忍び寄る敵7
「アイザック。降ろして」
鋭い口調のミッシェルにアイザックは難色を示す。
「持病持ちは大人しく抱かれていろ」
だっ……だかれて……?
思わず赤面してしまう。
「何ですか。そのいかがわしい表現は。止めて下さいよ」
思わずそう叫んでしまう。
「ん~何となく抱き心地の良い体だったからな」
抱き心地……。
「また。表現が悪いですよ」
更に顔が赤くなるのを自覚してしまう。
「お前って百面相みたいで面白いな」
アイザックに茶化されてしまい、益々 膨れてしまう。
「余計なお世話です。正直アイザックと話をしているとペースが乱されて困ります」
プンとそっぽを向くミッシェルに『そこが可愛いんだがな』とアイザックは思ってしまった。
「取り敢えず、本当に降ろしてもらえませんか?もう大丈夫ですので」
私がそう言えばアイザックは渋々と降ろしてくれた。
「だけど、足がふらつくと大変だから手は離さないからね」
そう言うとアイザックは私の右手を引く。
うわーっ。
滅茶苦茶恥ずかしい。
今日の夕刻にお兄様と抱き合ってもこんな風に思わないのに。
繋いだ手から自分の鼓動が伝わるのではないかと凄く焦る。
しかし、そんな私の気も知らずアイザックは私の手を引きながら階段を降りて行く。
何故私がこのタイミングで起きたかと言うと、半径500メートルの範囲に敵意を持った者が近付くと覚醒する様に普段から魔術を張っているからなのだ。
故に前方にいる男達からは殺意は感じられない。
今夜は無視していて大丈夫だな。
そう当たりを付けて極力ゆっくりとアイザックには降りて貰う。
だってかち合ったら、いくら相手に今夜は相手をする意志がなくっても、そうならざるおえないからだ。
多分アイザックも気付いている。
故にゆっくりと降りている。
問題は私から半径500メートル以内にいる殺気だっている方だ。
こう建物が隣接していると場所の特定が面倒なんだよね。
それに多分探りを入れると相手にも気付かれそうだし……。
そう思いため息を吐く。
目が覚めた時に感じた方向からすると、トウワ国の使者達が泊まっている方だと思う。
確実に明日仕留めに来るな。
そう思いアイザックを見た。
丁度下に着いた所でそのまま塔の外へと出る。
「親友と夜通し酒を飲みながら他愛ない話をするのが夢だったんだ」
何の脈絡もなくアイザックが話始める。
「騎士団の若い連中の話を聞いていて何時も思っていた」
「ジャックとはそう言う事はしないのですか?」
「ジャックは従兄弟だし、変な所で身分を考える様なヤツだ。ミッシェルはそういう事を考えないだろう?」
貴族なのだから身分については考えている。
でも、アイザックが言いたい身分 云々(うんぬん)は多分そう言う意味ではないのだろう。
「そうですね。友人に身分は関係ないと思ってはいますよ」
そこは一応同意しておこう。
すると、私の返答がお気に召したのかアイザックは上機嫌になる。
「年代物のワインと新作の甘いワインがあるが、どちらが良い?」
年代物って……おいくら?
ちょっと怖くて聞けない。
「甘い方でお願いします」
無難な返事をしておく事にした。
但し、私の今の失言の盲点は『甘い』お酒は進みが良い事を知らなかったと言う所だった。
そして、後から後悔するのだ。
お読み頂きありがとうございます。
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