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01.世界はそういうふうにできている

 凡人が努力しても、夢は叶わない。

 それは誰もが知っているこの世界の真実。

『人』の『夢』と書いて『儚い』と読むことから分かる通り、夢は決して叶うことはない。

 無駄な努力を積み重ねても一生を台無しにしてしまうだけなのに、無責任な親や学校の先生が「大志を抱け」と嘯く。家庭を作ったり、公務員になったりしていて安定を求めている人間こそが一番口にしてはいけない言葉を平気で口にする。

 その薄ぺっらい言葉を信じてしまった才能のない誰かが、今日もどこかで血を流して傷ついている。


 世界はそういうふうにできている。









 タイトル:【書籍化の打診を受けました】

 本文:みなさん、お久しぶりです。ずっとお世話になっておりましたこの小説投稿サイト『ヴァルハラ』で書いてきた私に、書籍化してみないかという大変奇特なレーベル様がでたと、運営様から連絡をもらいました。書籍化するかはまだ決めていませんが、一応ご報告します。


 それは、とあるネット小説家の、小説投稿サイトの活動報告。もちろんアマチュアだ。それなのに、彼女へのお祝いのメッセージは、百件をはるかに超えていた。


 ――すげええええええええっ!! 流石、巨人殺しの弟子先生っ!! 受けますよね? 絶対、受けますよね? 超楽しみにしていますっ!!

 ――書籍化の次は、コミック化、そしてアニメ化待ったなし! 既にブックマークは五千を超えてるよね? 絶対なるって! 声優早めに決めておいた方がいいよー

 ――買います! 書籍化したら、保存用、観賞用、布教用で三冊は買います!!


 活動報告には賞賛コメントばかりなのが意外だった。《隠者の逆位置》とかいうペンネームの絵師の人から応援イラストまでもらっているのだって異常だ。だって、やっぱり、ネット小説はマナーなんてないものだ。「死ね!」とか、「あなたの小説を読んだのは時間の無駄でした、責任をとってくださない」なんて感想を書かれるのは日常茶飯事。『読者様は神様』理論で、とんな暴言もまかり通る。

 だから素直にすげぇって思う。なんでそこまで人気あるのかって、もちろん書籍化するであろう作品が、神作品であることもあるだろうけど、やっぱり、作者の人柄だろう。だって、できるか? 百を超えるコメントを全部懇切丁寧に返すなんてことを。プロのアイドルだって難しい。挑発的な発言だって事もなげにかわす。

 ――つまんねぇーなんでこんな作品が書籍化?

 とかいうコメントにだって、

 ――ありがとうございます! つまらないって批判してくださるってことは、読んでくださっているんですね! だったら、鳥の皮のから揚げさんが面白いって言ってくださるように、私、絶対頑張りますねっ!!

 という、まさかに神対応。さしもの《鳥の皮のから揚げ》さんとやらも、お、おう、とたじろいでいることだろう。ころっと心変わりして、アンチから信者へ早変わり。誰もが天才ネット小説家をほめたたえる空気ができあがってしまっている。

「いやだああああああああああああああっ!!」

 そう、このマンションで悶えている俺以外はきっと、心の底から祝福しているのだ。今となっては超人気作家となってしまった《巨人殺しの弟子》を――。

 なんとも壮絶なるペンネームで、どんな意味を持つのかは俺は知らない。だが、このアマチュア作家と俺は浅からぬ因縁があった。


 ――この作品、おもしろいです! 最高です! 今まで読んだ中で一番! 空の夢先生って呼んでいいですか?

 ――い、いいえ。先生呼びはやめてください(汗) あの、全然さん付けで結構です。俺も、巨人殺しの弟子さんのことはさんづけで呼びますので――

 ――は、はいっ! 光栄です!


 初めて絡んできたのは、彼女の方からだった。ちなみに、《空の夢》は俺のペンネームというやつで、まあまあ適当につけたものだった。俺は小説サイトのマイページにある、プロフィール画面に出身地を書いていた。だからか知らないが、同郷である彼女からよく書き込みがあった。

 お気に入り登録0どころか、アクセス数0すら記録したことのある俺は、感想をもらっただけではしゃいだ。しかも、当時、相手は同い年の女子中学生。年齢や性別を偽ることの多いネットとはいえ、やはり同性代の異性から応援されるのはよりテンションが上がったのは否定できなかった。


 ――空の夢さん、私、小説を書き始めました! 空の夢さんに憧れてっ! 私、空の夢さんみたいになりたいですっ!

 ――読みました! とっても面白かったですっ! 心理描写は繊細で、情景描写は緻密ですね。まるで文章が光輝いているようで、感動しましたっ!!

 ――あっ、ありがとうございますっ!! 実は、ちょっと影響受けました! 私、もっと、もっと努力して、空の夢さんのようになりたいですっ! 空の夢さんはプロやアマチュア関係なしに、私の一番尊敬する先生です!


 俺達はいつの間にか相互フォロワーになっていた。どっちもお互いの小説が好きで、投稿する度に、感想を書き合った。別に、どちらかが主導で示し合わせたのではない。本当に、純粋にお互いがお互いを尊敬していた。ただし、俺はちょっとばかり先輩風を吹かして、アドバイスとかしていました。

「何言ってんの過去の俺ぇええええええっ!! だせぇええええっ!!」

 顔から火が噴きだすほどに恥ずかしいっ!!

「うーん、ここぉ、文章硬いね。もっと読者の目線を意識してみようかっ」

 とか、その時は普通に感想言っているつもりだったけど、今自分の感想読みかえしてみると、めちゃくちゃいてぇえええっ!! 認めたくないものだな、若さゆえの過ちというものを――とか、そんなかっけつけられないほどに、黒歴史っ!! 何もかもなかったことにしたいっ!! 違う世界線へとべよおおおおおおおおおおおおっ!!

「…………………………さて、どうしようか」

 お祝いのコメントを書くしかない。最近は色んな理由――主に、俺の劣等感によって、《巨人殺しの弟子さん》とは疎遠になっている。だが、流石にこの活動報告にはお祝いの言葉を書き残したい。きっと、俺なんかを置いて、プロデビューする彼女と、もしかしたら、これが最後の絡みかもしれないのだ。

 プロになれば、忙しくなる。毎日のように小説を投稿していた人が、パタリと更新を止めることだって珍しくない。小説を全部削除して、この『ヴァルハラ』から退会するのだって考えらえる。だから、やらなきゃ――どんなに辛くても、祝ってあげなきゃ――。


 ――巨人殺しの弟子さん、おめでとうございます。書籍化しても応援しています。


 まっ、こんなもんでいいだろ。ちょっと簡単すぎる挨拶だけど、これが限界です。血涙でそうなぐらい悔しい、悔しいけど、頑張った俺っ……。と、黄昏ちゃっていると、一分後に、空の夢さんへと、レスポンスが活動報告についていた。

「はぇえっ!! 流石未来のプロ作家だな……」

 執筆速度も尋常じゃない。こっちは一行で済ませたというのに、パッと見で、数行はある。頭の回転速度も、タイピング速度も常人離れしている。しかし、

「うへーみたくねぇー」

 だが、みないわけにもいかない。質問で返しているかもしれない。本当はまたあの時のような問題が発生しかねないので、あまり巨人殺しの弟子とは関わり合いたくない。だけど、シカトすれば流石に失礼にあたるので、チラリと文章を一瞥する。


 ――》》空の夢さんへ 応援メッセージ、ありがとうございます。応援してくださった皆さんがいたから、私もここまでこれたと思います。私一人じゃ、きっと挫けていたと思います。憧れていた空の夢先生にこれで一歩でも近づけていたら嬉しいです! 空の夢さんもきっと書籍化されるって、私信じていますっ! 一緒にプロになるのが私の夢です。だから――頑張りましょうっ!


 ガンッ、とパソコンを乗せている机に、両肘をつく。頭を抱え、それから、深い、深いため息をつく。

「ふぅううう」

 聖女のような彼女の神対応に、もう叫びを我慢することができない。

「もう勘弁してくれぇええぇええ!! 俺のぉ、俺の心はなんて汚いんだっ!! 浄化されるっ!! 魂まで浄化されて昇天しちゃうぅうう、らめぇえええええええっ!!」

 なんなんだろう。俺の今までの被害者意識は。自己正当化しようと必死になっていたのに、こんなんじゃ、こんなんじゃ、俺、くそみたいじゃん? 嫉妬して、適当に一文だけ乗せただけなのに、こんなに真摯に返されたら、もう勝つとこない。ラノベの面白さ的にも、人間的にも完全敗北だ。

 まな板の上に乗っている鯉みたいにじたばたしていると、ドンッ! と自室の壁に拳を叩き込まれる。ロマンチックの欠片もない方の壁ドンだ。


「う、る、さ、い! ね、ろ!!」


 起きてきたのは母親。今の時間は深夜二時。それなのに、パソコンの前でまるで動物園の猿のように騒いでいれば誰だってブチ切れる。俺だってそうする。

「…………はーい」


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