説をいっぱい書いて、ラノベ界を変えていこう』って。まるで夢物語のようだったけれど、ボクは本当に楽しかった。それをボクらは約束したって、勝手に思い込んでいたよ。それなのに、キミはボクを裏切るの?」

「裏切るって、そんなこと……」

「ボクはボクの夢のためなら、なんだって捨てるよ。本気でボクはキミを育て上げたいんだ。せめてボクと同じ土俵に立てるぐらいまで。だから、この手をとって欲しい。ボクのこの伸ばした手が、答えだよ。ボクが欲しいのはキミだけなんだ」

 プロになってラノベ界を俺達で変えてやろうぜっ!! 

 そんなことを、語り合った。創作論や昨今のラノベについて、毎日飽きもせずに語り合った。どうすれば、もっと面白いラノベが書けるのか議論した。それはとても稚拙で、きっとプロなんかが観たら失笑もの。底辺ワナビがまた何か騒いでいる。俺達みたいに金儲けできていないくせに、かっこいいwwwとか思われるかもしれない。

 でも、それでも、あの時は本気だった。

 今の俺には、あの胸の内に灯る情熱の炎はかき消えてしまっている。

 少なくとも、少し前までは俺は、本気でそう思っていた。現実を知る前の俺は、夢を諦めてしまう前の俺は、馬鹿みたいに熱くなっていた。努力さえすれば、叶わない夢なんてないって信じ込んでいた。

 ――そんなくだらないことを、思い出していた。

「そんなことで?」

「そんなことで決心がついちゃったんだ」

「どう、して……?」

 眼に見えないいろんなものが積み重なって、ついてでた疑問。世界に否定され、自分自身さえも自分の価値を否定し続けてきた。それなのに、それなのに――


「だって、ボクにとってキミは――めちゃくちゃかっこいい物語の主人公なんだから」


 眼前のたった一人の少女の、たった一言によって世界は広がった。バキバキバキッ!! と罅割れて、壊れて、光差して、眩しくて、痛くて、なにより嬉しかった。

「虫に憑かれた悪魔のように強く、魔術師殺しの正義の味方のようにダンディで、封印されていた天狐のように頼り甲斐のあり、犬神使い裸王のように愛に生き、若きりゅうおうのように努力家で、眼と性格が腐っているヒッキーのように小気味よく、海猫の飛空士のように爽やかで、武蔵の不可能男のように剽軽で、紅蓮の炎を纏う討ち手のようにピュアで、対テロ軍事武装組織の傭兵のように懸命で、侵略された六畳間の住人のように伝説となり、普通の北高生のように仲間思いで、不幸体質の無能力者のように男気に満ち、喋る二輪車で国々を巡る旅人のようにクールで、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼の眷属のように型破りで、加速世界の銀の鴉のように勇気を持ち、賢狼と契約した行商人のように機転が利き、魔眼を持つ昼寝男のように友情に厚く、半額弁当を喰らう狼のように熱血で、虎と並び立つ竜のように優しく、馬鹿騒ぎする不死者のように傾く、」

 まるで、カンタービレ(歌うように)語る。


「そんな主人公にキミもなってみないか?」


 心に染みるその言葉は、本当の意味で主人公になってくれと、とそういうことだろう。自分はとんでもなく才能ある癖に、それを全部なげうってでも、俺にプロになってくれと。そんな物語の主人公になってくれと。――だけど、そんなただのわがままだ。本当に天才な奴っていうのは、きっと凡人のものさしでは測れない。一周回って、ただの馬鹿のようだった。こんなの、付き合う義理も意味もない。

 矛盾している。こんな甘言に誑かされるような奴、それこそ、主人公とはいえない。ただのモブキャラのようだった。だからこそ、俺はこいつの言うとおりにならない。


「これは、俺の物語だ」


 四月一日は絶望したような顔になる。

「…………!」

言うとおりにならないが、俺は俺の意志で彼女の突き出したそのしっとりとした手の指を恐る恐るつかみとる。なんだかひんやりしていて、気持ち良くて、端っこをつかむようにしたその手を、むんずと、勇気を出して根っこの部分までつかむ。

 女の子の手だった。

 なんだか変なことに感動しながら、不格好に握手をする。俺達は敵同士だった。少なくとも俺はそう思っていた。だから、悔しかったのだ。四月一日がプロになると聴いて、喜ぶよりも、まず嫉妬した。それは勝手にライバル認定していたから。遠く及ばない相手だとしても、俺は負けたくなかったのだ。本気で勝つつもりだった。

 今だってそうだ。

 この握手は別に勝つのを諦めたわけじゃない。

「……お前は――――最悪の敵だったよ」

「それじゃあ!」

「ああ、四月一日の言うとおりにしよう。少しの間師弟関係になろう。俺が強くなったら、お前を喰ってやるぐらい、強くなってみせる。そのためだったら、四月一日の軍門に下ることも安いもんだ。そのためにも、もっとちゃんとした計画プランを聴かせてもらうつもりだけど、結論だけ先に言わせてもらう」

 対等な関係になるための、これはそう、不戦協定という名の契約だ。


「結ぶぞ、その契約――」




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