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麗しのハーフダークエルフの最恐魔王が勇者アリアにだけは甘い  作者: 久遠悠羽
第2章 魔王陛下の幸せな日々

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第43話 魔王が戦乙女でリィナでドレス 1

 トラフェリアでの戦乙女のバトルマッチ騒ぎから1週間が過ぎた。


 あの試合は、ルガリエルとトラフェリア、更にナザガランで中継され、各地の魔導師たちが空中にドーム状のスクリーンを展開して、まるで屋外シアターのように投影していた。


 当然全国民の多くはリアルタイムで試合を眺めていた訳だが、誰もが『戦乙女リィナ=エミル』が『魔王ヴェイル=ヴォルクリア』である事には気付かなかった。


 ただ「ナザガランにはあの様な美しさの戦乙女の部門がある」と勘違いをされ、ここの所問い合わせが相次いでいる。


 前魔王グラディスと現魔王ヴェイルは、その様な部門はない、戦乙女リィナ=エミルも現在所在不明だとして、問い合わせがあっても断る様に事務所に強く言い、火消しに走っていた。


 ところが、ある業者によって状況が怪しくなってくる。


 その日、ヴェイルは会議室で行政相談に対応していた。

 地理的に山と渓谷が多いナザガランの地方での暮らしについて、側近からインフラ整備の報告を受けていたのだ。


 そこへふと、ノックの音が聞こえて来た。

 彼が返事をすると誰かが扉をそっと開けて入って来る。


「陛下……少し、いいだろうか」

 控え目な声で言ったその人物はリュークだった。


「どうした」

 ヴェイルが聞き返す。

「それが……『戦乙女』の件で。時間は取れないか?」

 いつになく元気がない彼の言葉に、ヴェイルは不安な面持ちになった。


「分かった。お前達、少し待っていてくれないか。休憩してもらっていてもいい」

 彼は側近達にそう言うと、リュークと共に部屋から出て行った。


 二人は広い応接室の1つに入って行く。


 そこには衣装関係の業者が座っていた。

 品の良いスーツを身に纏い、黒髪に白い物の混ざった短めの髪を綺麗にまとめている。その顔に金の鎖の付いたモノクルが光る。


 彼はヴェイルを見ると驚いて立ち上がり、一礼する。

「これはこれは魔王陛下……お目にかかれて光栄です。私はナザガラン他各国の貴族様への服飾品を担当しておりますアルタ商会の長、アルタ=ユライガンと申します。

 はて、従兄弟殿下にはリィナ=エミル様をお呼びいただくようにお願い致しましたが……」


 ヴェイルがギョッとする。が、すぐに平静を取り戻してリュークと共に椅子に座り、返事をする。

「よい、座れ。アルタというのだな。リィナは残念ながらこちらには滞在していない。

 代わりに聞くが、彼女になんの用だ?」


「実は、私共の方で今度作成します新作ドレスの展示会にて、リューク殿下と御婚約者であるリィナ=エミル様のお二人にモデルをして頂きたく思いまして……」


「ええっ?!」

 アルタの話に、不意を突かれたヴェイルが思わず言う。


「? どうされました陛下」

「あ、いや……何でもない。続けてくれ」

 彼が少し目を逸らす。

 

 ヴェイルの挙動を不思議そうに見ていたアルタだが、言われるままに続けた。


「リィナ様にはリューク殿下とお揃いの意匠のドレスを着て午前と午後、それに夕刻の3回ステージにご登場いただき、集まった貴族様方に新作をアピールして頂きたいのです。

 お二人の様な見目麗しいお方に揃って頂けましたら売り上げもアップしますし……でももしかして、従兄弟殿下のご参加には陛下のご許可がいったのでしょうか?」


「いや、そう言うわけではないのだが……仮にそのステージへの出場はリュークやリィナにとって何かメリットはあるのか?」

 ヴェイルは動揺を隠す様に問う。アルタが答える。


「そうですね……それなりの出演料はお支払いいたしますし、先日魔王陛下と従兄弟殿下が連名で別の者に『鳳光絹(鳳光鳥の羽毛を撚り込んだシルクを使って織った布)』を一反ご注文なさったでしょう。あの鳳光鳥のご指定の天然の瑠璃色の羽がなかなか貴重な物でして、納品は済ませましたが提示された予算を大幅にオーバーしてしまいまして……」


「今計算しているのですが、合計で……分かり易く例えるなら我が国の国防費の約0.05%は行くかと。そのオーバー分を相殺させていただきたく思っております」


 ―—国防費の0.05%?!そんなに?……いや、俺の金でも払える。けど……


 ヴェイルが困った顔をしてリュークを見る。

 話を聞いていた彼が言葉を挟む。

「そこまで配慮して貰えるなら……オレは出演してもいいけど……リィナがな」

 そしてヴェイルを横目で見返す。


「……」

「……魔王陛下? どうされましたか?」

 黙ってしまったヴェイルを見て、アルタが不思議そうに問う。


「陛下、潮時だろう……」

 堪らずリュークが言う。

「潮時とは?」  

 アルタの問いに、思い詰めた顔をしていたヴェイルが観念したように立ち上がった。


 そして顔を赤くして言う。

「すまない、内密にして欲しいのだが……その『戦乙女リィナ=エミル』は……俺なんだ」

「ええ? ……ご冗談を」

 モノクルを掛けた紳士に言われ、躊躇したが彼は意を決して返す。


「冗談ではない……ハイエルフの国ルガリエルでのある作戦で……その、な、成り行きで戦乙女の格好をする羽目になってしまってだな」


「ハハハ。リィナ様が美し過ぎるから出し惜しみをされるのですね? 陛下がそんな訳は……」

 信じてくれないアルタを前に、ヴェイルが急に右手を横に出して言った。


「魔装武装《ヴァルシェブランニア》『戦乙女《イクサオトメ》』」


 詠唱に従い、武器庫から戦乙女の鎧が真紅のチェインメイルと共に彼の身体に転送されて行く。

 同時に金髪碧眼の認識阻害魔法を自身に掛ける。


「おお……これは!」

 アルタが目を丸くして見つめる。

 彼の前に、目にも麗しい絶世の美女の『戦乙女リィナ=エミル』が出現した。


「陛下……その鎧、まさかの『武装可能魔装《ぶそうかのうまそう》リスト』に登録してるのか……」

 リュークが呆れて言う。


「これで……信じてもらえたか? ……そういう訳だから、今回の話は……」

 リィナになったヴェイルが憂いがかった碧い瞳で頬を染めて途切れ途切れに言う。

 恥ずかし過ぎて上手く言えないのだ。


 その美しさに暫く見惚れてしまっていたアルタがハッとして弾かれた様に言った。

「とんでもない! なんて素晴らしいのですか!」

 彼は椅子から立ち上がった。

「魔王陛下、なんと美麗なお姿……そうかどおりで……あのバトルマッチで異様に戦乙女がお強かった訳が分かりました」


「え?」

 彼の言葉にヴェイルは複雑な心境になった。

 側でリュークが気の毒そうな顔で見ている。


 アルタは興奮して続けて言う。

「ますます宜しいです! そのお姿でリューク殿下と共にご出場頂けるなら、きっと飛ぶ様にドレスもスーツも売れるでしょう。 

 そうですね、鳳光絹のお代は半分で結構です! いやぁ、素晴らしい」


「陛下の為にドレスをオートクチュールで3着製作いたしますね。勿論男性とは分からぬ様、首元を高目に、肩にはケープがあるデザインに……ああ、1着は背中がクロスに開いた意匠でも行けますね!」


「ちょ……ちょっと」

 彼の意外な言葉にヴェイルが驚いて言う。

「変なスイッチが入ったな……」

 リュークが諦めたかの様に呟いた。


 アルタがヴェイルに近付く。

「少し宜しいですか? 失礼します」

「……えっ?」

 ずいと寄って来られてたじろぐ。

 その隙に彼にふわりと腕を取られる。

「あ、あのっ……」


 あまりの自然さに何事かと慌てるヴェイルに、いつも付けている手首のメジャーを伸ばしながら優しく言う。

「サイズを計らせていただきますね。鎧をそう……少しずらせて……はい、良いですよ。バストとウェスト、ヒップも失礼します。おお、黄金比です! 流石です陛下……」

「この繊維状に編み込まれた繊細なチェインメイルは特注ですね? ピッタリで実に計りやすい。素晴らしい腕の方なんですね」


 アルタはそう話しながらさっさとヴェイルの身体と足のサイズを計り、メモを取った。

 彼はされるがままだったが、急に首回りや手首などの細かな部分まで計られたその身体は微かに震えていた。


 その服職人は滑らかな流れで呆気に取られているリュークにも声を掛け、彼のサイズも計り、同じ様にメモを取る。


「いやぁ、腕が鳴ります! 久しぶりですこんなに興奮したのは。どんなデザインにしようかな。ワクワクするぞ……」

「魔王陛下、本当に有難うございます。早速意匠を考えますので、暫くお待ちくださいね」

「あ、大丈夫です。あなた様がリィナ様である事は誰にも言いませんから」


 アルタは立て続けに喋り、最後に確かめる様にヴェイルを見て言った。


「……本当に出ていただけるのですよね?」

 顔に掛けているモノクルがキラリと光る。


 彼は直視に耐え切れず目を逸らし、手をキュッと握って小さな声で答えた。

「ほ、鳳光絹でそんなに気を遣ってくれるのなら……出演しよう」


「勿論です! 良いステージに致しましょう。では!」

 アルタはヴェイルとリュークに向かって恭しく頭を下げ、その場から出て行った。


 一気に静かになった応接室で、二人が呆然として立ちすくんでいる。


 暫くしてリィナの姿のままのヴェイルが何とも儚げで麗しく、しかも今にも泣きだしそうな顔でリュークを見て言った。


「リュークぅ……どうしよう……」


「!! ……ごめん、お前っ、その顔でこっち見るなっ! 反応に困る……」

 彼は思わず自分の前に両手を上げて顔は下に向け、目を瞑った。




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