13.不完全燃焼
ガサガサと、百目鬼は蒼白な顔をしながら自分の机を漁っている。後ろには「ねぇ、なにしてんの? 早くカラオケ行こうよ」とか、道草の提案をしてくる百目鬼の女友達がいるが「ああうん」とまともな返答すらできないほどに焦燥している。
「あれれ~? どうしたの、百目鬼さん。何か様子がおかしいぞ~。もしかして、何か探し物?」
他人を煽るのには定評があるコ○ン風味の笑顔で話しかけに行った。あんなの、子ども以外がやったら殴られても文句は言えない。
「……っ! 四月一日真っ! 悪いが、あんたの相手をしている暇はないんだ。さっさと目の前から消えろ」
「ええ!? そういう態度、とっていいのかな? ボクはキミに忘れ物を届けにきたんだけどなー」
「なっ……!」
「英語のノート、落としていたよ」
放課後となった今、クラスメイトの人数は少ないがその代わり視線が集まりやすい。この場で『英語のノートという名の、実は中身はイラストの描かれたノート』を、衆目に晒せばどうなるか? 脅す相手が俺だったら何も変わらないだろう。しかし、カーストの頂点に立つ四月一日が直接手を下すとなったら、百目鬼のクラス内での立場なんてたった一つのイベントでひっくり返る。
大人にとってか会社が社会で全てであるならば、高校生にとってのクラスが社会で全てなのだ。ここで下手をうって、俺のようにクラスカーストを低空飛行するわけにはいかないはずだ。
「どこで、それを……っ!」
「放課後、付き合ってくれるよね?」
ゲス顔で追いつめていく。英語のノートは百目鬼がいない間にかすめとったもの。そしてそれを今、遠回しに脅しの道具として使っている。ヒラヒラとさせ、今にも秘密のノートを御開帳させようとしている。やっていることや表情からしてとにかく完全に、悪党そのもの。
「……てめぇ……」
「へぇ。それがキミの答えっていうことなのかな? だったら――」
ノートの両端を持って広げるとチラリと、絵の線が見えてしまう。
「く、くそがああああああっ! わかったっ! お前の言うとおりにしてやるっ!」
悪い、先に帰ってくれるか? と一緒に変える約束をしていた友達に言い放つと、まるで決戦を控える兵士のような面持ちで四月一日のもとへと向かっていく。ピリピリとした空気に、いつの間にか教室が支配される。クラス中が事情を理解できないにしても予感していた。かつて、不完全燃焼で終わったあの頂上決戦が、ついに本格的に開戦することを――。




