表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏の失敗、ふたり分  作者: たい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/11

スキー場の休憩所

冬のスキー場って、楽しい。


でもその分、


* 長い移動

* 寒さ

* 暖房との温度差

* 混んでいる休憩所


など、“不安になりやすい場面”もたくさんあります。


第8話では、そんな冬のスキー場を舞台にしました。


そして今回は、悠斗くんとの関係が少し変わっていきます。


夜行バスで偶然出会っただけだった三人。


でも今では、


「安心できることを話せる友達」


として、自然にLINEをする関係になっていきます。


少し恥ずかしくても、“分かってくれる人がいる安心感”がある。


そんな冬の日の空気を、感じてもらえたら嬉しいです。

一月。


朝の駅前は、吐く息が真っ白だった。


奈々は両手をポケットへ入れながら震えている。


「寒い寒い寒い……。」


「まだ集合前だよ。」


「もう帰りたい。」


美咲は思わず吹き出した。


今日は学校の自由参加イベントで、日帰りスキー場へ行く日だった。


大型バスで山へ向かう。


クラスの友達も何人か参加していて、朝からかなり賑やかだった。


その中に、見覚えのある顔がある。


「あっ、おねえちゃんたち!」


悠斗だった。


ニット帽をかぶって、今日はスキーウェア姿。


奈々は笑う。


「また会った!」


「ほんと偶然すぎる。」


悠斗は嬉しそうに笑った。


「ぼくも今日ここ行く!」


後ろには、お父さんもいる。


もう完全に顔見知りだった。



バスへ乗り込む前。


悠斗が少し照れながらスマホを取り出した。


「……あのさ。」


「ん?」


「LINE交換する?」


奈々は少し驚いたあと、吹き出した。


「急だね。」


悠斗は耳まで赤くなる。


「だ、だってまた会う気がするし……。」


美咲も思わず笑った。


確かに、ここまで偶然が重なると不思議な感じがする。


奈々はスマホを取り出した。


「いいよ。」


「ほんと!?」


悠斗は嬉しそうに笑う。


そのまま三人でLINEを交換した。


奈々は登録画面を見ながら笑う。


「名前、“悠斗❄️”なんだ。」


「冬生まれだから。」


「かわいい。」


悠斗はさらに照れた。



バスへ乗り込む。


外はかなり寒い。


でも車内は暖房が効いていて暖かかった。


奈々は席へ座った瞬間、大きく息を吐く。


「生き返る……。」


「寝そう。」


悠斗も前の席から笑う。


「ぼくもう眠い。」


その時。


奈々がふと小声で言った。


「……今日さ。」


「ん?」


「最初から履いてる。」


美咲は少し笑う。


「スキー場だもんね。」


寒い場所。


長時間移動。


途中で止まれない山道。


不安になる条件が揃っていた。


奈々は苦笑いする。


「最近、“念のため”が完全に普通になってきた。」


美咲も静かに頷いた。



山道へ入る頃には、みんなかなり静かになっていた。


寝ている人も多い。


窓の外には雪景色が広がっている。


奈々は景色を見ながら小さく声を漏らした。


「うわ……すご。」


「ほんと真っ白。」


悠斗も窓へ張りついている。


「雪いっぱい!」


でも、その数十分後。


奈々が小さく姿勢を変えた。


「……っ。」


美咲はすぐ気づく。


「やばい?」


奈々は苦笑いした。


「暖かいと余計やばい……。」


バスの暖房。


朝飲んだホットココア。


揺れる車内。


全部が地味に危険だった。


悠斗も少し困った顔をする。


「ぼくもちょっと……。」


奈々は吹き出した。


「また全員じゃん。」


三人は顔を見合わせ、小さく笑った。



スキー場へ着くと、空気はさらに冷たかった。


白い雪。


リフトの音。


遠くから聞こえる歓声。


奈々はテンションが上がる。


「うわぁ、すご!」


でも滑り始めて一時間後。


奈々は休憩所へ駆け込むように入った。


「寒いっ……!」


美咲も手をこすりながら頷く。


「指痛い……。」


悠斗も鼻を赤くしながら笑っている。


「でも楽しい。」


三人は休憩所の椅子へ座った。


暖房がかなり暖かい。


その瞬間。


奈々の顔色が変わる。


「あっ。」


「どうしたの?」


奈々は真顔だった。


「暖かくなった瞬間やばい。」


美咲も一気に察する。


寒い場所から急に暖かい場所へ入ると、一気に尿意が強くなる。


しかも休憩所のトイレには長い列。


奈々は絶望した顔になる。


「終わった……。」


悠斗も列を見て苦笑いした。


「すごい並んでる。」


周りにはスキー客がたくさんいる。


今さら列へ並んでも、かなり時間がかかりそうだった。


奈々は小さく息を吐く。


「……無理かも。」


美咲はそっと頷いた。


「大丈夫。」


奈々は少し恥ずかしそうに笑う。


それから、暖かい椅子へ身体を預けた。


じゅっ……。


小さな感覚。


じわぁ……っ……


温かさがゆっくり広がっていく。


奈々はぎゅっと目を閉じる。


「……はぁぁ。」


張っていた感覚が少しずつ消えていく。


休憩所は賑やかだから、自分にしか分からない。


そのあと、暖かい空気と混ざるように、少しだけ空気が変わる。


奈々は顔を赤くした。


「……やっぱちょっと分かる。」


美咲は苦笑いする。


「暖房効いてるから余計ね。」


悠斗も少し照れながら笑った。


「ぼくもやばいかも。」


奈々は思わず吹き出した。


「連鎖してる。」


悠斗も椅子へ座り直し、小さく息を吐く。


「あっ……。」


じゅわっ……。


小さな感覚。


悠斗は安心したように肩の力を抜く。


「……助かった。」


その顔を見て、美咲も限界が近いことを自覚する。


暖かい休憩所。


外との温度差。


張っていた感覚が一気に強くなる。


美咲も小さく息を吐く。


それから、そっと力を抜いた。


じゅわぁ……。


温かさが広がり、苦しかった感覚がゆっくりほどけていく。


「……っ。」


奈々が小さく笑う。


「美咲もだ。」


「お互い様。」


三人は顔を見合わせ、小さく笑った。



夕方。


帰りのバスは、行きよりずっと静かだった。


みんな疲れて寝ている。


奈々も窓へ寄りかかりながら呟く。


「……足やばい。」


「筋肉痛確定。」


悠斗も眠そうに頷く。


「ぼくもう限界。」


その時。


奈々のスマホが小さく震えた。


見ると、悠斗からLINEが来ている。


『今日めっちゃ楽しかった!』


奈々は思わず笑った。


『まだ隣いるじゃん』


するとすぐ返信が来る。


『でもLINEしてみたかった』


奈々は吹き出した。


「なにそれ。」


悠斗は前の席から少し照れながら振り返る。


「だって友達っぽいじゃん。」


その言葉に、美咲も小さく笑った。


不思議だった。


最初は偶然会っただけだった。


でも今は、“安心できることを共有できる友達”みたいになっている。


悠斗は眠そうに目を閉じながら言った。


「またどっか行きたい。」


奈々は笑う。


「今度はトイレ近い場所ね。」


「それ大事。」


三人は小さく笑った。


窓の外では雪が静かに降っている。


冷たい冬の日。


でも三人の間には、どこか安心できる温かい空気が流れていた。

第8話「スキー場の休憩所」を読んでいただき、ありがとうございました。


今回はシリーズの中でも、“安心できる関係が日常になっていくこと”をテーマに書きました。


最初の頃の美咲と奈々は、


* 誰にも知られたくない

* 隠したい

* 一人で抱え込みたい


という気持ちが強くありました。


でも今は、


「分かってくれる人がいる」


という安心感が、かなり大きな存在になっています。


特に今回は、悠斗くんとLINEを交換し、“偶然会う人”から“ちゃんと連絡を取る友達”へ変わったことが大きな変化でした。


また、スキー場という場所も、


* 外は寒い

* 中は暖かい

* トイレが混む

* 長時間移動がある


という、不安になりやすい要素が多い場所です。


そんな中でも三人が落ち着いて過ごせたのは、“もしもの時も大丈夫”と思える準備と、“一人じゃない安心感”があったからでした。


最後に悠斗くんが送った、


『今日めっちゃ楽しかった!』


というLINEには、“安心して楽しめた一日”がそのまま詰まっている気がします。


次回も、美咲・奈々・悠斗の少し不思議で、でも安心できる日常を書いていけたらと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ