第66話 親族間戦争最終決戦2
ヴェイルと背中を合わせるように戦う父王グラディスが詠唱する。
「地殻爆破!」
途端に地面が多数の遺体もろとも裂け、30平方ガルドル(30㎡)程の広さの地盤が崩れた。
敵が足場を無くし、一瞬浮遊する。
その機を狙って追撃の詠唱をした。
「雷閃斬破!」
雷が剣の形になり、揺らいだ敵に降り注ぐ。
多数の敵が斬り裂かれ、爆裂した。
「グラディス!!」
最終決戦に参加している、首謀者でもある長兄ジーミアスと次兄ルドマルク他数人が、怒りの声を上げて襲い掛かる。
「父上!うわっ!!」
間に入ったヴェイルが敵の雷にやられて遠くへ弾き飛ばされた。
「ヴェイル!」
グラディスが叫ぶ。
そこへ更に何人もの敵が一斉に斬りかかった。
「剛玉防御・自動!」
体勢が整えられないままにヴェイルが詠唱する。
グラディスの身体の周りに縦横50ルドル(50cm)程の幾つもの氷の壁が出来た。それが半透明に結晶化して剛玉の硬さとなり、敵の剣を弾く。
その防御壁は自動追尾の様に敵の動きと剣に合わせて移動し、父を襲う攻撃を次々に防ぐ。
「ヴェイル!よせ!自分に集中しろ!」
グラディスが薙ぎ倒しながら叫ぶ。そこへ長兄と次兄が更に斬り掛かって来た。
「くっ!!」
「電光剣撃!」
「撃雷打!」
長兄と次兄が同時に叫んだ。
「うわあああっ!!」
グラディスが雷の直撃と雷剣を受けて吹っ飛んだ。
防御壁も衝撃で消えてしまう。
「父上ー!!」
「何処を見ている!」
必死に叫ぶヴェイルに次兄の息子達と数人が刃を振りかぶって来た。
敵の雷を纏わせた刀を剣でいなし、尚もグラディスを気にする。
「父上!今、防御を掛け……!」
一瞬集中力が切れた隙を突かれたのか、右腹部に後ろから魔力を込めた剣が鎧を通して突き刺さって来た。
「うっ!」
彼の動きが止まる。
他の数名が更に剣で突き刺そうとしたが、突き立てた次兄の息子のレーゼンクルが止める。
「コイツには仲間を殺された恨みがある。俺が痛め付けて殺す。お前達は他の奴らを殺せ」
そう言って臣下を散開させるとニヤリと笑い、後ろから更に魔力を込めて剣を押した。
傷口に込められた雷撃がバチバチと全身を走る。
「ああっ!!」
ヴェイルが堪らず悲鳴を上げた。
握り締めていた自分の剣が手から離れ、ガランと地に落ちた。
身体を突き抜けてしまった刃が前面腹部の鎧の裏側に当たり、ギリリと音がした。
傷から鮮血が迸り、パタパタと音を立てて地面に散る。
「「ヴェイル!!」」
敵の剣を弾くグラディスとリュークの必死の叫びが聞こえた。
「クソっ!何故倒れん。何故死なないのだ!」
自分に剣を突き刺しているレーゼンクルの驚愕の言葉が耳に遠く聞こえる。
「く……」
激痛と出血の多さに霞む視界の中で、自分に駆け寄ろうとした父が多数の敵に斬り付けられる有様が映った。
——ダメだ……殺される——
目元に小さな蒼い炎が現れた。
同時に魔法陣に詠唱文が超速で再読込される。
ヴェイルは血飛沫を跳ねさせながら必死に手を挙げ叫んだ。
「父上ー!防御除外、重力圧殺!!」
すぐさま父王グラディスの周りに新たな防御結界が展開され、ゴフリと金属の鎧ごと押し潰される鈍い音が一斉に響き、地鳴りと共に景色が動いた。
防御結界外の広範囲の、敵がいる空間が一瞬で圧縮されたのだ。
……数十人の人間が、身体を幾つもの赤い薔薇の様な模様に変えて地面に散っていた。
グラディスに向かって数人の敵が振り上げていた前腕部や膝頭が、防御結界内に入って置いて行かれた様にその威力の範囲を免れた。
……それらは主を失い、空中から落下する。
その際に緩んで開かれた掌から剣が溢れ、共に落ちてガシャンと音を立てた。
場は敵味方共々一瞬呆然として動きが止まった。
「……あ……そんな……」
荒い息をしながら術を出した本人も我が目を疑う。惨状を見つめる瞳がみるみる切なげに歪んで行った。
「俺は……なんて事を……」
誰に言うとなく口をつく。
「……貴様」
ヴェイルを刺しているレーゼンクルが、父親を圧死させられた怒りにブルブルと震えた。
「貴様ぁ!!よくも父を!!許さん!!」
「霧爆!!」
ヴェイルが我に返って、後ろ手に剣を離さず絶叫する彼の腕を掴み、詠唱する。
――謀反者の息子は叫びを上げた姿のまま、一瞬で霧となって消えた……
「「ヴェイル!」」
「王太子様!」
グラディスとリューク、ストリクがやっと側に駆け付けた。
崩れ落ちたヴェイルを皆で支える。
彼は激しくなる呼吸をなんとか抑え、自分に突き刺さる剣を霧散で消した。
傷口を押さえ、血管を一旦凍らせて止血を試みる。
「……回復出来るか?」
手を握り、息子に魔力を足しながらグラディスが聞いた。
ヴェイルは傷口から靄を立ち上げつつ小さく頷く。
王太子はこれ以上は戦えないと見込んだ敵が更に突撃して来た。
グラディスが4人全体に強力な防御魔法を掛けた。
その防御壁の上からガツガツと剣を叩き付け、攻撃魔法を放つ。
ストリクも二重に、リュークも三重に防御魔法を掛けた。
敵の数、残数約50……
4人はもう、疲労困憊の状態だった……
防御壁を張る事に専念するしかなかった3人は、暫くして異変に気が付く。
壁の近くで剣を打ち付けている十数人が、急に動かなくなったのだ。
「?!……な……」
よく見ると敵の足元からバキバキと氷が上に侵食して行っている。
「……何?」
傷を癒している最中の筈のヴェイルが、うずくまったまま片手で地面を強く握っていた。
地中の水分を利用して外の敵の身体に術を送り込んで行ったのだ。
その漆黒の髪は銀に変わり、金の瞳は蒼白く凍りだしていた。
全身もグラディスが手を持てない程にヒヤリと冷たく凍って行く。
「ヴェイルやめろ!やめてくれ!!」
リュークが叫ぶ。
「ヴェイルよせ!それ以上魔力を使うな!!死ぬぞ!」
グラディスも悲痛な叫びを上げた。
「氷塵瀑!!」
ヴェイルが叫んだ。
途端に凍り付いていた敵が全て砕け散る……
範囲を逃れた兵達の、驚きの顔が場の時間を止めた。
しかしヴェイルはそのまま……静かに突っ伏してしまった。




