弔い
少し長くなりましたが……
ラグさん、無双しまくります!
「おいおい、随分舐めた真似してくれるじゃねぇか」
門の奥から、ズラズラと大勢の賊が姿を現した。
先ほどの賊共と同じような目つき、出で立ち。
間違いない、こいつらは仲間だ!
その大勢の賊たちの集団が横に割れると、奥に一人の男が立っている。
男はゆっくりとした足取りでこちらへと近付いてきた。
他の者と同じような格好だが、明らかに雰囲気が違う。
先程、ラグ殿に倒された連中なんかよりも、何倍も格上だと私でも分かる。
こいつは……
涼しい顔で人を殺せる人間だ……
「大事な道具だったんだがな。お前のせいで使い物にならなくなっちまった」
男は門のところで立ち止まるとそう言った。
その言葉に、ラグ殿の肩がピクリと震える。
ラグ殿は男を睨み付けた。
「何故……、あの二人を殺した?」
「あぁ? あの二人?」
そう言い、男は後ろを振り返った。
「あー、あの二人か! あー、そうかそうか。そうだったなぁ」
そして私たちに振り返る。
醜下さった歪んだ笑い顔を浮かべながら……
「不要になったから処分したんだが……、それがどうかしたか?」
「「!?」」
その男の答えに、ラグ殿も私も驚きが隠せなかった。
何と言った? 不要? 処分?
こいつ……人を何だと思って……
「き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!」
私は怒りのあまり、抱き止めていたシュウから手を離し、腰の鞘に手を伸ばした!
そして柄を握ったその時……
ラグ殿が私の肩に手を置いた。
「何故……この村を襲った?」
「ん?」
「何故、この村を襲ったのかと聞いている」
「あぁー、どうしてこの村を襲ったのか、だと?」
ラグ殿の質問に、男は肩をすくませ、惚けるような態度で答えた。
そして、ニヤリと笑ってみせた。
「折角だから教えてやろう。それはな、我が主人の命だからだ」
「主人……だと?」
「我が主人の壮大な計画を実現するために人手が必要でなぁ。この村はそのために選ばれた。死ぬまで我が主人のために働けるってわけよ! どうだ! 少しは光栄に思ってほしいねぇ」
「自分たちの思想実現のためならば、人の命などどうなっても構わないというのか?」
「人!? 人だと!? 違う、こいつらは道具だ! 道具は消耗する。だから常に替えが必要だ。あの二人がそこのガキを逃したと聞いた時は正直肝を冷やしたが……」
男は惚けた態度をやめ、その代わりにシュウに向かって微笑みを浮かべた。
「ガキ、良くやった。きっちり二人分の補充を連れてくるとは、上出来だなぁ」
クククと、また下卑た笑い声を出す。
「くっ……! こ、この……」
男にそう言われたシュウの顔が真っ赤に染まって行く。
ワナワナと体が震える……
「シュウ? ダメ!」
「うるさぁい!」
すると、シュウは私の手を強引に振り解き、男に向かって駆け出してしまった!
「シ、シュウーー!?」
「このぉぉぉ! よ、よくもおっ父とおっ母をーーー!!」
泣き叫びながらシュウは走っていく!
まずい! あの男の近くに行ったら、あの子は確実に殺されてしまう!
私は再度腰の剣に手を伸ばし追いかけようした。
その時ーー!
ヒュン! と一途の風が舞うかの如く、ラグ殿が駆け出した。
そして、一瞬でシュウに追い付き、彼を抱き抱えてから、元いた場所へと戻って来た!
「あ……」
ラグ殿はソッと、シュウを私のそばへと降ろした。
「折角助かった命だ。無駄にするな」
「け、けど! あいつらは僕のおっ父とおっ母を……!
そう言い、震えながら激昂するシュウの頭の上にまた、ラグ殿は優しく手をポンと乗せ、クシャクシャっと撫でてみせた。
「言ったはずだ。お前の両親の仇は取ると」
そして、微笑み、真っ直ぐな目をシュウに向け、頷く。
あぁ、そうだ。この目だ。
ラグ殿がこういう目をする時は、守るべき物がある時の目だ。
あの時……
クロノシア国に向かう私たちを助けてくれた時も同じ目をしていた。
「エリー、この子を頼む」
「は、はい!」
「何も心配しなくていい、シュウ」
シュウにそう話し掛けた後、ラグ殿は男に視線を向け、睨み付けた。
「何だぁ、その目は?」
睨まれた男は不機嫌そうな表情をしている。
ラグ殿が睨み付けたことがそんなに気に入らなかったのだろうか。
「道具風情がごちゃごちゃと……、どうやらキツくしつけねぇといけねぇようだな」
男が右手を肩程の高さ程に上げると、後ろからゾロゾロと黒い集団が、男の横に広がるようにして出て来た。
男の部下か仲間か……、あんな人数がまだいた?
いくらラグ殿でもさすがにこれは多勢に無勢ではないか?
「ラグ殿! 相手の数が多すぎます! 私も一緒に……」
「問題ない」
そう言ってラグ殿は腰に下げていた剣を外すと、私に渡して来た。
「ラグ殿!?」
そして前へ前へと歩み出ていく。
な、何を考えているんだ?
武器も持たずに敵に向かっていくなんて!
「ーーラグ殿!」
「あぁ? 舐められたもんだな、武器は使わないのか?」
「……貴様ら如きに剣は必要ない」
そう言ってラグ殿は道端に転がっていた木の枝を拾い上げ、
「これで十分だ」
と言った。
確かに、木刀くらいの長さや太さはあるのだろうが……
真剣と木の枝では、到底敵うはずがない!
何故そんなことを!?
「ちぃ! この野郎、舐めやがって! 死ねぇぇぇぇぇ!?」
すると、ラグ殿の行動を眺めていた賊の一人が激昂しながら斬りかかって来た!
先程、確かにラグ殿はほぼ素手で相手を倒していたが、それを見ていたのだろう。
素早い動作で頭上から剣を振り下ろすのだが……
ラグ殿はその一閃を避けると同時に、賊の腹に真一文字の払いをぶつけたのだ!
同時に、木の枝も折れてしまった!
「うぐぉ……」
賊の口から、血の混じった吐瀉物が吹き出す!
ボキリという音も聞こえたから、どこかの骨も折れたのだろう。
賊はその一撃で意識まで刈り取られ、地面に倒れ伏した。
「貴様……」
男の目が細く、鋭くなる……………
と同時に、場の空気が一気に重く、冷たくなった……
あの男から、凄まじいほどの殺気が放たれている……
けど、それ以上に……
「調子に乗りやがってぇぇぇぇ……五体満足で死ねると思うなよ」
「……御託はいい」
「テメェら! 奴を殺せぇぇぇぇぇ!」
男の叫びが合図となり、右から、左から、地面が揺れているのかと錯覚するほどの足音が轟き、集団はラグ殿に向かっていく。
「オリャァァァァァァ!!」
雄叫びを上げながら斬りかかってくる賊!
先程の賊よろしく、大きくジャンプしながら剣を振りかぶる!
ラグ殿は素早くしゃがみ込むと、倒れた賊の腰から鞘を抜いた。
そして、すぐに低く構えを取り、素早く前に躍り出たかと思うと、鞘を賊の足に叩きつけた!
「っいつっ!?」
空中でバランスを崩した賊。
ラグ殿は鞘を素早く引くとバランスを崩した賊の顔面をそれで薙ぎ払った!
ギュルギュルと錐揉み状態で賊は地面に叩きつけられ、動かなくなる。
そこからラグ殿は駆け出し、集団の中へと突撃していった!
自分たちの腰よりも低い姿勢で動き回るラグ殿を、賊たちは捉えきれていなかった。
足、下腹部、背中、と次々に鞘を叩き込んでいき、相手が膝をついたり動けなくなると、空かさず首や側頭部を鞘ではたき散らす。
中には首の骨が折れ曲り、泡を吹いたり痙攣を起こして倒れる者もいた。
賊たちも負けじと剣を振るが、賊の剣速よりもラグ殿の方が早い。
次々と動きを止められ、地面に沈んでいく賊。
気が付けば、その数は既に半数ほどに減っていた。
「……な、何?」
男は驚き、口をあんぐりと開け、「まさか」と言った顔でその光景を眺めていた。
ラグ殿は賊を倒しながら進み、村の入り口をくぐっていく。
私もシュウを連れ、ラグ殿の後を追った。
村の入り口を潜ると、外からは見えない中の様子が分かった。
入り口から連なるように並ぶ家屋は、その殆どが打ち崩され、中には煙が上がっているところもある。
先程見えた煙はこれだったのだ。
シュウの両親が吊るされている木は、村のシンボルだったのだろうか。
ちょうど入り口を潜った先に広がる広場の中央に聳えていた。
「あ……」
と私が声を上げたのも束の間。
先ほどラグ殿が倒した賊は十人ほど。
始めに見たとき、賊共は二十人ほどだったと思ったが、どうやら違ったようだ。
男の周りに賊が集まっていたが、その数がいささか増えていた。
ざっと……、三十人はいる?
どれだけ潜んでいたんだ?
「ちっ、手駒が減っちまったじゃねぇか!」
ラグ殿を睨み、男は唾を吐いた。
「だが、まぁいい。お前ら、あの男を何としても仕留めろ!」
「その前に教えろ」
ラグ殿は男の言葉に被せるかのようにして問い掛けた。
「お前たちの主人の目的は何だ? どうしてこんなことをする?」
「さっきも言っただろ。壮大な計画のために……」
「強き者は弱き者を救うために剣を振る」
「は?」
「我が師の教えだ。力という者は己の私利私欲のために振るうものではない。自分よりも弱い者を護るために使うものだ。俺は師よりそう教わった」
「だから何だ! いちいち気に食わないことを言いやがる!」
「貴様らは間違っている。いや、貴様らの主人が間違っている。力というものは……」
「やかましいわぁぁぁぁぁぁ!」
男は体を屈め、声を荒げた。
ラグ殿に詰め寄られたのが余程腹立たしかったのだろう。
怒りで形相が変わっていた。
「弱い者が強い者に淘汰されるのは当然! 死にたくなければ強くなればいいだけのこと! 弱肉強食のこの世の中で、誰かに護ってもらうなど、甘ったれにも程があるわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「そうか、分かった」
ラグ殿は再び……、いや、先程よりも低い!
片足は膝をつき、片足は伸ばせるだけ伸ばし。
上体は地面を這うように平行に曲げ、顎先は地面につきそうになる。
まるで地面を這って進むかの如く、低く構えを取っている。
そして……
「貴様らと話すことはもうない」
そう言うと、ダン! と膝をついていた方の足で地面を蹴り、賊の集団に詰め寄っていく!
その速さは先程と比べるまでもなく速い!
いや、速すぎる!
もちろん、賊はラグ殿の速さを捉えきれていない。
何人もが手にした剣をラグ殿目掛けて振るう!
が、そのときには既にラグ殿は近くにいない。
ラグ殿の姿を見失ったが最後。
相手の死角に回ったラグ殿はすかさず相手の急所へと鞘を叩き込んでいく!
膝を割られ、股間を潰され、鳩尾を突かれ、胸元を突かれ、背骨を折られ、喉を潰され、頭部を割られる……。
必ずどこかに鞘の連打が注ぎ込まれ、体を破壊されて、血を吹き出しながら倒される賊たち。
ラグ殿が駆け抜ける度に、賊はバタバタと薙ぎ倒されていく。
それこそ、あっという間にーー
あっという間に、村の中は血を吹き出しながら寝転がる賊の姿で溢れ、遂にはあの男とラグ殿だけが対峙していた。
「な、な、な……」
「お前で最後だ」
男の表情はその光景を信じられないと言い、顔からは汗が吹き出しており、ラグ殿は鞘の先を男に向けている。
「お、おお、おま、お前は一体何者だ?」
「お前に答える義理など持たん」
「け、剣士だろお前! 剣士が剣を使わんとは、は、恥を知らねぇのか!?」
「貴様らなどに剣を使うこと自体が恥だ!」
ラグ殿はそう言って、男の両膝を鞘で叩いた。
「ーーな!?」
パコンと小気味良い音が響くと、男は膝を地面について崩れ落ちた。
男は手をついて立ち上がろうとする。
が、どうやら膝の皿を割られたらしく、足に力が入らないようだ。
まったく立てそうにない。
「ーーそれはこの村の分だ」
ラグ殿はそう言って鞘を大きく振り上げると、男の背中に真っ直ぐに叩き込んだ!
「これは、シュウの母親の分!」
ボギン!!
と骨が折れたような音がこだました!
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
男は嗚咽をあげながら倒れ込み、痛さのあまりバタバタともがいている。
もがきながらも、ヒィヒィ! と喘ぐような息遣いが聞こえる。
「さて、これで最後だ」
ラグ殿はもう一度木刀を振り被った。
それを聞いた男は、ラグ殿を見上げ懇願した。
「ま、待て! 待ってくれ! もうやめてくれ、やめて下さい! お願い、やめて! た、たた、たの、頼むから、もうーー」
男はラグ殿に涙声でそう訴えてきた。
だが……
「そうして命乞いをする者を、お前たちは殺してきたんだろうーー」
「え?」
「自分の番になってようやく理解したか? 殺される者の心境を」
「ーーーあ……」
ラグ殿の低い声に恐れおののいたのだろう。
男の目が大きく見開かれた。
「当然の報い、甘んじて受けろ」
「ひ、ひ、ひ、ヒャァァァァァァァァァァァァァァァァァ……………」
「これは、シュウの父親の分だ」
ヒュッと鞘が音を立てる。
私はとっさにシュウの目を手で覆い、私自身も目を閉じ、その場面から逸らした。
バキン! と何かが割れたような音と、グチャリと何かが潰された音がほぼ同時に聞こえて来た。
しばらくして……
ゆっくりと目を開けてみると……
ラグ殿がザッザと、男の顔面に土を被せているのが見える。
シュウに見せたくないのだろう。
掛けられた土の中からは、ジワリと何かが染み出してきた。
ラグ殿が私たちのところへと歩み寄ってきた。
その顔は普段のラグ殿だ。
良かった……、正直、怒っているラグ殿の顔を見るのは怖い……
私はラグ殿が元に戻り、ホッと胸を撫で下ろした。
そして、シュウの目を覆っていた手を静かに退けた。
シュウの目からは涙が溢れており、ヒックヒックとえづいていた。
ラグ殿は、シュウの前まで来ると、視線を合わせるようにかがみ、膝をついた。
「シュウ、終わったよ」
ラグ殿はシュウにやさしく話しかけ、頭に手を乗せると、クシャクシャ撫でた。
「待たせてすまん。さぁ、お前の両親を弔ってやろう」
ラグ殿がそう言うと、シュウはまた泣いた。
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