十八話め 胸のドキドキと
部屋の扉を開けると、想像したよりも荒れていない室内に驚いたと思う。
というのもモニカの話では爆発という言葉が出てきていた。
焼け焦げるどころか家ごと存在しないことを考えていたが、実際にこのように多少散らかっている部屋が残っている。
さて、部屋の中心にいる人と目が合う。
彼女は目を丸くしていて、私はどうにも溜息が漏れそうになってしまった。
この溜息というのは、ひとえに自己嫌悪によるものだった。
「こんばんは。楓先輩」
目を伏せた彼女に声を発した。
私はこの時まで、彼女がこの前の虫のような得体のしれないモノであることを願った。
これは別に裏切られたとか、信用したかったからとか、そういった陳腐なもののためではない。
「アズサ、貴方は騙されてる」
私の期待を裏切る声がした。
勝手に期待して落ち込むというのも、何だか彼女に申し訳なく思われた。
「騙されているですか。どうして私を騙す必要があるんでしょう」
モニカのことを頭に浮かべながら問いかける。
楓先輩も承知の上といったように答える。
「それは分からないけど、あれは人間じゃない」
「人間でないのなら何者でしょうか?」
「それは……」
この時別の声が答えを引き継いだ。
その声は少年に近い声だった。
「魔物だよ。それも魔物の王、いうなれば魔王になりうる魔物だ」
「魔王?」
「何世紀に一度現れる魔の手だよ。話したことなかったけ楓」
楓先輩が初耳だという様子で言葉を発した。
彼女らはそれから言葉を幾許か交わした。
さて、一つの計略が芽生えたのはこの時だった。
それも今まで考えついた全てに勝る名案で、これさえできれば私は全てにおいて幸福になれる。
そしてモニカも幾分か自由になりうる余地が生まれることだろう。
このように考えてみると、一石二鳥である。
窓からは明るい月光が射している。
それは楓先輩を照らしている。
スポットライトは彼女に当たっていた。
再び電車に揺られている。
終電がもう少し先で助かった。
周りは眠っている人ばかりだった。
制服を着た私がどうしても浮いているように思われた。
掲示板が次の停車駅を映す。
胸に手を当てる。ドキドキと高鳴っている。
この時に一つの気づきを得た。
私の周りの、何者かである人は真人間ではなかったらしい。
モニカがそうだ。
摩耶も佐久良も、楓先輩もきっと人間ではない。あの協力者たちを考えると尚更そうだろう。
そう考えると、如何なる行為も正当性を得たような気がした。
私の周りにいる怪物たち、それらのために私は行動するのだ。
私が怪物になればよいのだ。
たぶんラストまで走り切ります。




