雪の日のファミレス
冬の雪の日って、少し特別です。
寒くて、電車は遅れて、帰れる時間も分からない。
でもその分、
* 温かい飲み物がおいしかったり
* 暖かい場所がほっとしたり
* 誰かと一緒にいる安心感を強く感じたり
する日でもあります。
第9話では、そんな“雪の日の不安と安心感”をテーマにしました。
そして今回は、悠斗くんが「今日は大丈夫かな」と思って、普段より軽い準備で来ていたこともポイントになっています。
少しだけ不安。
少しだけ後悔。
でも、その経験を通して、
「安心できる準備って大事なんだな」
と改めて感じる回になっています。
美咲、奈々、悠斗。
三人の少し不思議で、でも温かい雪の日を楽しんでもらえたら嬉しいです。
二月。
夕方から雪が降り始めた。
学校の窓から見える景色は、少しずつ白くなっていく。
奈々は窓を見ながら声を上げた。
「うわ、めっちゃ降ってる。」
「積もりそうだね。」
美咲はマフラーを巻きながら頷く。
その時、スマホが震えた。
悠斗からLINEだった。
『そっち雪やばい?』
奈々はすぐ返信する。
『めっちゃ降ってる』
すると数秒後。
『ぼくのとこも!』
写真付きだった。
うっすら白くなった道路。
奈々は吹き出す。
「悠斗くん、完全に実況してる。」
美咲も笑った。
⸻
その日の帰り道。
雪のせいで電車がかなり遅れていた。
駅のホームは人でいっぱい。
アナウンスが何度も流れている。
奈々は寒そうに肩を縮めた。
「全然来ない……。」
「雪の日だからね。」
しかも今日はかなり冷える。
寒さのせいで、二人とも自然と温かい飲み物を飲んでいた。
奈々は手に持ったミルクティーを見て、小さくため息を吐く。
「絶対これあとで危ない。」
「分かってて飲んでるじゃん。」
「寒かったんだもん。」
その時。
またスマホが震える。
『電車止まった』
悠斗からだった。
奈々は目を丸くする。
『え!?』
『お父さん迎え来るまでファミレスいる』
そのメッセージのあとに、店内の写真が送られてくる。
奈々は美咲へ見せた。
「……あれ?」
美咲も画面を見る。
写真に写っている店名。
今、二人が立っている駅前にあるファミレスだった。
数秒沈黙。
奈々が吹き出す。
「また!?」
⸻
数分後。
ファミレスの入口。
「あっ!」
悠斗がすぐ気づいて手を振った。
奈々は笑いながら席へ向かう。
「偶然すぎない?」
「ぼくもびっくりした!」
今日はお父さんが仕事帰りに迎えへ来るらしく、それまで一人で待っているらしい。
悠斗はドリンクバーのココアを飲みながら笑った。
「雪の日ってなんかテンション上がる。」
「分かる。」
奈々もホットココアを持ちながら頷く。
その時、奈々が何気なく聞いた。
「今日はスキー場みたいに準備してないの?」
悠斗は少し照れた顔になる。
「……今日は普通。」
「普通?」
悠斗は小さく頷いた。
「白ブリーフ。」
奈々は思わず吹き出した。
「わざわざ言うんだ。」
悠斗は耳を赤くしながら笑う。
「だって聞かれたし……。」
美咲も少し笑った。
今日は学校帰りにそのままおばあちゃんの家へ行く予定だったらしく、着替えも普段通りだったらしい。
でも悠斗は、小さい声で続けた。
「……一応、薄いパットだけ入れてる。」
奈々は少し驚く。
「え、そうなの?」
悠斗は照れながら頷いた。
「雪の日ちょっと怖かったから。」
完全な安心じゃない。
でも、“何もないよりは安心”くらいの感じだった。
悠斗はストローをくるくる回しながら苦笑いする。
「でも、こんな降ると思ってなかったし。」
奈々は窓の外を見る。
完全に本降りだった。
「それは分かる。」
しかも電車は止まり気味。
帰れる時間も読めない。
暖房の効いた店内。
ホットココア。
長い待ち時間。
かなり危険な条件が揃っていた。
悠斗もそれを分かっているみたいで、小さく苦笑いする。
「……ちょっと後悔してる。」
奈々は吹き出した。
「珍しいじゃん。」
「今日は大丈夫かなって思ったんだもん。」
⸻
その数十分後。
窓の外では雪がどんどん強くなっていく。
電車の遅延も増えているみたいだった。
奈々はスマホを見ながらため息を吐く。
「うわ、まだ動かない。」
「帰るの遅くなりそう。」
悠斗も少し困った顔になる。
「ぼくもお父さん遅れるって。」
その時。
奈々が小さく姿勢を変えた。
「……っ。」
美咲はすぐ気づく。
「やばい?」
奈々は苦笑いする。
「ココア失敗した。」
「飲むの早かったもん。」
悠斗も小さく笑う。
「ぼくもやばいかも。」
奈々は吹き出した。
「また全員じゃん。」
最近、この流れがかなり増えていた。
でも、不思議と前みたいなパニック感はない。
“もしもの時も大丈夫”。
その安心感があるから。
ただ今日は、悠斗だけは違った。
“準備が足りないかもしれない不安”。
それが少し表情に出ていた。
⸻
その時だった。
店内アナウンスが流れる。
『雪の影響により、本日の営業は延長となります』
周りのお客さんたちもざわざわしている。
奈々は窓の外を見ながら呟いた。
「これ、帰るまで長そう……。」
悠斗も頷いた。
「うん……。」
しかもファミレスのトイレには列ができ始めていた。
みんな考えることは同じらしい。
奈々は小さく息を吐く。
「……使うかも。」
美咲はそっと頷く。
「うん。」
奈々は少し恥ずかしそうにしながら、椅子へ身体を預けた。
じゅっ……。
小さな感覚。
じわぁ……っ……
温かさがゆっくり広がっていく。
奈々はぎゅっと目を閉じた。
「……はぁ。」
張っていた感覚が少しずつ消えていく。
店内は賑やかだから、自分にしか分からない。
そのあと、暖かい空気と混ざるように少しだけ空気が変わる。
奈々は顔を赤くした。
「……やっぱちょっと分かる。」
美咲は苦笑いする。
「暖房効いてるしね。」
その横で。
悠斗が小さく肩を震わせた。
「……っ。」
少し焦った顔。
悠斗は小さい声で呟く。
「やば……。」
奈々が気づく。
「大丈夫?」
悠斗は困った顔で頷いた。
「……ちょっとだけ。」
白ブリーフだったから、余計に焦っている。
悠斗は上着を少し下へ引っ張りながら、小さい声で続けた。
「たぶん少しついた……。」
奈々は思わず吹き出しそうになる。
「え、大丈夫?」
悠斗は顔を真っ赤にしながら頷いた。
「……パットで止まったと思う。」
完全ではない。
でも、薄いパットが少し吸ってくれたらしい。
悠斗は苦笑いする。
「白って分かりやすすぎる……。」
奈々は吹き出した。
「それはある。」
でも、美咲は優しく言った。
「少しで済んでよかったじゃん。」
悠斗は小さく頷く。
「……うん。」
それから、少し安心したように息を吐いた。
「やっぱ準備してると全然違う。」
その言葉に、奈々と美咲は顔を見合わせる。
二人とも最近、同じことを感じるようになっていた。
“不安にならない”だけで、かなり気持ちが違う。
⸻
その顔を見て、美咲も限界が近いことを自覚する。
暖かい店内。
温かい飲み物。
雪で帰れない不安。
全部が重なっていた。
美咲も小さく息を吐く。
それから、そっと力を抜いた。
じゅわぁ……。
温かさが広がり、苦しかった感覚がゆっくりほどけていく。
「……っ。」
奈々が小さく笑う。
「美咲もだ。」
「お互い様。」
二人は顔を見合わせ、小さく笑った。
その時。
悠斗のスマホが震える。
『あと15分くらいで着く』
お父さんからだった。
悠斗はほっとした顔になる。
「助かった……。」
奈々は笑う。
「よかったね。」
悠斗は苦笑いしながら頷いた。
「今日はほんと危なかった。」
それから、小さく笑う。
「……次から雪の日はちゃんと準備する。」
奈々は吹き出した。
「学習してる。」
「大事だから。」
⸻
一時間後。
ようやく悠斗のお父さんが到着した。
「ごめんな、遅くなった。」
悠斗は立ち上がりながら笑う。
「大丈夫!」
そのあと、小さくスマホを振った。
「またLINEするね。」
奈々も笑う。
「うん。」
悠斗は少し照れながら言う。
「なんか、二人いると安心する。」
その言葉に、美咲は少しだけ嬉しくなる。
最初は偶然会っただけだった。
でも今は、“安心できる友達”になっていた。
外へ出ると、雪はまだ静かに降っている。
白くなった夜の街。
奈々はマフラーへ顔を埋めながら笑った。
「……また変な一日だった。」
「でも楽しかった。」
三人は小さく笑い合う。
冷たい雪の日。
でもその空気は、どこか温かかった。
第9話「雪の日のファミレス」を読んでいただき、ありがとうございました。
今回はシリーズの中でも、“安心感の違い”をかなり意識して書いた回でした。
美咲と奈々は、最近では
* 「念のため」
* 「安心できるように」
* 「不安にならないように」
という考え方が自然になってきています。
だからこそ、雪で電車が止まるような状況でも、以前ほどパニックにならずに過ごせています。
一方で、悠斗くんは今回は
「今日は大丈夫かな」
と思って、普段より軽い準備だけで来ていました。
その結果、
* 少し焦ったり
* 不安になったり
* “安心感の差”を実感したり
することになります。
特に、
「白って分かりやすすぎる……。」
という悠斗くんの台詞は、“少しの失敗でも気になってしまう不安”を象徴する場面として入れました。
でも同時に、完全に一人で抱え込まず、
* 奈々が笑ってくれたり
* 美咲が落ち着いて声をかけたり
することで、“恥ずかしさ”より“安心感”のほうが大きくなっているのも、このシリーズらしい変化だと思っています。
また、今回のファミレスは、
* 暖房
* 温かい飲み物
* 雪による遅延
* 帰れない不安
など、“油断すると危ない条件”が全部そろった場所でした。
それでも最後には、
「またLINEするね。」
と自然に言い合えるくらい、三人の距離が近くなっています。
偶然出会っただけだった三人が、“安心できる友達”になっていく。
そんな変化を、これからも少しずつ描いていけたらと思います。




