第58話 我が子に会いたかっただけ
リュークとユシュランは気が合うのか、初めてなのにスムーズに飛んで行く。
ヴェイルは頭上を越えて方角を変える彼らの動きに合わせて、見上げたままぐるりと身体を動かす。
暫くして、そのままの姿勢でパトラクトラに言う。
「母上、この子達の父親のラタウスに会わせてくれてありがとう……あそこまで大人の竜だと俺にも声が聞こえるんだな」
彼女がヴェイルを見つめる。
「母上が……300年以上前から時空を飛ばされてここに辿り着いた『次元の魔女』だったんだな……そして俺もその血を引くウォーロック」
「……そうだ」
静かに返事をするパトラクトラに、ヴェイルが向き直った。
「……道理で、何故俺が周りの魔族と違うのかが分かったよ。自動回復がある体質も。様々な特性が使える事も……
現代の魔族ならば闇属性魔法しか使えない筈なのに、俺にはアリアの妖魔力を取り込んだり、光属性魔法まで入れて使える……ずっと不思議だったんだ」
パトラクトラが目を伏せて言う。
「私がグラディスと出会い、結婚してやがてお前を産んだのは、家族が欲しかった私の我儘だったのかも知れない。
世の理を超えて飛ばされてしまった『次元の魔女』が、そんな事を望んではいけなかったのかも知れない。
だが、私はお前に、ただ……我が子に会いたかっただけなんだ」
「……母上」
「それがお前の身体の事や、様々な犠牲の上に生き抜いた事への苦しみを生んだのなら、本当に申し訳なくて……今まで言えなかった」
「ううん」
ヴェイルは下を向いた。顔を見て直接言うのは少し恥ずかしかったからだ。
「俺は母上の子として生まれて来て良かったよ。ありがとう」
「礼を言ってくれるのか。お前は本当に優しい子だな」
言葉の最後の方は震えていた。
彼女は上を向き、ヴェイルに涙を見られたくなかったからか、リュークとユシュランの姿を追った。
そして言い忘れない様に続けた。
「お前は小さい頃にアリアの妖魔力を吸い取りに行ってやっていただろう。あれも、お前にしか出来なかったからなんだ」
「そうだったんだ」
「逆に言うと、この世界の中ではお前と、ウーヴルの生き残りで、直接古代エルフの血を引くアリアしか多属性魔法を受け入れる身体を持っていない。彼女とお前は、同じく世界から取り残された者同士。今となってはあの子の事は大事にすべきだと思う」
「……うん。そうだね」
ヴェイルももう一度空を仰いで飛竜の姿を探した。
その顔は、少し寂しげに微笑んでいた。
彼の横に、ストライアが大きな身体に似合わないトストスという軽い音を立てて近付いてきて座って頭を下げた。
ヴェイルはそのふわふわの大きな額に手を乗せた。
暫くしてユシュランが降りて来て、ヴェイルとパトラクトラの前に静かに着地した。
鐙から足を抜き、リュークが慎重に降りる。
「どうだ?慣れたか?」
ヴェイルが聞く。
「ああ。意外と大丈夫だったよ」
ホッとした様子で彼が答える。
その背中を人懐こそうにユシュランが突く。
「ユシュランはリュークが気に入った様だな。契約するか」
パトラクトラが言う。
「契約……ですか?」
「ああ。黒竜は、気に入った主を見つけたら額から小さな竜珠を出す。それを手首に押し込むと皮膚に入り込んで馴染んでしまうが、呼び出したい時にだけ紋様が現れる様になる。一度契約すると主が亡くなるまで従ってくれるぞ」
「それは嬉しいですね……」
リュークがユシュランを見あげる。
彼女は甘えた様に鳴くと、大きな頭を擦り寄せて来た。
「大きいけど可愛いな」
彼が目を細めて撫でながら言った。
「リュークは相変わらず女性にモテるな。種族まで超えるとは」
ヴェイルが感心して言う。
「そ、そんな事はない……しかし」
リュークは照れていたが、ユシュランにそっと聞いてみる。
「オレの竜に……なってくれるか?」
彼女は何度か頷くと、額を光らせ、小さな竜珠を出した。




