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『魔力貯金』を全額引き出した聖女、婚約破棄してきた王太子を無視して隣国の皇帝に全額投資(溺愛)される  作者: 葉山 乃愛


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第8話:強制執行の最終通告と、暴君の純愛

華やかな晩餐会場は、一瞬にして戦時下の司令部へと変貌した。



ステラが放つ純白の魔力が、動揺する貴族たちを鎮めるように会場を優しく包み込む。彼女は宙に浮かぶ巨大な魔力図面を、鋭い手つきで操作していた。



「……レオンハルト様。王太子ユリウスが起動した『飢えた魔石』は、すでに国境を越え、帝国の第一防衛線までその触手を伸ばしています。このままでは、領民たちの生命力が根こそぎ吸い上げられてしまいますわ」



「……奴め、そこまで落ちたか」



レオンハルトは漆黒のマントを翻し、傍らに控える将軍たちに短く命じた。



「全軍、迎撃準備。ただし、魔力兵装は使用するな。敵は魔力を餌にする怪物だ。物理破壊と、ステラの援護のみを信じろ」



「御意!」



騎士たちが一斉に駆け出す中、レオンハルトはステラの細い肩を抱き寄せた。



「ステラ、お前はここで指揮を執れ。現場は私が――」



「いいえ、レオンハルト様。私が行かなければなりません。あの魔石を止めるには、私がこれまで積み立ててきた『正の魔力』を、あえて過剰に流し込む必要があるのです。……いわば、悪質な負債を、圧倒的な資本で相殺デッド・エクイティ・スワップするのですわ」



ステラの決然とした瞳を見て、レオンハルトは苦笑した。



「……相変わらず、可愛げのない例えをする。だが、お前がそう言うのなら、私はそのための道を作るだけだ。……私の背中から、一歩も離れるなよ」



「はい、マイ・パートナー」



二人は帝都最強の飛竜に跨り、夜空を切り裂いて国境へと向かった。



国境付近は、まさに地獄絵図だった。

王都から溢れ出した赤黒い霧が、草木を枯らし、家畜をミイラのように干からびさせていく。その中心に、右腕が岩石のように肥大化したユリウスが浮遊していた。



「ハハハ! 見ろ、ステラ! これが真の力だ! 貴様がケチ臭く貯め込んでいた魔力など、この魔石の渇きに比べれば塵に等しい!」



ユリウスの足元には、もはや人としての形を保てなくなったルナが、力なく横たわっていた。彼女は最後の一滴まで生命力を吸い取られ、枯れ木のようになっている。



「ユリウス殿下。……あなたは本当に、数字も、等価交換の原則も理解していないのですね」



飛竜から降り立ったステラは、レオンハルトの影から一歩前へ出た。



「その魔石は『無限の力』ではありません。単に、将来の生命力を超高利貸しで前借りしているに過ぎない。……今のあなたは、返済不能な負債を抱えた、ただの破産者ですわ」



「黙れ! 負け惜しみを! 死ね、ステラ!!」



ユリウスが肥大化した右腕を振り下ろすと、どす黒い魔力の奔流がステラを襲う。



だが、レオンハルトがその前に立ちはだかった。彼は抜刀した。その剣は、ステラが今朝、彼のために『最適化』したばかりの、帝国の誇る聖剣だった。



「――私の投資家に、汚い負債を押し付けるな」



レオンハルトが一閃すると、黒い魔力は真っ二つに切り裂かれ、霧散した。

ステラの純白の魔力が剣に宿り、魔石の呪いを無効化していたのだ。



「なっ……なぜだ!? なぜ私の力が通用しない!?」



「答えは簡単ですわ。あなたの『負債』より、私の『資本』が上回っているからです」



ステラは両手を広げ、これまで帝国で培い、王国から回収してきたすべての魔力を、一箇所に集約させた。



「これが最後通牒です。……ユリウス・フォン・魔法王国。あなたの魂を、担保として強制執行いたします」



ステラから放たれた光の柱が、ユリウスと魔石を貫いた。

それは攻撃ではない。あまりにも純粋で、あまりにも膨大な魔力が、魔石の「空腹」を強制的に満たしてしまったのだ。



「ガッ……あ、あああぁぁぁ!! 腹が、体が……熱い、熱すぎる!!」



飢えきった魔石は、ステラの清らかな魔力を受け入れられず、内側から結晶化して砕け散った。同時に、魔石と癒着していたユリウスの右腕も、光の粒子となって霧散していく。



「……お、俺の、俺の王権が……私の、世界が……」



地面に叩きつけられたユリウスは、もはや魔力を持たないただの人間以下の存在だった。彼の髪は白く染まり、その顔には数十年分の老いが刻まれていた。前借りした生命力の「利息」が、一気に彼を襲ったのだ。



「……終わりましたね、レオンハルト様」



ステラが静かに告げると、レオンハルトは彼女を背後から優しく抱きしめた。

彼の体温が、極限まで魔力を行使して冷え切ったステラの体を温めていく。



「ああ。……見事だった、私の賢い投資家よ。……これで、お前を縛る過去はすべて消えた」



レオンハルトは、項垂れるユリウスを一瞥もしなかった。

彼にとって、もはやこの男は視界に入れる価値すらない塵だった。



「さあ、帰ろう。帝都では、お前の帰りを待つ民たちが大勢いる。……そして、私も、お前と話したいことが山ほどあるんだ。契約の話ではなく……もっと、個人的なことをな」



レオンハルトの低い声が、ステラの耳元で甘く響く。



夜明けの光が、国境の荒野を照らし始めた。

王国の滅亡と、帝国の真の繁栄。そして、一人の少女が本当の愛を見つけるまでの物語は、ここから新たな一歩を踏み出す。



だが、ステラはまだ気づいていない。

レオンハルトがこの戦いの最中、自分に万が一のことがあった場合、帝国全土をステラに相続させるという『遺言状』を密かに作成していたことを。



彼の愛は、ステラの想像を遥かに超える、重く、深い『終身投資』だったのだ。


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