おもちゃで遊ぼう!
ダツダツと独特の足音が水面のようにこの鉄と遥かなスチームパンク摩天楼に響くのが常だ。いい加減耳障りだ。けど結構新鮮でレアとも取れる。標高幾何か見当もつかない星と太陽に手が届きそうな高さで武骨で背中に冷や汗を誘うような不安げがセットな螺旋階段を登るだなんて。
足音は……消せねえなあ。いや意識すればいいけど、足に負担ヤバくてつる。だからやめた。
それにしてもやはりやばい。
最初はそりゃあ下を見ると足がすくみそうだったが慣れって凄いね。もう何とも思わない。
これは俺が鈍感なのだろうか、いやきっと順応性とかが軍での訓練で培われているのだと思いたい。そうでなければストレス耐性だ。健全優良少年の俺が何が嬉しくてそんな耐性を得るというのか。世の不条理を今一度声を大にして叫びたい。恋人への愛はもっと叫びたい。もういっそ貧乳でもいいから。うんちっぱいさいこー。……そのうち精神汚染検査受けさせてもらおう。PTSD発症しそう。あいつらは知らないのだ、俺がガラスのように繊細で広い宇宙の中で出会えることが奇跡のような儚い幻想的存在だということを。
そうこの新宿ダンジョンの30層台の景色のように。
まるで雲の絨毯の景色を見れば今にも天使とか女神さまが降臨してもおかしくなさそう。まさに俺にふさわしい。
出てこい薄着でへそ出しふくらはぎがかわいい女神様。勝利の女神ってんならスカートたくし上げてパンツの一枚でも拝ませろっての。
むらむらしてきておかしくなりそうだ。
それにしても男というのは自分で装着するわけでもないのにどうしてこれほど女ものの下着を欲するのだろうか。世界の神秘だ。
本当にここは自分がさらけ出されて試されている気がする。神への道の険しい聖なる一歩。そこにふさわしい景観と構造を調和で保っている。挑戦者もそれにふさわしい人間にならなければ上に目指す資格がないと言わんばかりだ。あふれる神聖さに心が洗われる思いだ。いや、もとから清く正しい俺に汚れた心など一部の隙もない。
「あーちょっと腹痛くなってきたな。トイレトイレ……ああ」
いやーにしてもここ酷いな。まさに糞溜めだ。欠陥住宅もいいとこだよ。誰が作ったんだ馬鹿もんめ‼ 足元も含めて建造物がすべて金属とかよくわからん石柱でトイレすらねえ。公衆トイレ以下だぞここ。排泄して最低限のエチケットで穴掘って埋めようと考えてたのにそれすらできないとか。
小便する時も空からフリーダムじゃん。
いや、そりゃあ男たる者一度や二度小便を遠くまで飛ばす競技? をするもんだけどこれって競技違反じゃないの? ルールというか競技として確立すらしてないけど。
先駆者たち、よく我慢できてるなあ。もしかして馬鹿なんじゃないかな? あ! だから遭難してんのか‼
ああ、糞‼ 馬鹿どものことを考えてたらトイレに来たのに何しにトイレに来たのか忘れたみたいになっちゃったじゃないか。生まれて初めてだぞトイレにきて何しにトイレに来たのか忘れたの。
歩いて登ると上下に数メートル間隔空いて並んだワイヤーが3本ほど遠く向かいの柱に繋がっているのが見えた。またもや地獄の遊園地の乗り物に乗る時が来たのだ。
入場料払った覚えはないんだけどなあ。とんでもないアトラクションにタダで乗れるもんだ。
周囲を見る。鉄鉄、鉄くずばかり。不安が掻き立てられて当然だ。
特にそれらしい施設とかはない。今から空中のお散歩にしゃれ込むっていうのに、スキーのリフト乗り場みたいな専用施設も特にない。
ロープを握る。やはりかなり心もとない。小さな子供の腕のようだ。これにすがって命を懸けるなんて不安じゃないわけない。
まあ最悪落ちそうになったら俺は翼を出して飛べばいいのだが。
ここでの移動時間はざっと2分強らしい。けれどチュートリアルはもう始まっている。ここら付近から移動を始めれば31~39階層で最も厄介な飛行する敵が攻撃を行ってくる。
敵については詳しい資料があった。ここを過去に狩場として稼いでいたから専用に資料を作っていたみたいだ。
名前:ラブリーエンジェル竹中
発見及び命名者 竹中 哲夫
新宿ダンジョン31層から出現する飛行型機械モンスター。31層以上で螺旋階段や中間地点、特に移動機構を利用すると多く出現する。
形状は人型を模し、露出した頭頂部装甲に天使の輪っかのような見た目の青白く光るプロペラで飛行する。両腕には個体差で様々な武器を持っているが初期階層の方では強力なものは持っておらず注意すれば簡単に処理できる。注意しなくてはいけないのは下半身の蜂のような形状になっている先端から鋼鉄製の網を射出してくること。射程は短く射出前は尾先が膨らむため事前に対処しやすい。
尚これ以降の階層では主に飛行形態の敵はこのモンスターの改造アップデート版が主に登場する。
正式名称が不評なためスカイキラーの方が一般的に使われている。因みに素材をギルドや企業に売却する際に糞竹中と言っても通じる。
そして弱点や部品ごとの売却金額など詳しく乗っていた。
他にもこれに関するアルゴリズムや物理的科学的見解、大学の論文の索引だとか難しいことが山ほど乗っていた。
竹中ぶっ殺すとも乗っていた。
うーん、やっぱろくな奴じゃないんだな冒険者って。モンスターの方もアホに発見されたからアホみたいな名前を付けられるだなんて同情する。こんな狂ったところに来るやつだなんて頭のネジが数本ぶっ飛んでいるような奴ばかりなのも納得だ。
向こうの柱を見やる。広間スペースの天井付近、装飾のように何か埋め込まれて点滅しているが、どうもあれがそのようだ。近づくと起動して攻撃してくる。しかも歩兵の方。先ほど倒したサイボーグが向かいにも居てそちらも攻撃してくるのだろう。因みに歩兵の方のモンスター名はエッジャー。
うんよかろう。策を弄するのもいいけど、何も考えないで突っ込むのもありのままの自分としていいだろう。元々俺は何も考えないで勘と思い切りの良さに自力で勝負するタイプだ。
一番上のワイヤーを伝って移動する。当然、待ってましたとばかりにモンスターが起動して動き出すのが見えた。
前方に鈍い色の光が尾を引いて飛沫のように飛び散って向かってくる。
俺は今持っているワイヤーから離れて、その下のワイヤーに移動……でなくてスルーして一番下のワイヤーに敢えて落ちて、足首太ももひざ下太もも、そしてケツに食い込むな、おし食いこまなかった、そこの部位でワイヤーを受けて反発力で飛び上がって真ん中のワイヤーに乗る。
距離があるから見てから敵の飛び道具を避けられるが、それじゃ駄目だ。相手の手の角度とかを見て撃たれる前にある程度予測を付けて避ける。着地狩りを狙って相手も予測して撃ってきているから。これが双方の距離が近づけば発射から着弾までのラグが無くなって余裕がなくなる。ある程度速さに目を慣らさないといけない。
ちょっとした弾幕ゲーだ。こういうのはあれなんだろうか。BGMに合わせて避けるって感じ?
タンタンタタターンって、ああ全然テンポがねえ。全然思うとおりに行かない。音楽性の違いだろうか。こいつら解散しそう。俺なら抜ける。
スカイキラーの独特な、蜂というよりやはり少し大きめなガソリンエンジンの農業用マシンを高音域に持っていたような飛行音。揺れる視界の中で近づいてきているのが見える。これは俺の、俺だけにしかわからないかもしれな表現だが背筋が凍るような悪寒一歩手前、臭いものを嗅いで顔をしかめるような感覚。危険だけど、そこまで危険じゃない感じ。
ギターを弾くように跳ねて一番上のワイヤーを掴むふりしてそのまま落下。
一番下のをつか―――やはり駄目だ。全てのワイヤーから手を放してそのまま下に落ちていく。見方によっては一番下のワイヤーからも落ちた間抜けだが今回はこれでないと切り抜けられそうになかった。そこでもう耳元まで迫って唸ってきたボウガンを避けて用意していた改良型の紐で復帰をする。
この紐は軍の戦技研で改良してもらったのだ。カーボンなんざよりモンスター素材とか生態素材を組み合わせた方が質が良いというのは驚きだ。素人の俺が作ったより強度が違う。
それにしてもやばいな。この敵さん、俺より少しだけどアウトレンジの戦いが上手い。そんなのがチュートリアル的階層でうじゃうじゃ出るのか。まだ使う気がなかったのにこんなところで使うことになるとは。
ここはそういった戦場か。奇襲や有利な地形、正面じゃない。不利な状況でそれを巻き返す自力が試される。
飛んでくるスカイキラー。もうすぐそこだ。
背嚢からスリンガーを出す。左手は必然的にワイヤーで右手でしか扱えない。単発。勿論手数は足りない。
射出。当然弾速は相手のボウガンより俺のが遅い。俺が相手のを見て避けられるように相手も当然避ける。けどいい。
俺の射出した球がまさにパカーっと、というかこれはただ単にゲーセンのガチャガチャのカプセルを改造したものだ、それが開く。
重量を増すために家庭用セメントを会社のおっさんが園芸用にあったのを盗んで入れて、そこにさらに回路基板を入れて予め指定していたたった一つのシンプルな開くという動作が簡易操作できるようにしたものだ。
名前はカプセルラズベリーボムにしようか迷ったが俺は少し野暮ったくパイパイボムとした。まあ、ボムって言ってるけど爆発しないんだけどね。爆発物は持ち歩きたくないもんね。
これはただ開いたセメント入りカプセルの上下に紐がついていて繋がっているだけ。
要は紐の両端に質量のある物体が取り付けられているのだ。
回路基板も純正品でなくていい。ジャンクショップの千円割っているのとか、工業学校が廃棄で出したのをパクッて改造する。
それがまさに開いて、スカイキラーの飛行器官に襲いかかる。
別に倒せなくていい。
ようは飛べなくしてあとは下にまっさかさまに落ちて行ってもらえればいい。
扇風機が紐を巻き込んだような音がして、さらに両端にある重しが遠心力で振り回されてゴッ、と鈍い音を立ててスカイキラーが落ちていく。
それでも敵を倒した達成感はない。寧ろ、焦る。かなり敵がこちらに近づいてきている。
だから敢えてカプセルを割って足に落とす。足でフラフープを回すように、スリング弾を回転して手数を増やして牽制。ここからは子供が水の入ったバケツを振り回して遊んでいるように、ワイヤーを回転しながらアクロバットに時に回転し、時に上下のワイヤーに移り、回避を読まれないように紐で乱数回避をしていく。
遂にスカイキラーが接近してきた。接近したともいうのか接近を許したというのか。その結果は勝利を制したものが決めるだろう。
資料が正しければスカイキラーはある程度距離を詰めてくると網を射出してこちらを落とす、または行動不能にしてくる。
流石のマシンというべきか。学習能力が高い。こちらの軌道を読んで、すり抜けるというかはごり押しで仲間を盾にして通ってきた。こういうところは素直にいいな。一にして全。死の恐怖がない機械野郎の特攻。
けど俺はまだガチャポンの中身をまだ使っていない。もったいないおばけの上位互換であるもったいないドラゴンである俺は余すことなく有効活用するのだ。
因みに中身はヨーヨーのガチャポンだ。
ここでの変化球。人を俺のことを甲子園の貴公子と呼ぶ………ってことにならないかな。投げられるのチェンジアップしかできないんだけどね。
シュルルルと死角の空中真横からヨーヨーに絡み付けられたスカイキラーは当然避けられない。
絡みついたそれをワイヤーに絡まないよう空中でぶん回す。
ガシャンがシャン‼ 空中で次々に敵に当たって落ちていく。
やっぱ俺確実に強くなってる。そう確信した。




