第63話 従姉妹で竜騎士、の帰還
「それにしても、術発動の跡地から術式割り出すなんて凄いな。そんな事姉上とリュークぐらいしか出来ないよ。あれで俺だって分かったんだろ?」
ヴェイルが感心して褒めた。
アウドラが思い付いた様に言う。
「そう! あの土地。警備員に聞いてみたら『戦乙女リィナ=エミル様が』とか言うじゃない。
なんなのそれ。ワタシはヴェイルの術だって思ったのよ。
でも……あんた立派に大きくなって凄い美男子になってるけど……女装趣味があったの?」
「女装……趣味……?」
思いがけない言葉に悲しそうな顔をする。
「違うんだ。ルガリエルでの作戦でトラフェリアの姫の身代わりをして……それにいろいろ尾鰭が付いて。
俺がリィナだって知ってるのは本当に数人だけで、側近達すら知らない。姉上も黙っていてくれるかな」
――なんって切なく儚い顔するの? ダメだわ虐めたくなる……
アウドラの悪い癖が出た。
「ええー? ……どうしようかなぁ……」
彼女は周りを見た。この第2広域訓練場に人影はない。
「じゃあ、リィナの姿見せてよ。そしたら黙っていてあげる」
「ええ……? 今? ここで?」
「うん。後で何でも言う事聞くから」
アウドラが悪戯っぽくウィンクをする。
「『何でも』? ……その言葉忘れないでくれよ。少しだけだからな」
ヴェイルがため息を吐いて一歩下がり、詠唱した。
「魔装武装『戦乙女』」
戦乙女リィナの鎧を装着し、認識阻害魔法で金髪碧眼になる。
目元の薄紫のアイシャドウと右目の下の王族証明紋章が消え、本来の色白の透き通る様な素肌が現れた。
「うわ……」
アウドラがその美しさに驚愕した。
金髪碧眼でなければどちらかと言うとこちらの方が素顔なのだが……
「こ、これで……いいかな?」
ヴェイルが恥ずかしさに顔を逸らせて言う。
「可愛い! 綺麗!」
「……え?!」
彼女が思わずヴェイルの首にガバッと抱き付いた。
白く艶やかな頬と柔らかな髪がヴェイルの頬に密着し、鎧越しとはいえ豊満な胸が身体にギュウッと押し当てられてしまう。
その時、リュークが転移魔法陣で第2広域訓練場に現れた。
「2頭の竜……デカいな……」
小突きあっている竜達を目で追って眺めながら小走りで二人を探す。
「……いたいた、あっ! リィナにさせられてる!」
リィナ姿のヴェイルとアウドラに気付き、慌てて近付いた。
「こ、こら! 離れろ!」
抱き付いているアウドラと固まってしまったヴェイルの肩を持ち、二人を引き剥がす。
無言のまま真っ赤になっているヴェイルを見て気の毒に思ってしまい、アウドラに向かって
「アウドラ姉上なんだろ? ヴェイルに不用意に抱き付くな。
それに作戦でもないのにリィナにさせてやるな……綺麗すぎるのも逆にコイツの悩みなんだよ」
と文句を言った。
「……」
彼女は黙っている。
「……え? あれ? ……姉上?」
拍子抜けなアウドラの様子にリュークが聞き直す。
「……リューク……」
彼女が戸惑った様に一歩踏み出した。
「ん?」
「リュークぅ~会いたかった……」
切なげにそう言うと、今度は彼の胸に飛び込むように抱き付いた。
背中に回した手甲のままの手に、つい力が入ってしまう。
「うわっ、って……ええ?」
驚いてアウドラを見た後、ヴェイルの方を見る。
ヴェイルはリィナの鎧装を解いて元の訓練着に戻った。
困った様に二人を見ていたが『抱き返してやれ』と手振りで示す。
「……姉上……」
リュークは観念したように、自分の首元にくっ付いて黙って動かないアウドラの頭に顔を乗せた。
「久しぶりなのに……何があったんだ?」
彼はそう言うと、彼女を包み込むように抱き締め、静かに髪を撫でた。
さっきの様に剥がされるかと思っていたアウドラは少し驚いたが、リュークの優しく撫でる仕草に、安心した様に目を瞑った……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アウドラ=ランガイア。
ヴェイルの父グラディスとリュークの母ミシュレラ兄妹の一番上の姉、マルラハリアの娘である。
マルラハリアは五人きょうだいの長子に当たる。
長女マルラハリア、長男ジーミアス、次男ルドマルク、三男グラディス、次女ミシュレラ。
この内長男と次男が組んで長きに渡る親族間内戦争を引き起こしたのだ。
先先代魔王、即ち彼らの祖父、ザハナーグ=ヴォルクリアは、隣国竜族国ドナウザーン公国との友好関係を強化する為に、当時の竜王の三男であったラグナス=ランガイアとマルラハリアを婚姻させた。
しかし自分の側近としての仕事をさせる為、彼女を子のアウドラと共にナザガランに居住させていた。
公国へはマルラハリアがアウドラを連れて月に2度ほど帰国する生活を送っていたのである。
アウドラはリュークとヴェイル、ロイが攫われた日に、軍部が動いて警備が薄くなっていた所を狙われ、別館で襲撃に遭った。
その際、居合わせた祖父ザハナーグ、祖母メルトラミア、それに母が殺害されてしまった。
彼女は逆上して、12人程いた刺客をヴェイルと同じく惨殺している……。
その当時、15歳だった。
初陣は済ませていたのだが、人間を殺害したのはやはりその時が初めてだった。
その後、身を案じたドナウザーン公国の父の元へ、至急で帰国させられている。
それ以来6年間、ナザガランには帰国してはいなかった。
リュークとヴェイル、ロイとは小さい頃から近くで育った仲である。
その頃から……彼女はずっとリュークの事が好きだった。




