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26.5 挿話 「小悪魔?」

アルフェリアはドアを開けてその垂れた目を丸く見開いた。

パチリと瞬きをして戸惑いの色を乗せた深緑の瞳が説明を求める様に

苦笑いを浮かべている先輩方へと向けられるが、彼らは肩をすぼめたり

首を振って見せるだけで詳しい事は何もわからなかった。

とりあえず、このままここにいるわけにはいかないので

へらりとしたいつも通りの笑みを浮かべて小さな背中へと近づく。



「セラちゃんどうしたの~?なんか、元気ないね?」

「…アル先輩…」



腰をかがめてひょいっと顔を覗き込めば

見慣れてきたアメジストがゆっくりとした動作で持ち上がる。

口元の両手で持たれたマカロンが何だか小動物を連想させてとても可愛い。

が、それを素直に口にするには聊か彼女が静かすぎた。

空いているソファへと腰を下ろし、色とりどりなマカロンの中から

一番甘くなさそうな色を選び口に含むも、マカロンが甘くないはずがない。

舌先から伝わる甘さと香りを2、3度噛んでから強引に喉の奥へと押しやった。

そんなアルフェリアの様子にマカロンを

食べ終えたセラが申し訳なさそうに眉を下げ、



「今日でこの差し入れもお終いです。

 皆さま、本当にありがとうございました」



と、頭まで下げるものだから。

「「「「エッ!?」」」」思わず飛び出た驚きの声が他の面々と重複する。

彼らがちょっと待ってどういう意味!?と問いただそうとする前に

セラが何故かぐっと胸の前で両手を握る。



「これからは頑張って四葉を探します」

「「「「は?」」」」



やけにキリリとした顔で告げられた言葉に

今度は疑問符が重複したのも無理はないだろうと一人傍観していた

ユリウスは気を抜けば飛び出してきそうになるため息を飲み込んだ。

思い出すのは先ほどシャーロットを激怒させたシーン。


後ろから見ていただけだが、何やらやたらと

愛らしい動きをする人形とそれに似合う様に作られた声と

言葉が脳裏で再生され彼は思わず口を押えた。

あの時は凍った空気に思いっきり白けた目を向けてしまったが

よくよく思い出すととんでもなく面白い事に気がついたからだ。

一人ぷるぷると笑いを堪えるユリウスに他の面々から

怪訝な視線が向けられるが、今はそれすら面白い。



「…姫様を怒らせちゃって…四葉のクローバーを

 見つけるまでは顔を見せないでって言われちゃったんです」

「四葉のクローバーを…?」

「セラ嬢、何をやらかしたんだ…?」



ユリウスに物言いたげな視線を送るセラに

説明を求める様にもう一度視線が集まる。

すると彼女は視線を下げながら話し出した。

何故かほんの少し唇が尖っていて、その事から若干の不満が伺える。

オックスの問いかけにユリウスが我慢出来ないと言った風に噴き出した。

驚いたように集まる視線に彼は手で何でもないとジェスチャーしながらも

込み上げる笑いに翻弄されているようで、クツクツと喉の奥で

殺しきれない笑みが漏れ、その目には薄っすらと涙が浮かんでいる。



「…これです」

「「「…」」」



じとっとした目でユリウスを見てから

セラはポケットに忍ばせていた自身の力作たちをテーブルに置いた。

突然ポケットから出てきた可愛いぬいぐるみを前に

騎士たちは困惑し広い部屋に沈黙が落ちる。

そんな中セラはユリウスを今現在笑いの淵に追いやった実演をしようと両手に嵌める。

微妙な顔でこちらを見つめる視線たちに彼女はスンとした顔で口を開いた。



「”ルドとジェイだよ、よろしくね!”」

「ぶはっ」



可愛い動きとセラの高く裏返った声に一瞬空気が凍った。

だがすぐにユリウスが噴き出した事で

彼らはつられるように口の端がむず痒くなっていく。



「”…ユリウスさーん、そんなにボクたちを気に入ってくれたの?”」

「くっ、ちょ、まって」

「ぶっ、くくく」



ユリウスに向けてぴょこぴょこと愛らしく人形を動かす彼女は、何故か真顔で。

真面目にやっているのだから笑っちゃいけない、と思いつつも

逆にそれがじわじわと笑いを誘ってくるのだから堪らない。

ユリウスの参り切った笑いの滲む声に数人がつられて噴き出した。

すると珍しく真顔の彼女に漸く笑みが浮かぶ。



「”わぁ!みんな笑ってくれるなんて、ボクたちもとってもHappyだよ!”」

「あはははははは!!」

「だはははは!!」



自分の顔の横に2匹を並べてにっこりと可愛らしい笑顔で

ポーズを決めた彼女に若い騎士たちは白旗を上げて爆笑した。

おじ様たちは口を押えてクツクツと喉で笑っている。

そんな彼らの様子を見渡してセラは満足げに頷いた後

紅茶を飲むためにルドをテーブルに戻した。



「と、まあ今でこそユリウスさんも爆笑してくれてますが、

 さっきはものすっごい冷たい視線を頂きました」

「…今のを、姫様に?」



笑いが収まるのを待ってセラがユリウスを見ながら拗ねた様子でそう口にすれば、

涙をぬぐったディルヴァが可笑しそうに鋭い目を細めながら訪ねてくる。

「ええ」と大きく頷いた彼女にまた数人が噴出した。



「いつもなら大ウケなんですけどねぇ…

 何処行っても子供たちに大人気だったのに…”ねー!”」



笑い転げる数人を気にすることなく、

セラは左手のジェイと息を合わせ首を傾げて見せる。

その様子は普通に可愛いが、あざとい。



「いやそれ、お前、空気読め」

「”あえて”だったんですけどねぇ」

「あえても何も、唐突過ぎだろ!」

「やかましいですよオックス先輩」



未だに可笑しそうに口元を引きつらせるオックスの突っ込みに

セラは肩をすぼめて返し大きく開いたその口目掛けて左手を伸ばす。

「むぐっ」ふわふわの何かに口を押えられ、金色の吊り上がった目が丸くなる。

その様子を可愛いなとセラは思いながら

左手を首元にまで戻し「あらやだ」とわざとらしくにこっと笑う。



「奪っちゃった」



言葉と共に狐の口がパクパクと動き「なんちゃって」と

彼女は言いつつも狐は恥じらうように両手で顔を隠すような仕草をする。

ぽかんと口を開けたオックスは一拍を置いて、その頬を赤く染め上げた。



「ばっ、なっ、なにすっ!?」



がばっと右手の甲で口を押え涙目になった彼を見て

セラは軽い気持ちでしでかした事の重大性を知り、固まる。



ヤンキーな見た目のくせにめっちゃ初心やん。



思わず関西弁になるくらい、セラも動揺が激しい。

が、それよりもまず謝らなければと思い彼女が口を開こうとしたその時、

オックスと同様にぽかんとしていたアルフェリアが我に返ったようだ。

がばり!と勢いよく立ち上がりセラの方へ詰め寄ってくる。



「ハッ!セラちゃん、何今の!?

 可愛いめっちゃ可愛い!!もう一回!ってか俺にもやって!!」

「嫌ですよ!!すみません、あんなに動揺するとは思わなくて、

 軽い気持ちでした、本当にごめんなさい!

 あ、ちょっ、謝るのでオックス先輩戻ってきてくださいー!!」



がしりと両肩を掴んできたアルフェリアにセラは引き気味に拒否し、

首だけでオックスの方を向き謝罪するが、彼が最後まで聞く事はなかった。

途中で「ばっ、ばかやろー!!!」と

叫びながら部屋を飛び出て行ってしまったからだ。

咄嗟に呼び止めようとするも勢いよく

閉まったドアに持ち上がった右手の行き場がない。

「セラちゃん!俺にも!!」肩を揺らして催促してくるアルフェリアに

彼女は、ははは、と乾いた笑みを浮かべてだらりと右腕を落とした。


翌日、とある廊下でエリオルは一部始終を見ていた

同期の男たちからぽんと肩を叩かれ



「お前の娘は凄いな…色んな意味で」

「文句なしに可愛いが、悪気のない小悪魔ほど恐ろしいものはないぞ」

「流石貴方とフィフィの娘ですねぇ…」



しみじみと告げられた言葉に「は?」と聞き返すも

彼らはそろってやれやれと首を振るだけで答えず、

廊下に残され一体何だったんだ…?と一人首を捻る事となった。

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