編入生と白い制服
小高い丘に建つあかつき学園。あかつき市内では有名な寮完備の中高付属の超進学校。そして、学園の規律は生徒会に委ねられ生徒自身が作っていく自由な校風を謳い、多くの著名な財界人や政界人も輩出している。
「おい、生徒会だぞ」
青々とした芝の上に気持ちよく寝転がっていたのに友人の言葉に現実に引き戻される。
興奮した友人が見ている方向には目もくれず、返事をする。
「今更珍しくもないだろ」
「それはそうだけど、空席だった副会長の座に一年生だぞ。それも編入生」
白い制服は、あかつき学園の生徒会執行部だけに許された伝統の装いだ。
学園の運営権を有し、学生による学生のための運営活動を掲げている。
生徒会執行部はこの一年間、副会長が任命されたことはなかった。
そこに海外から帰国した一年女子が、副会長に大抜てきされた。
「確か、A組。渡草と同じ組だよな」
B組のサボり仲間の澤田の好奇心に満ちた目が突き刺さる。
その目を避けるように寝返りを打って背を向ける。腐れ縁とはよく言ったものだ。腐って腐ってちぎれて欲しいくらい、忘れてしまいたい幼なじみ。
あかつき学園は中高付属の進学校。なので周りも中学部育ちで、高校進学者は大体顔見知りだ。まさか、よりによって、幼い頃、海外へと移住していった幼なじみがあかつきに戻ってくるとは思っていなかった。
そして、同じ学校に来るとは。
安住斎樹。あかつき市の第四小学校の生徒なら知らない者はいない、トーテンポール粉砕事件。
当時通っていた小学校の校庭の隅に誰が置いたのか分からない二メートルほどの高さのトーテンポールが建っていた。
今思えば元々、全体的に腐っていたのであろうソレは斎樹が手を置いた瞬間に根元から折れて、地面に激突すると粉々に砕け散った。倒れた方向に人がいなかったのが幸いだった。
その場にいた遊び仲間の当時七歳だった五人の子供たちの心には手を置いただけで砕け散ったという出来事は強い衝撃とともに記憶に残っている。
翌日からちょっとした伝説として語り継がれた。
その数週間後、海外へと引っ越していった。
次の日に遊ぼうと、約束したまま何も言わずに去っていった幼なじみ。
今でも鮮明に思い出す。桜並木での約束。明日もどんなことをして遊ぶのかワクワクして眠った記憶。
翌日には景色が一変した。
置いていかれ、取り残されたズンと心に沈んだ重い感覚。
不快感を振り払うようにして寝返りを打つ。
閉じ込めていた嫌な記憶を思い出してしまった。
(大体、何であいつが、副会長なんだ?)
同じクラスになっても関わらないようにした。向こうも特に絡んでくるわけではなく、一か月が過ぎていた。
「知ってる? 編入してきた安住さん、隣クラスの亜防くんと付き合ってフラれたんだって」
芝生から起き上がり、渡り廊下にいる女子生徒の話に耳を傾ける。
「トイレの前で大ゲンカしてたやつでしょ?食べてポイされたとか、されてないとか」
「大胆よね。やっぱり帰国子女ってオープンなのかしら?」
「渡草」
澤田に呼ばれ振り返る。するといつも絡んでくる三年生に囲まれていた。いい雰囲気ではない。
「なーんすか? 先輩」
三対一のケンカに巻き込まれ授業もそのままサボり、結局夕方になった。
空が赤く染まるのを見ながら中庭を歩いていると白いロングの上着にロングブーツという学園内では非常に目立つ格好の女子に出くわす。
栗色の長い髪を持ち今、一番話題の渦中にいる安住斎樹だ。
「千影……」
八年ぶりなのに臆面もなく、昔のように呼んでくる。ふと目が赤く涙に潤んでいる。
「泣いてるのか?」
昔はどんなことがあっても泣くようなやつではなかった。いつも何をしてても自信に満ちていた印象があったので動揺している自分に戸惑う。
「千影、ケガしてる。昔と変わってないね」
ケンカはしたが自分がケガしていることには気がつかなかった。
伸ばしてくる手を掴む。予想以上に冷えた手だった。
「それより、何で泣いてるんだ?」
斎樹は言葉に詰まると碧色の瞳からボロボロと大粒の涙を流しはじめる。
「・・・。だって亜防くん。ヒック、私の・・・食べたあと・・・ヒック・・・ポイ捨てにするんだよ」
女子生徒が話していた内容を思い出す。
(あの噂、本当だったんだな)
「思い出したら泣けてきて」
制服の袖で涙を拭いている斎樹に呆れてため息をつく。
「そんなところで拭いたらシミになるだろ。これ使え」
ヨレヨレのハンカチを渡され、顔を上げると千影の姿はなかった。
この後の更新はゆっくりになると思います。ご了承ください。




