第42話 戦乙女バトルマッチ 5
ヴェイルとサスラメイダは互いに刃付けなしの模擬刀を構えて向き合った。
紫の髪の彼女の特性は雷だ。対して彼の特性である水及び氷は弱点と言える。しかも同じ魔法訓練所で稽古をしていた仲である。先程までは白いドームで隠されていたから使えたが、ヴェイルの特性魔法を見せてしまうと彼と気付かれてしまうかも知れない。
―—どうする? 神速は行けるが……剛玉硬化や攻撃魔法は使えない。物理特化しかないか……
彼が考えている間に彼女が動き出した。
「行きます!」
声と共に突っ込んで来る。
ヴェイルも剣で応戦する。刃がないのでギィンギィンとやや鈍い音がする。
一旦打ち合って離れて距離を取って走る。
「撃雷打!」
サスラメイダが詠唱すると、雷の筋がヴェイルを目掛けて次々に降って来た。
「神速!」
彼も詠唱して当たる前にドンドン走って躱して行く。
ある一点で飛び上がった所に彼女も飛び上がり、空中で剣を交えようとした。
「電光剣撃!」
サスラメイダの詠唱で彼女の剣が雷を帯びた。
ヴェイルはハッとして剣を投げ付け前方に一回転して着地する。
投げた剣はそのまま彼女の剣に吸い込まれる様に貼り付いて雷を帯び、ガランと地面に落ちた。
「……やるわね」
サスラメイダが剣を拾って投げてよこす。
―—危なかった。雷は厄介だな……
もう一度剣を構えて向き合う。
「……電光剣撃」
彼女は今度は始めから剣に術を掛けた。
バリバリという音と電撃を備えた剣がヴェイルに向けられている……
彼は構えながらふう、と息を吐いた。……目を瞑る。
そして目を開け詠唱した。
「斬撃増強!」
斬撃専用の物理特化魔法だ。そのまま鬼の様な勢いでサスラメイダに斬撃を叩き込む。
雷を帯びた剣からの感電を受ける暇もなく斬り付けて行く。
その内いなし切れない彼女の剣に横からの負荷が掛かり過ぎてヒビが入りバン! と割れた。
更に彼に手元を弾かれ剣は遠くに飛んでしまった。
「あっ!」
ヴェイルは叫んだサスラメイダの鼻先にピタリと剣先を突き付ける。
「……私の勝ちですね」
彼は静かに言った。
「あ、あなたなんかに……ヴェイル様の何が分かるのよ」
サスラメイダが言う。
「……はい?」
金髪碧眼の戦乙女の姿のヴェイルが聞き返す。
「私は、あの人が魔法訓練所にいた時の事を知っているの! 彼がどれだけ頑張っていたか、どれだけ失敗したか……そうよ全部。私はあの人を見つめて来たのよ!」
―—そうだっけ? まあ同じ訓練生ではあったけど……
彼女にあまり興味がなかったヴェイルはよく覚えてはいなかった。
「彼が攻撃魔法で宿舎を吹っ飛ばしたり、訓練生の食事をうっかり全部消してしまったりした事も」
「え? ……ちょっと」
彼は焦った。
【重力圧殺】と【霧散】の制御に失敗した黒歴史ではないか……
「そ、そんな事言われても……」
ヴェイルは彼女を止めようとしたが、サスラメイダは続けて言う。
「第一、あなたなんかが好きになっても、あの方には既にお好きな方がいるの! 私は見たもの! 軍の訓練所でトラフェリアの王女、アリ……」
―—うわあやめてくれ!
瞬間、彼は心の中で叫んだ。
その時大きな声がした。
「二人とも避けろよ!」
次に詠唱が聞こえた。
「火焔剣撃!!」
同時に二人の間に大きな焔の斬撃が走る。
ヴェイルもサスラメイダも飛び退けたが、彼女の紫の髪の端が少し焦げた。
「な……」
驚いて斬撃が来た方向を見ると、冑のない黒銀の鎧を纏って大剣を振り切ったリュークの姿があった。
「リューク……殿下……」
ヴェイルが言う。サスラメイダも小さく震えながら言った。
「……殿下」
彼は大剣を肩に担いでこちらに向かって歩きながら言った。
「サスラメイダ、いくら悔しかったからと言っても、あまり我が陛下の私的な事を他人に言うものではない。ましてやここはトラフェリアだぞ?」
「も、申し訳……ありません」
彼女が俯いて答える。
リュークはふっと笑って大剣をザンと地面に刺し、ヴェイルに右手を向け、闘技場の観客に大声で言った。
「勝者! 戦乙女リィナ=エミルだ! 文句あるか?!」
闘技場はまたもや大歓声に包まれた。
こうして戦乙女騒動は幕を閉じた。
飛び込みで戦乙女に勝負を挑んだサスラメイダはナザガランの軍部から注意を受け、魔王ヴェイル=ヴォルクリアにも今後近付かないように勧告されてしまった。
数日後。
「リューク、あの時は間に入ってくれてありがとう」
ヴェイルとリュークは、城のテラスでまた話をしていた。
「あれから書簡も届かなくなったし、気持ちが楽になったよ」
「そうか。良かったな。もう変な女に絡まれるなよ?」
「うん」
「ところで……ちょっと困った事になっているんだが」
リュークがまた言い出しにくそうに切り出した。
「何?」
「今度はルガリエルの光宣書式に『「戦乙女リィナ=エミル」ナザガランの魔王陛下従兄弟殿下のリューク=ノワールに嫁ぐ』って記事になって配布されてるんだ……」
「なんだって?」
ヴェイルが驚く。彼が続ける。
「どうやら勝利宣言の後、お前を一応女性扱いしないといかんと思って、演技で跪いて手を取ってしまっただろ?あれで誤解されたらしい……」
「ああ……そうなんだ」
彼はそう言えば自分もあの時リュークにエスコートして貰って退場した事を思い出した。
後で何故かミレーヌに『お二人が尊すぎますがっ?』と怒られてしまった。
リュークが向き直り、ニッと笑って言う。
「いっそ嫁に来るかぁ。うちに」
その言葉に止まってしまったヴェイルは我に帰ると、彼のこめかみにゲンコツを食らわせた。




