第67話 親族間戦争最終決戦3
「ストリク! 頼む。ヴェイルにお前の魔力も分けてやってくれ!」
冷たいヴェイルを抱き締めて、自身も魔力を送りながらグラディスが言う。
「はい、陛下」
ストリクが彼の冷え切った手を握り、自分にしても擦り減ってしまった魔力をなんとか送る。
「……陛下、父上。これから撃つ術で、全域が焼き尽くされます。
防御壁の維持をお願いします。
兵たちの遺体も全部灰になります……申し訳ありません。ご遺族へは、オレから謝罪します」
リュークが二人に言う。
「……リューク……お前……」
父であるストリクの目が見開かれる。
彼が振り返って微笑んだ。
「ヴェイルの事も頼みます。……起きたら『無茶するな』って、オレが叱ってやりたいんです」
リュークは敵に向き直ると、詠唱に入った。
敵の総数はまだ30人を超えている。
「燃え立つ焔よ その痕跡に神雷を纏いて瞬時に滅せよ……」
彼の赤みがかった金の瞳に焔が燃え出す。
「化け物とて怯むな! 王太子はもう使い物にならない! あとひと押しだ!」
運良く生き残った長兄ジーミアスが士気を仰ぐ。
全員が四人に向け、一斉に襲いかかって来た。
瞬間、リュークが防御壁から飛び出して叫んだ。
「焔雷殲閃!!」
彼の全身が炎と電撃に包まれ、差し出した両腕から巨大な火焔が立ち昇り、幾つもの炎の剣戟となってあちらこちらで暴れ出す。
「うわああああっ!!」
「ぎゃあああああっ!!」
急速な温度差でゴオオオォと言う爆音と共に酸素を取り込んだ強烈な熱風が発生し、吹き荒れた。
数千度となった火焔に敵兵が全て巻き込まれて、鎧ごと溶かして燃えて行く。
彼の詠唱は更に天から何千本もの雷を降り注がせ、命を吸い尽くす様に焼き焦がす。
辺りは一瞬で視界を白に塗り潰す眩い稲光に包まれ、直撃を受けた地面の砂はガラス状のフルグライトに変化した。
その威力は南砦前の合戦場の範囲を遥かに上回り、逃げようとした者も周辺の立ち木の林をも飲み込んで大規模な燃焼爆発を引き起こし、一瞬の内に燃え尽くして行く。
横たわっていた数々の傷ましい兵達の遺体も、骨も残らず灰と化して行った……
鼓膜が破れんばかりの雷撃が止み、火焔の威力も収まった頃、そこに生きている者は王と王太子、ストリクとリュークのみとなった。
術の反動で焼け付いた身体を支えきれず、リュークがガクリと膝を付き、そのまま地に伏してしまった。
思わずストリクが駆け寄る。
「もう体力も魔力もなかっただろうに……逝くな、我が息子よ……誰かおらぬのか回復が出来る者は……」
彼を抱き抱えて周囲を見回した。
しかしたった今リュークが敵を殲滅してしまった大地には、勿論動いている人影はいなかった。
父になんとか応えようとリュークが顔を上げかけた時、
「兄上! 申し訳ありません!」
と、母、ミシュレラが転移魔法陣で飛び込んで来た。
「西軍砦、陥落しました……生存者は私のみです……」
彼女は地面に突っ伏す様にして息を整えて報告する。
「……追手が来ます……約60人近く……」
「何……だと?」
グラディスが呆然として返した。
「リューク?!」
ミシュレラが息子に気付く。跳ねる様に近付き、涙を流す。
「リューク……ああ……あの術を使ってしまったのか……」
そしてストリクと交代し、意識も朦朧としている彼をしっかりと抱き締めた。
「この母にも僅かだが回復魔法がある……頑張れ……」
母の声に反応して、リュークの指が微かに動いた。
魔法に癒され、遠ざかりかけた命がなんとか引き留められて行く。
程なく転移魔法陣で追手が現れた。
――こちらの陣営にはもう、援軍として呼べる者がいない。
「よう。ひでぇ有様だな……なのに魔王と王太子がしぶとく生き残ってるじゃねえか」
傭兵団の代表らしき者が言う。
「……お前達を雇っていたジーミアスもルドマルクも戦死した。もう戦う理由はないだろう……」
グラディスが用心深く話す。
「……まあ、そうだがな。このままでは俺達もジリ貧なんだよ。見た所五人しか生き残っていない様だな。
これは俺達がお前達を皆殺しにして、王になっても構わねえって事じゃねえのか?」
「何を……」
彼は歯軋りをした。
もう五人共魔力も体力もほとんど残っていない。
子供達などほぼ瀕死の状態だ。
ヴェイルとリュークを護って自分が60人も相手に後どれぐらい戦えるのか……グラディスに不安が過ぎった。
火焔と雷で焼かれた空気が風で入れ替わって行く……
夕刻に差し掛かった恒星が山の端に姿を隠そうとしている。
「爆風鋭刃……」
先ほど話し掛けてきた男が詠唱した。
彼の頭上に強力な旋風と斜めに回転する鋭い2枚の風の刃が出現する。
「行くぜ!」
「!!」
まず少し前方にいるストリク、ミシュレラとリュークの3人が狙われた。
彼らに真っ直ぐ刃が向かう。
子らの回復に力を集中していた大人達の防御が遅れた。
あっ! と思ったが、キイィン!! と澄んだ音がして、彼らの手前で刃が止まった。
「何っ?!」
「ヴェイル?!」
男とミシュレラが同時に叫ぶ。
まだ銀髪で靄に包まれているヴェイルが立ち塞がり、剛玉防御を巨大な壁状に展開して攻撃を防いでいた。
「ヴェイル?! あいつまた!!」
たった今抱き締めていた筈のグラディスが、空の腕の中を一瞬見て顔を上げて驚愕する。
彼はハアハアと大きな息をし、
「兄上は……俺が……護る……」
と呟いたが直後にバランスを失い、頽れてしまった。
ヴェイルの身体の動きに合わせて、防御壁がひび割れたガラスが散り落ちる様にハラハラと解れて消えてしまう。
「ビビらせやがって! 死に損ないが!」
男が叫び、また術を出そうと構える。
「させぬわ! 雷鋭長槍!!」
男より速く詠唱したグラディスの声と共に、雷を纏わせた長槍が空中に数十本出現した。
それは間髪入れずに雨の様に敵に降り注ぐ。
「うわあああっ! 一旦退避!!」
見る間に十数人が串刺しとなって倒された傭兵達が、慌てて後退した。
その隙に彼が素早くヴェイルを抱き上げ、五人はまた集まって結界を張った。




