墓参り
トリスさんと息子のマルスのお話です。
僕は綺麗な城をぽかんと見上げる。
「マルス?」
「きれいだね」
それ以上の言葉が出ない。赤、白、ピンク、オレンジ、黄色のバラに覆われた城。甘い香りを風が運んできてくれる。
「そうね。ここが今の時期、一番きれいな庭よ」
母さんが、薔薇のアーチを指し示す。
入り口にプレートがついている。
「はるのていえん?」
「よく読めたな。偉いぞ。じゃあ、行ってくるから」
父さんの後半の言葉は母さんに向けられたものだ。
僕は父さんの服の袖を引っ張った。
「どこ行くの?」
父さんは緑豊かな山を指差す。
「あのお山の上だよ」
「僕も一緒に行く!」
「結構、上らないといけないし、坂も急だから。もうちょっと大きくなったらな」
父さんの大きな手が僕の頭をなでた。
◆
あの後、お母さんの許可を貰って、僕は父さんに追いついた。
「母さんは?」
「ちゃんとご挨拶してきなさいって」
さっぱり意味はわからなかったけれど、確かに母さんはそう言った。
「最後まで自分で登れるなら」
父さんはあきらめきった表情でため息をつくと、許可を出してくれた。
最初は、父さんの先を元気よく登っていったのだが、結局一定のペースを崩さずに登った父さんに手を引かれる羽目に陥った。
何度か休憩を挟みたどり着いたのは山の中腹だった。
「ほら」
父さんはそう言って眼下を指差す。
「わあ。すっごい!!」
バラの城を中心に旧市街が一望に見渡せた。
「絶景ポイントであることは間違いないんだけれど、かなり登らないとならないし、お墓だから」
「お墓?」
そう言えば、僕の後ろにはたくさんの石が並んでいる。
父は、雑草に埋もれた墓のほうに向き直って、説明を続けてくれた。
「代々のウエストレペンスの王族の墓。死後も国を見守れるようにって、ここにあるんだ」
「ゾンビ王子のお墓は?」
物語の中のゾンビ王子が、実在した人物だと言うことはレイス先生から聞いたことがある。
「ゾンビ王子の墓はないんだよ」
すごく寂しそうにそう言うと、父さんは雑草を取り除いていく。
なぁんだ。あったら、ゾンビ王子の墓を見たって友達に自慢できたのに。
たくさん並ぶ墓石を見ながら、僕は想像していた。
眠るべき墓は無く、永遠に森をさ迷い続ける王子を。
「……、私の四番目の子供です。ほら、マルスご挨拶」
ボーっとしていた僕は、父さんの最初の言葉を聞き逃していた。
すべての墓石の雑草をきれいに抜いたわけではないが、雑草に埋もれた墓は一つもない。
ゾンビ王子の墓なら興味はあるが、他の人の墓なんてはっきり言ってどうでもいい。
僕は軽く頭を下げただけだった。
父さんがその墓を一番きれいにしていた意味も、母が「挨拶」するように言った理由も知らずに。
僕が--俺が、その理由を知るのはずっと後のことである。




