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『魔力貯金』を全額引き出した聖女、婚約破棄してきた王太子を無視して隣国の皇帝に全額投資(溺愛)される  作者: 葉山 乃愛


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第4話:返済請求書と、帝国の宣戦布告

「……それで、これが隣国からの親書か?」




帝国の謁見の間。レオンハルトは、届けられたばかりの羊皮紙をゴミでも見るような目で一瞥し、無造作に放り投げた。




そこには、魔法王国の王太子ユリウスの名で、傲慢な要求が書き連ねられていた。

『我が国の魔石が枯渇したのは不可抗力である。隣国としての義務に基づき、至急、特級魔石百個を無償で供出せよ。拒否すれば武力による制圧も辞さない』。




「……驚きました。隣国はこれほどまでに、情勢が見えていないのですね」




レオンハルトの傍らに立つステラが、困ったように眉を下げて溜息をつく。

彼女は今、レオンハルトが自ら選んだという、夜の海のように深い青のドレスを纏っていた。地味だった灰色のドレスを脱ぎ捨てた彼女の姿は、帝国の武官たちが思わず息を呑むほどに、気高く、そして美しい。




「ステラ、安心しろ。こんな無礼な紙切れ、返事をする価値もない。……ただちに軍を動かし、国境を封鎖する」




レオンハルトが低く殺気を含んだ声で命じようとした時、ステラがそっと彼の腕に触れて制した。




「いいえ、レオンハルト様。返事は出すべきですわ。ただし――私の『返済請求書』を同封して」




「返済請求書?」




「はい。私が十年間、あの国に無償で預け続けてきた魔力の利息を含めた総額です。……計算してみましたが、王国の国家予算の三百年分ほどになりますね。それが支払えないのであれば、担保として『王家の全権』を差し押さえる。そう伝えればよろしいかと」




ステラは優雅に微笑みながら、一枚の書類を差し出した。

そこには、彼女が王国時代に秘かに記録していた『魔力貸付台帳』のデータが、緻密に書き込まれている。




レオンハルトはその書類を一読すると、不敵な笑みを浮かべた。




「なるほど。力による制圧ではなく、経済と道理による完全な破滅か。……いいだろう。これほど痛快な贈り物はない」




レオンハルトは即座に筆を執った。

そこに記されたのは、宣戦布告にも等しい、最後通牒だった。




その頃。

魔法王国の王都は、すでに地獄の様相を呈していた。




結界が消滅した外縁部からは低級の魔物が侵入し始め、街の灯りはすべて消え、夜は完全な闇に包まれている。

国民たちの不安は怒りへと変わり、王宮の前では「聖女を出せ!」「結界を元に戻せ!」という怒号が昼夜を問わず響いていた。




「殿下……帝国からの返書が届きました。……し、しかし、その……」




使者の震える手から奪い取るようにして手紙を読んだユリウスは、その場で凍りついた。




「な……魔力返済請求……? 貸付台帳だと……!? ふざけるな! ステラのような無能が、何を持ってこんな出鱈目を!!」




ユリウスは手紙をびりびりに引き裂き、叫んだ。

しかし、その手紙に同封されていた、ステラ独自の魔力署名サインが施された契約解除証書を見た瞬間、彼の背筋に冷たいものが走った。




その署名から溢れ出す圧倒的な魔力の残滓は、昏睡している妹ルナのそれとは比較にならないほど、純粋で、強大で、そして神聖なものだったからだ。




「まさか……まさか、本当に……。あの女が、すべてを……?」




ユリウスの脳裏に、灰色のドレスを着て常に自分の影に隠れていた、地味な婚約者の姿が浮かぶ。

自分を敬い、何を言われても静かに微笑んでいたあの少女が、実はこの国のすべてを支配していた神そのものだったのではないか。




その疑念を肯定するかのように、王宮の地下から地響きが鳴り響いた。




ステラが貸し付けていた魔力の『残滓』すらも、彼女の請求に応じて帝国へと引き寄せられ始めたのだ。

王宮を支えていた最後の魔法的補強が消え、玉座の間の壁に、決定的な亀裂が入る。




「おのれ、ステラ……! 卑怯な真似を! 許さん、絶対に許さんぞ!!」




狂ったように叫ぶユリウス。

だが、彼にはもう、それを止める術はなかった。




一方、帝国の庭園では、月明かりの下でレオンハルトとステラが静かに語り合っていた。




「ステラ。もしあの国が、すべてを返すと縋り付いてきたらどうする?」




レオンハルトの問いに、ステラは夜風に髪をなびかせながら、きっぱりと答えた。




「まさか。一度解約した口座を、二度と開くつもりはありませんわ。今の私の『全財産』は……もう、ここ(帝国)に投資すると決めていますから」




レオンハルトは、彼女を壊れ物を扱うように抱き寄せ、その額に誓いの口づけを落とした。

それは、暴君がただ一人の投資家に捧げた、永遠の忠誠の証だった。


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