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20.超高校級のスペックホルダー

 家族会議をすると昨日決まった。今日は特別に父親が会社を早上がりして帰宅するらしい。つまり、学校から帰宅したら、そこには既に両親が待ち構えているということだ。

 帰る足取りが重い。だけど、帰宅時間が遅くなっているのはそれだけでなく、俺以外にも横を歩く者がいるからだ。俺より歩く速度が遅い――四月一日がいるからだ。

「なんでついてくるんだよ、お前も」

「だって、家族会議するんでしょ? だったらボクも参加しなくちゃ」

「いつからお前は俺の家族になったんだ!?」

「そ、そういうことじゃなくて、小説のことで何か言われるんでしょ? だったらボクも参加しなくちゃ」

「……なあ、本当に来るのか?」

「もちろん」

「遊び半分で来られても、どうにもならないと思うけどな」

「だって、小説を書くのを注意されるんでしょ? だったら、ボクも行かなきゃ」

「確かに四月一日は共犯者で協力者だよ。だけど、別にいいだろ。俺はもう小説なんて書くつもりないんだから……。だからとりあえず謝るよ。ごめんな。――はい。これで俺達の関係はおしまいっと。まっ、これから勉強するかどうかは分からないけどな……」

 きっと、無理やり塾に行かされるか、家庭教師でも雇われるかもしれない。それぐらい俺の勉強嫌いは親に知られている。そうなったら、もう、お手上げだ。きっと、両親が納得のいくテストの点数をとるまで、俺は命令を永遠に従い続けなければならないだろう。

「本当に、それでいいの?」

「……どういう意味だよ」

「小説書けなくなってそれでいいの?」

「だから、もういいんだって! 俺には才能がなかったんだ! 四月一日や百目鬼にあれだけみっちり教えてもらったのに、俺には……何もできなかったっ! 俺がやりたかったことは、読んだ人に何も伝わらなかったっ!! 努力したって実らなきゃ、何の意味も、価値もないんだよっ!!」

「一度ぐらいの失敗で――」

「一度ぐらいじゃない……。何十回も俺は応募したよっ! それでもだめだったんだっ! 何年努力しても! 何十万文字書いても! 結局! どうにもならなかったんだっ!」

「――だから、どうしたの?」

「なっ――」

「やっぱり、その程度の話だよ。だって、プロになった作者の小説なんて十冊、二十冊いくよね? 書いた原稿が一発で編集からOKをもらえるわけじゃない。だから、その倍の文章量を書いているのかもしれない。それだけプロは努力しているんだ。何十年にもわたって。きっと、ボクらアマチュアが想像もできないぐらいに……」

「それ、は……」

「夢は才能があるから見るんじゃない。好きだから見るんだ。キミの小説愛はそんなものだったのかな?」

 小説を書くのが好きだけど、あまり他人に言ったことはない。だって、一次落ちする程度の才能しかないのに、小説書くのが好きっていうのはおこがましいから。でも、本当は言いたかった。他の誰よりも俺が小説を書くのが好きだって。

「――――――好きだよ……今でも、小説が。ずっと書き続けていたい。たとえ周りからどれだけ否定されても、俺には関係ない。小説があったから今の俺がいるんだっ! だから、ずっと、ずっと書き続けたいよ……。でも、もう、無理なんだよ」

「無理って、あきらめなければまだ分からないよ」

「分かるよ。俺の両親は俺の話を聴いてくれない。生まれてきて一度も俺の意見なんて聴いてくれなかった。子どもの言うことは全部間違っていて、親の言うことは全部正しい。そう思っているんだよ、あの二人は。俺が欲しいおもちゃの一つだって買ってもらった記憶ない……」

 高校だって親が決めたところを無理して受験した。自分の学力には見合わない偏差値の高い学校だった。だけど、塾に通わされた。

 理由は『親が自分達はいい大学へ行かなかったから苦労した。だから、子どもにはいい大学へ行って欲しい』だった。ようは『自分達が勉強するのが面倒だったけど、子どもだったら無理やり勉強させてやればいいやっ。私達の夢はお前が苦労して叶えろ』ってことだった。

 そういう親なのだ。子どもに自分のやりたかったこと、できなかったことを押し付けることしか考えていない。そんな連中に、理屈なんて通じない。

「なんだ、だったら話は簡単だよ。――ボクが両親を説得する。ね? それなら簡単でしょ?」

「そんなの……」

 いくら四月一日が超高校級のスペックを持っているとしても、そんなの関係ない。俺の両親は年功序列こそ絶対の考え。子どもの意見なんて聞き入れてもらえるわけがない。

 子どもは大人に勝てない。それはこの世の絶対の真理だ。

「大丈夫。親の付き添いのパーティーとかで大人と話すことは結構多いんだ。だから任せてよ。ボクが何とかしてみせる」

「できる、のか?」

「できるかどうかじゃなくて、やるか、やらないかだよ。夢野クンはボクにどうして欲しいの?」

 ほんとうにいいのか? でも、もしも、全てをぶち壊してくれるのなら、四月一日に任せたい。みっともないけど、俺一人じゃなにもできない。夢を叶えるどころか、夢を追いかけることすらできない。だったら、俺は全てを託送。四月一日のことをこんなにも頼もしく思ったのは初めてだ。四月一日だったら、俺にできないことをいとも簡単にやってくれそうだ。

「……やってくれ! 思いっきりっ!!」

「了解っ!」


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