表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いずれ花咲くオルフェーブル  作者: 朝日 橋立
一章め いずれ花咲くオルフェーブル
19/20

十九話め 計略とその実行について

 眼前にはタコのような存在があった。

 彼は私を見ると、顔を顰めたように思われる。タコの表情というのは分からないが。


「ぼくに君みたいな子に浪費する時間はないんだけど」


 嫌味のような言葉に、少し笑えてしまう。

 私よりもこの怪物の方が人間らしいではないか。


「本当の願いというのを見つけたんです」


 静かな部屋に私の言葉が響いた。

 もう摩耶たちは帰ったようで、この部屋には私と彼しかいなかった。


「へえ」


 適当な相槌に、全く期待していないことが分かった。

 きっと彼はまた私が嘘を吐くと考えているのだ。

 楓先輩と出会うことがなかったらその通りだったろう。


「私を魔王にしてください」


 胸がすっとする思いだった。

 タコの腕が蠢く。

 蛍光灯のジーという音が響く。

 今日は私が嫌いな夜らしい夜だった。


「それが可能だと思っているのかい?」


 小馬鹿にした調子であるが、正気を疑う色を感じた。

 実際私もそのように思うことだろう。


「魔王とまでいうのですから、この世に沢山は存在できないでしょう」


「ああ、うん。同時に一人だけだ」


「だったら私を魔王にして、一生幽閉してください」


「それで君に一体何のメリットがあるんだい? これは契約だ。あくまで僕と君との対等な関係で結ばれるものだ」


「これは対等ですよ。貴方も利益があって、私にも利益がある」


 あの虫けらの魔物の気持ちが分かったような気がした。

 あれも私と同じで何者でもなかった。

 だから彼は私を食べることが叶わなかったのだ。

 何者でもないのに、沢山のことを行おうとしたから彼は失敗したのだ。


 私は同じ轍を踏むつもりはさらさらない。

 これから私はスポットライトの端っこに当たり続けられる。

 主役でもない。でも、主役の視界に映り続けるのだ!

 私の演技はここで実ったのだ!


 タコは苦虫をかみつぶしたように言う。


「ああうん。分かった。うん。どうやら本当にそれが願いみたいだね。それも純粋だ。気味が悪い」


 この嫌悪した目は暗に私を人間ではないと言っていた。

 しかし、それを人間でないお前が言うことは出来ない。

 摩耶だって、佐久良だって、ましてやモニカだって言えない。


 ただ私が人間であるかというとそれも違う。

 私はあの虫けらだった。

 蛹とか蕾とか言われるものだった。





 ──────────

 ────────

 ──────





 私はこの短い期間のことを幸福だったというだろう。

 これは後生変わることはない。


 ここで色々なことを学んだ記憶がある。

 一つは幸福の実在によって不幸が生まれること。

 一つは強い光は容易に他者の目を惑わることである。


 私は私の生まれを不幸と思わない。

 モニカという名前も好きだった。

 それに小説というのも好きだった。何だか自分が違う存在になれたような気がする。


 でも、自分が違う存在になりたいとは思わない。

 王というものがあるそうだ。

 これが何かは分からない。ただ私の脳内にずっとある。

 一つの囁きが私に示唆する。しかし、一体どうして私が私を捨てる理由になるだろう!


 私は私が好きだった。

 私の周りの人が好きだった。

 一体どうして私の不幸を受け入れるだろうか。

あと一話でおわるはずです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ