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飯泥棒、現る!

拙いですが、よろしくお願い致します。

 シュウの両親を弔った後……


 誰か残っていないかと思い、村の中をくまなく探してみたが……

 他の村人は一人として見つからなかった。

 恐らく、あの男の仲間たちに連れ去られたのだろう。

 これだけ探して見つからないのだから、きっとそうだと思う。

 シュウには残念だが、私たちはそう考えることにした。

 それにしても、連中が何者で、何が目的なのか、全く掴めなかった。

 唯一分かっていることは、奴らには主人がいて、主人の指示でこの村を襲ったということ。

 壮大な計画のため……か。

 壮大な計画って、なんなんだろう?

 人の命を平気で踏みにじらなければならない程、大義なことなのか?

 それとも、そこまでしなければ成し得ることのできないことなのか?


 何れにしても、何か邪な考えがあるように思えてならない。


 なんて考えながら歩いていると、手頃な岩があったので、私はそこに腰を下ろし、空を仰いだ。

 どこまでも透き通る青空が広がっている。

 鳥たちが翼をはためかせ、雲が行くあてもなく空を進んで行く。

 そこから目を落とせば、命が蹂躙された村の焼け跡が見える。


 なんだろう、この何とも言えない、モヤっとした気持ちは。


「はぁぁぁぁ……」


 私はため息をついた……

 それからまた、いないはずの住人を探し始めた。


 日が暮れ始め、辺りが薄暗くなり始めた。

 私たちは何とか屋根が無事だった家屋を見つけ、そこで一晩過ごすことにした。

 焚き木は他の家屋の軒下に積まれていた物を拝借し、この家まで運んできた。

 もう使う者もいないだろうし、少しくらいならいいだろう。

 囲炉裏があったので、そこへ薪をくべて初級の火系魔法を唱える。

 指先から小さな火が灯り、少しずつ薪に火が燃え移っていく。

 程なくして薪から火が上がり始めた。

 パチパチと火花を散らしながら、火が大きくなって行く。

 やはり火があるといい。

 揺らめく炎が心を紛らわせてくれる。


「火がついたか」


 ラグ殿が外から戻り、囲炉裏の側に腰を下ろした。

 シュウはずっと私の横にくっついたままだ。


「ラグ殿。村の人は……」


 私の問いかけに、ラグ殿は首を横に振った。

 それを見ていたシュウは泣きそうな表情で俯いてしまった。


 無理もないな……


 私はそっとシュウの肩に手を置き、自分の方へと引き寄せた。

 シュウは力なく私に寄り掛かってきた。


「シュウは暫くそうしていろ。俺は夕飯でも作る」


 ラグ殿はそう言って私が持っていた雑嚢を探った。

 雑嚢は萎んであり、ラグ殿の手が動いているのが布の上からでも分かる。

 残っている食料はわずか。

 ラグ殿は雑嚢から僅かな食料を取り出すと、土間に降りて炊事場から鍋を持って来た。

 ついでに食器も洗って手にしている。

 大きい皿が二つに、小さい皿が一つ……

 きっと小さな子供がいたのだろう。

 シュウの友達だろうか?

 ラグ殿はそれで作れる料理を作り、私たちは食事にありついていた。


「……」

「…………」


 無言だ。

 誰も何かを話そうとはしない。

 まぁ、当然だろう。

 こんな雰囲気でどんなことを話せば良いのやら……

 ここは黙って食事を進めるに限る。

 夕食の後は、ラグ殿と今後のことを相談しないといけない。

 それにしても、朝方見たラグ殿は凄かった。

 相手より速く動くのは当然のこと。

 更にそれを上回るほどの剣速で敵をなぎ倒していく。

 何度も思うが、私もあぁなれるだろうか?

 その為には、毎日の鍛錬は欠かせないが……

 夕食が済んで、これからのことを話し終えたら少しは稽古が出来るだろうか?


 …………


 いや、きっと今日は稽古はないだろうな。

 私は横目でチラッとシュウを見た。

 ハフハフと言いながら、貪るように食事を摂っている。

 この少年の今後を考えないといけない。

 その為の相談もラグ殿としなければ……

 となると、稽古どころではないか。

 うん、仕方ないことだ。

 私はそう自分に言い聞かせた。


「……味はどうだ、シュウ」


 ラグ殿がおもむろに口を開いた。


「うん、美味しい」

「そうか……」

「すまんな、少なくて」

「大丈夫」


 だが、シュウとの会話はそれで終わってしまった。

 ラグ殿は何のために話しかけたのだろうか……?


「ラグ殿……」

「いや、普段はエリーだけだからな。違う奴が食べた時にどうなのか、と思ってな」

 

 うん、これは不器用ながら、ラグ殿の気づかいだな。

 味はどうかと聞かれれば、誰でも「美味しい」と言うに違いないだろう。「まずい」と正面切って言う奴は大した度胸だ。


 優しい、けれど不器用。

 ラグ殿らしい。

 今朝方の出来事があったきり、緊張が続いていたからな。


 あぁ……



 私、思わずほっこりしちゃった……




「それで、今後についてだが……」


 ガサリ……


 ラグ殿が話すや否や、家の外から物音が聞こえた。

 私は咄嗟に横に置いていた剣を手にした。

 ラグ殿と言えば、既に腰の剣に手を伸ばし、いつでも戦えるよう膝を低くして構えている。


 しまった……

 迂闊だった! 火を焚けば、外に灯りが漏れるのは当然!

 もう、敵はいないだろうと勝手に考えていた!

 戻って来ようと思えば戻って来れるはずなのに!


 私とラグ殿は、お互いに物音がした暗がりの向こうへと視線を向ける。


 あれ?

 何だか既視感があるな、これ……


 ガサリーー


 また音がした。

 私も構えを取り、いつでも剣を抜けるよう、柄を握る。


 ガサリ、ガサッガサ……


 何だ、一体何が近付いているんだ?

 私の頬を汗が伝う。

 あの男の仲間か?

 ならば、シュウは何としても守らねば……

 私はシュウの体を隠すようにして自分の体を前に出した。

 ジリジリと近付いてくる物音はガサリからチャリチャリと、何かの足音のように変わった。

 焚き火の灯りは、この家屋の入り口付近まで照らし出している。

 その入り口に音の主が近付いたとき、ようやくその正体が分かった。


「やぁ、君たちは……誰かな?」


 暗がりの向こうから現れたのは、金色の髪を肩まで伸ばした優男だった。

 身長はラグ殿より大きい。

 だが、頬は痩せこけ、全体的に体の線が細い。

 着ているものと言えば、ダボついたローブに、薄汚れた上下の服。

 あり大抵な背格好の男である。


「お前こそ何者だ?」


 ラグ殿が尋ねつつ、剣の柄を握ると、男は慌てて両手を前にして横に振りまくった。


「ちょ、ちょっと待って! 僕は敵じゃないよ! 味方味方! ていうか旅人だよ旅人!」

「……?」

「この大陸を旅してる途中でこの村に寄ったら、いきなり襲われたの! ほんとビックリしてさー、慌てて隠れたんだけど……」

「エリー、こんな奴いたか?」

「……い、いえ」


 おかしいな。

 しっかり探したけど、こんな男はいなかったはず……倒壊した家の中はよく見えなかったから、そこにいたのだろうか?

 それにしても、よく見つからなかったなぁ。

 どう見ても間抜けだろ、こいつ。

 早々に捕まりそうなのに見つからなかったとは運のいいやつ。


 何にしても今頃出てくるなんて……


「あーーーーー!」


 男はいきなり声を上げるなり、囲炉裏の方へ向かって走ってきた!

 私たちが警戒して構えると、その脇を勢いよく通り過ぎ……


「め、飯だーー!」


 と鍋の前に身を乗り出し、手にはいつのまにか匙があるではないか!

 いや、ちょっと待て。

 まさかお前……


「うぬぉぉぉぉぉぉ! ふ、ふ、ふ、ふはひーーー!(うまい)」


 な、なんとこの男……!

 鍋ごと食事を口の中にかき込んでしまったではないか……!


「あ」

「き、貴様……!」


 シュウが顔を引きつらせ、ラグ殿の眉間にシワがよる……

 せっかく作った料理が、それも少ない材料から作った料理が、面識もない初対面の旅人にがっつかれるとは……


 何をしてくれてるんだ、こいつは……!!

 ラグ殿がせっかく作って下さったのに!


「ぷはー! いやー、美味かったぁ! あ、あれ?」


「それは良かった。本当に良かった」

「おい貴様……最後の晩餐は美味かったか?」


 ラグ殿と私は静かに剣に手を掛けた。


「いやいやいや、ちょっと待ってよ! どうしてそんなに殺気が溢れてるんだい? 僕が何をしたって言うんだ!?」

「貴様の胸に手を当てて聞いてみろ。もっとも……」


 シャランと鞘から剣が抜かれた。

 光る刀身に、怒り溢れるラグ殿の顔が映る。

 ついでに言うと、私の顔もだ!


「貴様に弁解の余地などない!」

「ひ、ひええええぇ! お助けぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 こうして、いきなり現れた自称旅人の男に食事を奪われた私たちは、腹が鳴るのを我慢しつつ、夜を明かすこととなった……


 因みに、シュウを連れての旅だが、これ以上続けるのは危険と判断した。

 ちょうどこの村の近くに街道があることを飯泥棒の男から聞いた私たちは、そこを通って一度バルト国に戻ることにした。


 実は、シュウの村はバルト国の国境に位置しており、私たちはいつのまにかバルト国内に戻っていた。

 そのことを知ったとは、後々になってからである。

 ラグ殿は確かに地図を持っており、私たちはその地図に沿って進んでいたのだが、私たちが目指していたのは、シュウの村とは別の場所だったのだ。


 バルト国を出立しておよそ半年。

 まさか、こんなに早く帰国することになるとは。


 お嬢様……

 お元気でしょうか?

ここまでお読み下さり、ありがとうございます!

皆様からのブクマ&評価はとても励みになり、モチベーションアップに繋がります。

どうぞ、よろしくお願い致します!

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