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第四話 魔王様は、まさかのてんかいに、おどろいている!



 そして翌日、ガイゼルが魔王の間で玉座で待ち構えていると、


「おい! お前が魔王か!!」という声が聴こえた。


「クックックック……騒がしい犬どもだ。しかし、ようこそ勇者諸君。ひとまずは、よくぞここにたどり着いた、と褒めてやろう」


 そう言いながら、恐怖と絶望の魔王――ガイゼルは、気を取り直してゆっくりと振り向いた。身の丈をはるかに越える椅子から、この"魔王の間"に踏み入れた人間共を見据える。


 よかった、今回はちゃんと勇者パーティ3人が揃っている。


 内心安堵しながら、ガイゼルはこの日のために考えていた口上を口にした。


「クックック……。しかし、残念ながら、貴様らの旅は、ここで終わりだ。人類の救世主だのと崇められている貴様らは、この吾輩の圧倒的な力にひれ伏すことに――」


 そのとき、魔王の間の扉が開き、一人の女性が姿を現した。


「お待たせしました、魔王さま」


「えっ」


 その女性――聖女を見て、勇者たちが呆気に取られていたが、それに負けないくらい、ガイゼルも驚いていた。


「え、なにその恰好」


 そう。問題は格好であった。純白のローブを脱ぎ捨てた聖女は、漆黒のドレスを着ていた。しかも、背中がざっくり空いた扇情的なドレスである。


 気合を入れたはいいが、気合を入れ過ぎじゃないか、とガイゼルは思った。

 これは、もはや、聖女というより完全に魔族側のセンスである。


「お前……リリアか……?」とようやく衝撃から立ち直った勇者が質問する。


 とはいえ、その視線は聖女リリアのドレス、もっと言えば胸元にくぎ付けであった。


 正直な男だな、とガイゼルは思った。


「なんだよ。着替えちゃって、パーティにでも参加すんのか??」


  勇者が聖女の元にへらへらと近づいていく。


「でもお前がいなくて大変だったんだよ。な、今なら謝るんだったら、またパーティに加えてやっても……」


 しかし、聖女から返ってきたのは、凍り付くような視線だった。


「その、薄ら汚い口を閉じていただけますか?」


 その言葉が、自分に向けられたものだとは思わなかったのだろう。その言葉の意味を理解した途端、勇者の顔が真っ赤になった。


「お前ッ……! この俺になんてことを……!!」


 そう言いながら、勇者が口をゆがめる。


 ――が、勇者はすぐに自分の優位を思い出したのだろう。すぐさま、にやついた顔に戻った。


「まあいいぜ。そういう態度をとるっていうんだったら仕方ない。お前の大好きな孤児院のガキどもや、教会のガキどもがどうなってもいいっていうんだな?」


 わかるだろ、と勇者が愉悦を隠せない表情で、唇をなめる。


「まあ……お前が今の発言を撤回して、俺の物になるっていうんだったら、許してやっても――」


 そんな勇者の発言を「はぁ」という大きな溜息が打ち消した。


「愚鈍もここまで行けば、罪ですね。

 申し訳ございませんが、それらはすべて終わった話です。孤児院の子たちはこちらで保護できていますし、教会も新たな支配者――魔王ガイゼルの名のもとに、刷新されました。もはやあなたの名など何の意味もないのですよ」


「はぁ!? んなわけが――」と言いかけた勇者に対し、聖女が冷たく、釘を刺す。


「そうやって弱みを握っていれば、他人が従うと思うのもいい加減にしたらどうですか? 

 初めて会ったときから、『俺の女になれ』としつこかったですが、わたくしが拒否した瞬間、わたくしを目の敵のようにし始めましたね。拒否されて気に食わないからといって、八つ当たりですか? 男としての自信のなさが窺えますね」


「なっ……!!」


 勇者の顔色は真っ赤を越えて、もはやどす黒い。


 いや、そこまで言わなくても……と魔王ガイゼルは思った。正直、あまりの聖女の鋭い言葉に、ガイゼルの方が恐怖を覚えてきたのは秘密である。


 そこまで言い放ったリリアは満足したのか、勇者の方には目もくれず、ゆっくりとガイゼルの玉座まで歩いてくる。


「いいのか」とガイゼルはなるべく彼女の機嫌を逆撫でしない様に、恐る恐る聞いた。


「ええ、大丈夫です。私は、貴方と共に……」


 優しい表情で、こちらを見下ろす聖女。 

 

 しかし、一転して勇者の方に向き直ると、彼女はものすごい音量で吠えた。


「さあよく来た勇者たち!! 貴様ら人間の薄汚い欲望もろとも!! この私と、魔王様が打ち砕いてくれる!!!!」


「えっ、何そのかっこいい口上」


 聖女が目配せをしてくる。


「魔王様。行きましょう、あのクズどもに、私たちの力を見せつけるのです」


「えっ」






 勇者たちを、コテンパンに叩きのめした後――


「いいのか? 勇者たちは生かしておいて」


 魔王ガイゼルは誰もいなくなった"魔王の間"で、聖女と向かい合っていた。


「ええ」と聖女が軽くうなずく。


「勇者は、プライドが高く自己保身に余念がない、というわかりやすい男です。

 おそらく聖女に裏切られ、魔王に敗北した、と報告するようなことはないでしょう。他の二人も同様です。戦士も魔法使いも貴族出身。

 ああいう手合い――無能で、やる気のある敵は放っておくに限ります。後から、いかようにも対処は可能ですので」



 勝敗は、魔王側の圧勝であった。

 そもそも、勇者たちは人類最高峰の数人がかりで、やっと魔王との闘いという土台に立てるのだ。回復をこなす重要な補助役が魔王側に回ってしまった。疲労困憊でボロボロの勇者たちが、魔王と聖女に勝てるわけもなかった。


「う~む、何となく納得できるような……」


 しかし、とガイゼルは口ごもった。


「貴様はよかったのか? その……吾輩の味方になる、ということは、人類の敵になってしまったわけだし……」


「心配してくださるのですか?」と聖女がほほ笑む。


「でも、大丈夫ですよ。何の心配もありません。魔王様がいてくれるのですから」


「そ、そうか………」


 ――その顔はつきものが落ちたように、すっきりとしていた。

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