忍び寄る敵8
アイザックの部屋まで戻ると既に就寝時間になっていた。
と言っても21時を少し回った所なのだが。
既に護衛達も下がらせ今はアイザックとジャックと私の三人で酒盛り……もといワイン盛りをしている。
「こうやって酒を交わし合うのは初めてだな」
そう言ってグラスを差し出すアイザックとジャックに御酌をする。
ええ。
いいです。
どうせ私は小間使いですから。
注がれたワインは濁りもなく清んだ紫色をしていた。
「ワインの他にも果物のお酒を色々と取り揃えている」
そう言ってアイザックはテーブルの側の大きな棚を見る。
確かに凄い量のボトルが並んでいる。
「いつか皆と飲もうと思って密かに揃えていたんだ」
アイザックってどんだけ友達に飢えているのかしら。
真面目に心配になって来た。
しかし、先程魔力を大量に消費してしまっているので正直アルコールは有難い。
魔力とアルコールは意外と相性が良いので回復薬にもなる。
意識を半分寝せながら回復させよう。
そう算段をとると自身にもワインを注いだ。
「では、我々の友情に」
アイザックがそう言いながらワイングラスを上に掲げる。
それに習いジャックと私もワイングラスを上に掲げた。
一口口に含むと柔らかく甘い葡萄の香りが口内に充満する。
「美味しい。それに、なんて飲みやすいんだろう」
思わず感嘆の声を上げてしまった。
「美味しいだろう。私の直轄地自慢の新商品だからな」
自慢気にアイザックが説明する。
「結構な売れ行きで在庫がもうない程なんだ」
そう言ってアイザックは紫の液体を楽しそうに眺める。
そう言えば王子達は各々に王家から領地を貰っているんだっけ。
「一応成人して婚姻を済ませたら臣下に降る事になっているからな」
そう言ってアイザックはジャックを見た。
「私は嫡男ではないが、父が持っている伯爵位を貰う事になっている。領地は少ないからアイザックの補佐をしながらという話になっているんだが、ミッシェルはどうする?」
ジャックはそう言うと私の方を見た。
勿論アイザックの取り巻きについている私をジャックは当然ついて来るものと思っている様だが、しかし、私は女性なので父が持っている爵位のどれかを貰う事はない。
それよりも嫁に行かねばならないのだ。
これって正直に言わなきゃならないのかな?
言うなら何て言えば良いのか?
真面目に悩んでいるとアイザックが苦笑混じりに言葉をかけて来る。
「私と共にとは言わないから安心して良い。ミッシェルはミッシェルの道を進めば良いよ。私に捕らわれる事なんてないんだから」
アイザックはそう言ってグラスを一瞬で空にした。
「ミッシェル。もう一杯」
「はいはい」
そう言って私はアイザックのグラスに再びワインを注ぐ。
「ところでミッシェル。レイモンドはあの試合以降何か言って来ているかな?」
本当なら『言い寄る』と質問したい所だが、そこは自制心が働いたと言うべきか。
「いえ。私に敗れたのがよほど効いたのか何の音沙汰もないです」
あんなに睨んでいたんだから、それでモーションをかけて来るようなら、なかなかの御仁だと思う。
あれ以来何の音沙汰もない。
平和な事だ。
「そうか……」
アイザックはそう言うと手の中のグラスを揺らす。
「実はレイモンドは女性との噂もさる事ながら男性とも少し噂があるんだ」
それって……
「………………」
「そう言う集まりがあるらしいのだが、そこに良く行くらしい」
アイザックは私を見ながら悲痛そうにそう言う。
「男性が男性を……ですか?」
あのタラシ男が?
「ミッシェルはそう言う人種をやはり差別するのか?」
いつになく熱心に聞いて来るアイザックに一瞬 怯んでしまう。
「そう言うって、つまり同性愛の事ですよね」
確認する様に言えばジャックが
「男が男を?有り得ないだろう。なぁアイザック」
とアイザックに同意を求める。
何故かアイザックが少し考えている。
もしや、友達がいなかった為に何か拗らせている系?
そう思いアイザックを見ていたら。
「いや、気にしないでくれ」
とそっぽを向く。
何か地雷でも踏んだか?
あぁ。
ジャックか……。
アイザックって男友達いなくて拗らせてるっぽいからね。
そう思い生暖かい目で二人を見てしまった。
まぁ。
非生産的だが、婚約者には被害が少ないだろう。
自分も相手を選ぶ時にはその辺りも気を付けなくては。
こう言うの何て言ったっけか?
あぁ。
そうそう。
反面教師だよ。
アイザックには今日は色々と教えられたな。
そう思い半分の意識を残して魔力回復へと身体の休息を計った。
多分あんな事になったのは、全てこのせいなんだと思う。
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