プロローグ
平和で平等な世の中。そんな言葉が似あうとしたらどんなに素晴らしい世界か。
現にこの世界はその言葉が適切だと言えるものであった、あることを除けば。。。。。
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草花が生い茂るきれいな平原に茶色い1本の線があった。
それはたくさんの人々が往来したことによってできた道で、その道に1台の荷馬車がやってきた。
平原は緑濃い木々に覆われた山々に囲まれており、平原には温かい日差しに爽やかな風が吹いていた。
荷馬車はさえずる小鳥の鳴き声と風で揺れる草花の音を聞きながらゆったりと進んでいた。
そうしてしばらく進んでいくと、たいへん立派な石造りの城壁が見えてきた。城壁は山から都市を半円状に囲むように建てられていた。
城壁には石造りの立派な城門があり、荷馬車はそこに向かっていた。
城門に近づくと、黒いフード付きのマントを羽織っている二人組に馬車を止められた。
二人組はどちらも弓矢を背負っており、腰には剣を携えていた。
二人とも身長は荷馬車を引いている馬よりも高く、スリムな体型で金髪で色白、端正な顔立ちに、少しだけ尖った耳が特徴的だった。
この二人組から停車するように促され、荷馬車は素直に停車した。
停車した後に、荷馬車の御者が運転席から降りた。
御者は身長は門番の半分程度しかない小柄で、肌の色は緑色をしていた。顔は広く、額は低く、顔の形はゴツゴツとしており、特徴的なのは、鉤型の大きな鼻と、ギザギザした歯、そして二人組よりも尖った耳である。
なかなかに威圧的な見た目ではあったが、服装はこぎれいで、門番の2人に頭をぺこぺこ下げながらも、親しみやすい感じで門番と話をしていた。
「エルフのお兄さん方も、いつかは私のお客さんになってくれることを祈っていますよ。」
「はは、すまないが一介の門番には無縁の話だ。ゴブリンの商人からは毎回言われてはいるんだがな。」
「そうですか、そうですか。ですが格安なものもございますので、気に入ったものが見つかるかもしれませんので、ぜひ大広場に足を運んでみてください。」
ゴブリンの商人はニコニコしながらエルフの門番二人に言うと、門番も軽く笑った後に顎で通っていいと合図した。
商人は荷馬車に戻り、エルフの門番二人にかぶっていた帽子をとり軽く挨拶してから、鞭をとって馬を走らせ門の中に入っていった。
門の中に入り都市の中に入るとすぐに目につくのは、山をくりぬいて作られた真っ白な城だった。
山自体がこの辺にある山と比べると標高が高く、その山をくりぬいて作った城はとても大きく、存在感があった。
馬車が進む道路や歩道も整備されており、道のわきにはレンガ造りの建物が何件も並んでおり、途中途中には酒場やレストランも並んでいた。
道行く人々はエルフが一番多く、ドワーフやワービースト、中には腕や足が鳥のようになっているセイレーンの吟遊詩人などもいて、様々な種族が笑って過ごしていた。
そんな朗らかな雰囲気の中、荷馬車は目的地である大広場に到着した。
大広場には大きな木製のステージが設置されており、そのステージの裏に荷馬車を停めた。
既にほかのゴブリンの商人もいるらしく、同じような荷馬車が何台も停車しており、これからステージで行われるイベントの準備を始めていた。
しばらくすると、ステージの前にはこのイベントを目当てにした大量のお客で埋め尽くされていた。
来ているお客はみんな裕福そうな恰好をしていて、イベントが始まるのを今か今かと待ちわびている様子であった。
ゴブリンの商人たちも準備ができたようで、グラサンをかけ、赤の蝶ネクタイを身に着けた赤のスーツ姿の司会者っぽいエルフの男が壇上に現れた。
壇上に現れたことで、イベントが始まると思ったお客からは待ってましたと言わんばかりの大きな拍手が巻き起こった。
司会者の挨拶をそこそこにして、司会者はすぐにイベントの本題の商品を案内し始めた。
「まずは、西の山担当のゴブリン商人からの出品です!!」
司会者がそう言うとステージの後ろの方からジャラジャラと金属が引きずられる音が聞こえてきた。
「エントリーナンバー1!!! 今では野生でみるのが珍しい、成人男性のヒューマンだ!!!
こちらはなんと、商品調達の帰りに道端に転がっていたのを拾ってきたとのことだぁ!!!」
司会者が会場を盛り上げるようにして、商品と言われる男を紹介するとボロボロの布を身にまとったみすぼらしい男はうなだれながらも、ステージの袖からのそのそと現れた。
客というとその司会者の紹介が面白かったのか、げらげらと笑っていた。
----この世界はヒューマンのみ権利のない世界。
壇上に上がったヒューマンはそう思うと鼻で軽く笑った。