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麗しのハーフダークエルフの最恐魔王が勇者アリアにだけは甘い  作者: 久遠悠羽
第4章 死者を愛する者の罠

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第79話 記憶をなくした女帝

 浮遊城に着いたロイとパトラクトラは、そのままの形でスウゥとリヒトの目の前まで運ばれて行った。


「お帰り、ロイ。何を拾ったのだ?」

「女の人が……海に堕ちそうだったから……ありがとう、リヒト。花籠は落としちゃった。ごめんなさい」

 ロイが言う。


「花はまた集めればいいさ……女性だと? どれ……」

 リヒトが座っていた椅子から立ち上がり、気絶しているパトラクトラに近付いた。


「……まさか」

 彼女の顔を見て驚く。

 そして支えていた自分の術式人形である式神達の元から彼女を抱き上げ、別室まで運んだ。


 ベッドに寝かせて顔に掛かった髪を掻き上げて見る。

「パトラクトラ様?」

「リヒトの知っている人?」

 ロイが問う。


「いや、どうだろう」

 リヒトが戸惑った様に言った。


「う……」

 その時、パトラクトラが目を開いた。

「紫水晶の瞳だ……やはりパトラクトラ様。少し大人びてらっしゃるが」

 彼が呟いた。


「……ここは?」

 彼女が問う。


 リヒトがはやる気持ちを抑えながら言った。


「ここは私の城、鬼族ラーキシャスの地にある浮遊城です。

 あなたは……パトラクトラ様で間違いありませんか?

 覚えておいででしょうか。私はリヒトです」


「リヒト? パト……ラクトラ……? それが私の名前なのか?」

「え? 違うのですか?」

「私……? 私は誰だ?」


「はい? ……もしかして、ご自分のお名前が分からないのでしょうか」


 彼が驚く。

 心の中で失望にも似た感情が渦を巻いた。


「名前か……うむ、その様だな。私は自分が誰か分からぬ」

 半身を起こしたパトラクトラが不安げに下を向いて言う。


「その記憶を無くしても尚、王族的というか古風なお話し方……やはりパトラクトラ様だと思います。

 しかし御歳が……確か18歳だった筈ですが、なんとも艶やかな大人の女性に……うーん、20、いや30代……?」


「艶やか? 大人? それは褒め言葉というものか?」

 彼女が聞いた。


「……褒めてます。決して私の記憶の中よりもお歳を召して……いえ、褒めてます」

 パトラクトラは眉を顰めたが、やや焦って言う彼の横にいるロイに目をやった。


「この子は?」

「彼はロイです。あなたが海に堕ちかけていた所を助けたそうです」


 ロイが不思議そうに首を傾げた。

 何処かで見た事がある……そう思ったのだ。


 パトラクトラも彼をじっと見ていたが、やがて微笑んで言った。

「お前が助けてくれたのか。立派な翼だな。ありがとう」

「う、うん……」


 二人の様子を目にしたリヒトが、思い付いた様に言った。

「あの、恐らくあなたはパトラクトラ様だと思うのですが……立てますか? いえ、お運びします。見ていただきたいものがあります」


 そうしてもう一度彼女を抱き上げ、そのまま歩いて大広間に向かった。

 ロイも大人しく着いて来る。


 大広間に着くと、彼女を例の棺の側に立たせ、魔法で慎重にガラスの蓋を開けた。

 中にはフィスファーナが眠っている。


「これ……は……この人は……」

 パトラクトラが思わず棺の中に入った。

 そして彼女の身体を抱き上げ、愛おしげに抱き締めた。


「その人が誰か分かるのですか?」

 黙って見ていたリヒトが聞く。


「分からない。でも……でも……」

 それ以上何も言えなくなったパトラクトラが、フィスファーナの頬に自分の頬を寄せて、一筋の涙を流した。


「やはり……パトラクトラ様だ。フィスファーナの時空移動術が成功していたのですね。お久しぶりです」

 リヒトはそう言うと、その側に跪いた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 夜もふけこんで来た頃、事件のあった鬼族ラーキシャスの地の海上に、2頭の飛竜の姿が現れた。


 暗闇ではあるが、この星の北半球にはいつも見えている双月の光が、淡く辺りを照らしてくれている。


[父上がすっごくすっごく危ない気がした! あの父上が!]

[兄様、この辺りから父様の気配がするよ!]


 飛竜はヴェイルの王機竜ストライアと、リュークの王機竜ユシュランの兄妹だった。

 

 彼らは父ラタウスの危機を野生の勘で感じ取り、不安に駆られて探しに来たのだ。


[うーんうーん……何処だろう……]

[あ! 兄様アレ! 海の上に落っこちた鳥みたいなのがいる!]

 妹のユシュランが何かを見つけて叫んだ。


 二頭が近付いてみると、それは確かに海上に落下したラタウスだった。

 仰向けで翼を無造作に広げ、長い首を曲げて目を瞑って浮いている。


[父上!]

[父様!]

 

 ストライアとユシュランが叫ぶ。

[どうしよう……グッシャグシャの濡れ濡れだ……重そう……]

[父様生きてる?]

[多分]


 二頭は困ってしまった。彼は自分達よりも大きな親竜だ。

 掴んで空を飛ぶ事は無理そうだ。


[タイカーシアの陸地まで後800ガルドル程だ。僕達で運ぼう]


 彼等はそれぞれが自分の翼をぶつけないように、ラタウスの左右の翼の中間辺りを脚で掴んで羽ばたき、海上をズルズルと引っ張って行った。


 巨体が引き摺られてザバザバと波を立てる。


[うー、重い……お水がはねて濡れちゃう]

[頑張れユシュラン]


 その内、彼が目を覚ました。

 波立ちのせいで、横向きになった頭に海水を被り続けている。


[ガボガボッ! ちょ、待てお前達、海水が! 辛い! ガヴォッ! 溺れるッ!!]

[あ! 父上起きた! やっぱり生きてた!]

[良かった~]

 

 二頭が運びながら安堵する。


 翼の自由がきかないラタウスが、四肢をバタ付かせて叫んだ。


[だから止め……ガボッ……コレ死ぬからっ! 待って、一旦止まってぇ!!]


 彼ら以外動く物のない波の上に、父竜の必死の声が滑って行った。


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― 新着の感想 ―
改めて4章の3話を読み返しました、、!! アリアの夢にドキドキして、パトラクトラ様の衝撃の展開に震えてます...まさか、こんな形で再会するなんて....ッ パトラクトラ様も心配だし、 ヴェイル様たち…
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