第96話 過去の兵器群
鬼族の遺跡部分には、タイカーシアやナザガラン、トラフェリアなどのエルフ由来人が住む国々とは違い、文化圏の歴史は垣間見えなかった。
その代わりに進む中で目に留まったのは、やたらと武器や兵器の様な物が置いてある事だった。
剣や斧、弓矢に槍……そういった古来よりよくある武器に加え、巨大な人型や獣型機甲兵が数機、膝を折って壁にもたれ、或いはうずくまるようにしてそこに沈黙している。
その機甲兵は金属とも陶器とも見分けが付かない物質で作られていた。
数千年間鎮座しているであろうその体躯には、苔が張り付きはしているものの劣化度合いは認められない。
更に驚く事に、機甲兵は瞳らしき部分をゆっくりと点滅させていた。しかし動き出す気配はない。
他にもその近くには機械で出来た箱や……先が尖った筒状の金属物など、彼らには到底理解出来ないような代物も積み上げられていた。
失われた古代文明の兵器遺物、と言ったところだろうか……
「これは……一体……」
見た事もない物を前にし、それぞれが恐ろしげに呟く。
少し先に行った右手の神殿様に作られた内壁には、壁と同じ材質ではあるが、まるで生きているかのような精巧な女性の彫像が一体、埋め込まれている。
一行の中で唯一僅かにラキシャ語が読めるフィスファーナが、女性の像の下に記されている石板のラキシャ語を、空白がありつつも読み明かして行く。
『古来鬼族相闘,刃交無窮。
遂造自律機甲兵,以招滅亡,國遂崩壞。
(鬼族は昔から内部で戦いが絶えず、ついに兵器を作り合って国家としては滅びてしまった)
故以強術延命者,各絶其縁,歸於孤寂。
(生き残った者たちは強力な魔法で個々に生きるようになり、やがて交流も途絶えてしまった)
是以戒之,封文明與兵骸於此地。
(その時代への戒めとして、古代の文明や兵器をこの地に封印する事にする)
後世之民,禁其探究。
(後世の者がそれを解明する事は禁止する)
宿不滅命力於機甲兵者,鎮此地安寧。
昔有犯死理而復愛者,彼為此地之番。
(永遠に動き続ける機甲兵を封印しこの地を守る為に、かつて「死を解明し、愛する者を蘇らせた罪人」を番人として置いた)
番者,受司死地『流無我亞堕』之「死界之翼」。
其翼之継者現時,罪乃交替焉。
(死地ルムンガーダの管理者より賜わった、死界の翼を生やす生贄により次の死者復活がなされる時、その番人は赦され交代できるだろう)』
「ええと……結局どう言う意味かしら」
アウドラが、冑を手甲を嵌めた指先でコンコン突きながら困惑する。
「要約すると『過去、国を個人単位にまで分けてしまう程分断させた戦いに使った、悪い文明の兵器群をここに置いておくけど、後世の奴は作り方なんかを研究するな、機甲兵は永久機関だから動かないように見張るのと、この地の封印の為にも番人を置いておくからな。
その番人ってのはかつて禁術で死者復活をしてしまった者で、またいつか同じ事をしたヤツが現れない限り、役目は交代できないぞ』って事だ」
リュークが皆に分かりやすく説明する。
「……そうなの……」
「この文面をあっさり解説なさるリューク殿下、凄いですね……」
アウドラとラザルが返事をする。
「こんな物を遺跡として封印するとは。鬼族の中にも良心の呵責に悩む種族がいたという事なのだな」
ヴェイルが言った。
「で、どうやらその『死者復活』のやり方みたいなのがこの奥にあるようなんだけど……」
リュークが顔をあげて遺跡の奥を見た。
「どうも……通してくれそうにないんだな、これが」
彼が苦笑しながら呟く。
彼らの前に、先程まで佇んでいただけの筈の鬼の姿をした白い彫像達が、いつの間にか息を吹き込まれたかのように動き出して並んで来ていた。
その像の軍勢は、各々手を広げてこちらに向かって歩いて来る。
その数、ざっと200体程……
【……ここより奥に入ってはならぬ……去れ】
皆の頭に直接響く声がした。
リュークが左手で背に預けた長刀の鞘を引き寄せ、左脇で角度を作る。
「……ご忠告痛みいる」
右腕が肩に覗いた柄を掴む。
「だがな、ここで帰っちゃあ意味がないんだよ!」
声と同時に、左手が鞘を下へ、右手が柄を上へと引いた。
刃が閃き、虚空が鋭く裂かれる。
地を蹴る音だけを残し、彼は駆け出した。
長刀が腕の中で、獲物を狩る角度へとクッと向きを変える。
同時に、他の4人の鞘からも金属音が重なり、各々が火花のように散開する。
彫像軍が襲いかかる。
殴り付け、蹴りかかり、思いもよらない程飛び上がって肩ごと叩きつけて来るのだ。
一行はそれを剣で叩き潰して行く。
ここにいるのは魔王軍の中でも精鋭だ。
皆、一振りで2、3体は倒して行く。
倒されて地に落ちた彫像は、形を崩し地面に吸い込まれて行った。
「フィスファーナ!大丈夫か?」
剣を振りながらヴェイルが気遣う。
「ええ!凄いわこの身体。身のこなし方が並じゃないのね!」
話しながら身軽に剣を振るい、像を倒す。
「アリアってどんなお姫様なの?」
「あの子はドラゴンキラーの勇者だ。言っていなかったっけ?」
ヴェイルが答える。
「ドラゴンキラー?!」
彼女が驚いて言った。
「アリアは花崗竜や玄武岩竜などの駆除対象暴れ竜を、よく一刀両断している。ちなみに俺もかつて襲撃された」
——少し前には竜王城も破壊したしな!
皆が思うが、口には出さない。
「なんですって?!ちょ、なんて危険人物を婚約者にしてるの?!」
「俺は、と言うより魔族は強い子が好きだから」
彼が言いながら身体を捻り、踏み出しの勢いに乗せグルリと一振りで6体の彫像を叩き潰した。
「強い子が好きって……それで済ますの?ねえ……あなたやっぱり性格も何処かパトラクトラに似てるわね」
フィスファーナは呆れて言ったが、すぐに右側から襲って来た彫像を蹴散らした。




