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墓参り

トリスさんと息子のマルスのお話です。

 僕は綺麗な城をぽかんと見上げる。


「マルス?」

「きれいだね」


 それ以上の言葉が出ない。赤、白、ピンク、オレンジ、黄色のバラに覆われた城。甘い香りを風が運んできてくれる。


「そうね。ここが今の時期、一番きれいな庭よ」


 母さんが、薔薇のアーチを指し示す。

 入り口にプレートがついている。


「はるのていえん?」

「よく読めたな。偉いぞ。じゃあ、行ってくるから」


 父さんの後半の言葉は母さんに向けられたものだ。

 僕は父さんの服の袖を引っ張った。


「どこ行くの?」


 父さんは緑豊かな山を指差す。

「あのお山の上だよ」


「僕も一緒に行く!」

「結構、上らないといけないし、坂も急だから。もうちょっと大きくなったらな」


 父さんの大きな手が僕の頭をなでた。



 あの後、お母さんの許可を貰って、僕は父さんに追いついた。


「母さんは?」

「ちゃんとご挨拶してきなさいって」


 さっぱり意味はわからなかったけれど、確かに母さんはそう言った。


「最後まで自分で登れるなら」


 父さんはあきらめきった表情でため息をつくと、許可を出してくれた。

 最初は、父さんの先を元気よく登っていったのだが、結局一定のペースを崩さずに登った父さんに手を引かれる羽目に陥った。


 何度か休憩を挟みたどり着いたのは山の中腹だった。


「ほら」


 父さんはそう言って眼下を指差す。


「わあ。すっごい!!」


 バラの城を中心に旧市街が一望に見渡せた。


「絶景ポイントであることは間違いないんだけれど、かなり登らないとならないし、お墓だから」

「お墓?」


 そう言えば、僕の後ろにはたくさんの石が並んでいる。

 父は、雑草に埋もれた墓のほうに向き直って、説明を続けてくれた。


「代々のウエストレペンスの王族の墓。死後も国を見守れるようにって、ここにあるんだ」

「ゾンビ王子のお墓は?」


 物語の中のゾンビ王子が、実在した人物だと言うことはレイス先生から聞いたことがある。


「ゾンビ王子の墓はないんだよ」


 すごく寂しそうにそう言うと、父さんは雑草を取り除いていく。


 なぁんだ。あったら、ゾンビ王子の墓を見たって友達に自慢できたのに。


 たくさん並ぶ墓石を見ながら、僕は想像していた。

 眠るべき墓は無く、永遠に森をさ迷い続ける王子を。


「……、私の四番目の子供です。ほら、マルスご挨拶」


 ボーっとしていた僕は、父さんの最初の言葉を聞き逃していた。

 すべての墓石の雑草をきれいに抜いたわけではないが、雑草に埋もれた墓は一つもない。

 ゾンビ王子の墓なら興味はあるが、他の人の墓なんてはっきり言ってどうでもいい。

 僕は軽く頭を下げただけだった。


 父さんがその墓を一番きれいにしていた意味も、母が「挨拶」するように言った理由わけも知らずに。


 僕が--俺が、その理由を知るのはずっと後のことである。


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