表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/40

原雪乃

 新潟2歳ステークスレース後。岡田はラディウスの馬主らしい婆さんと、渋い顔をして話をしている。すると着物姿の婆さんがこちらを振り向き、手招きをした。岡田は両手を合わせて申し訳なさそうにしている。俺は自分を指さして確認したが、婆さんはにっこりわらって頷いた。俺は婆さんの方に歩いていく。

「俺に用? なんすか?」

「おい、口のききかたに……」

 岡田を遮って婆さんが言う。

「いいんじゃ、いいんじゃ。かわいい孫の言う事じゃから」

「孫?」

「そうじゃ。きいとらんのか?」

「誰に? 岡田に?」

「いっとらんかったのか! この悪たれ!」

「まさか本当に来るとは思わないだろ、かあ」

「本当に当てにならない息子だわお前は。わしは原春子。ラディウスの馬主で、弘明の母じゃ。つまりお前はかわいい孫じゃ。あいたかったぞ」

 そう言いながら婆さんはにんまりと笑う。

「おばあちゃん? 俺の?」

 俺は突然そう言われても呆然とするだけだ。

「そんでこの娘がお前の婚約者、原雪乃じゃ」

 婆さんの後ろから着物姿の少女が顔を出す。かわいらしいショートボブで、おしとやかそうな印象だ。

「初めまして、アキトさん。雪乃です。よろしくお願いしますね?」

「婚約者ってなんだよ岡田?」

「婆さんが勝手にいってるだけだ」

「勝手とはなにか! この悪たれ!」

「近親婚だぞ! 兄貴の娘なんだから! 時代とアキトの気持ちを考えろ!」

 岡田はそう喰ってかかる。

「迷惑ですか? アキトさん」

「迷惑というか……急に言われても、困る」

 可愛いからなお困る。

「そのうち実家にも顔だしな、アキト。雪乃、汽車の時間は?」

「そろそろ行かないと」

「それじゃあの、アキト。お前が一流の男になったら馬ば回してやる。雪乃もな」

「それじゃあ失礼しますね。アキトさん」

 そう言って二人はその場を後にした。

「ばあちゃんの話なんて俺はきいてないぞ? 岡田!」

「いつか言おうと思っていたが、タイミングがなくて」

「女子の告白じゃねーんだから! タイミングの問題か!」

「すまんアキト」

「婚約者だって?」

「それは婆さんが勝手に言ってることだ」

「本当だろうな?」

「誓って本当だ。俺は冗談だとしか聞いてなかった」

「まあかわいいからいいけどよ」

「いいのか……」

「俺の母親、原春子は松平グループに次ぐほどの大馬主だ。顔を繋いでおいて損はない」

「そうなのか?」

「実家は大規模デパートチェーンでな。兄貴がそこを継いで兄貴の会社でも馬を買ってる」

「持つべきはコネだな。おじさんにもよろしく言っておいてくれ。貸し一つだからなこれ」

「わかった」

 岡田は渋い顔でそう返事をした。思えば俺は親父がどんな環境で育ったのかも知らなかった。そんないい所のボンボンだったとは。

原春子

馬主。アキトの祖母。

原雪乃

家事手伝い

明人の許嫁と言われている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ